新規事業やコミュニティづくりに挑む人にとって、社内の理解を得ることや、限られた予算・人員で成果を出すことは、常に大きな壁です。思うように前へ進めず、孤独を感じる瞬間も少なくありません。だからこそ、同じ立場で挑戦を続ける人たちが集まり、経験を分かち合う場には価値があります。
NTTでオープンイノベーション推進とスポーツ事業創出の両方を経験してきた中村正敏氏をゲストに迎えました。「組織の外から組織を動かす」というテーマのもと語られたのは、15年にわたる挑戦の軌跡と、その一つひとつに付いて回った「想定外」の連続でした。当日のセッションと質疑応答の内容をレポートします。
「担当者」から「外に出る人」へ ― オープンイノベーション推進の原点
中村氏はNTT入社後、約20年にわたりマーケティング部門で外部との仕事に携わってきました。量販店やゲームメーカーなど大手企業とのアライアンスを担当するなかで自然と身についたのが、「社外8割・社内2割」という働き方だったといいます。
「事業をつくるためには、社内にいてはなにも起きない」
この考えのもと、中村氏は自身のチームでもメンバーが社内にいないことを理想としてきました。上司や役員から批判的な声を向けられることもあったといいますが、それでも「本気で事業をつくろうと思うなら、忖度している場合ではない」という姿勢を貫いてきたと振り返ります。
2014年、この働き方の延長線上でオープンイノベーション推進室を立ち上げました。当初はたった一人からのスタートでした。
最初は予算10万円のアイデアソンからのスタート
推進室で最初に手がけたのが、当時国内であまり例のなかった「テレビ的ハッカソン」やIoT関連のアクセラレーションでした。予算はわずか10万円ほど。それでもメーカー各社を巻き込み、同じ時期に開催されていた京都のスタートアップイベントを上回る、1,000人規模の集客を実現したといいます。
その後、社外に一般社団法人を設立し、大企業とベンチャーが競い合うイベントも主導しました。ただし、中村氏は「事業化には至らなかった活動がほとんどだった」と率直に振り返ります。
しかし、そこで得られたものは事業そのものではありませんでした。ハッカソンをきっかけにNTTへ入社した人材、社団法人の活動を通じて出会い、のちに一緒に会社を立ち上げることになった仲間――。想定していた成果は出なかったものの、想定していなかったコミュニティの価値が、後の展開を支えることになります。「想定はほぼ想定通りにはならない。動いた結果にしかならない」。中村氏はこの言葉を、セッションを通じて繰り返し口にしました。
半年間売上ゼロ。コロナ禍で挑んだ新規事業「NTT Sportict」
中村氏のキャリアの集大成として語られたのが、2020年2月に設立を決めたAIカメラによる自動撮影配信の新会社です。プロスポーツではなく、地域のアマチュアスポーツを「カメラを持たなくても撮影・配信できる世界」にすることをミッションに掲げました。
意思決定のタイミングで新型コロナウイルスの感染拡大が始まり、4月には緊急事態宣言下での正式始動という異例のスタートに。社員と一度も顔を合わせないまま会社が動き出し、頼みの綱だったスポーツの試合そのものが軒並み中止となりました。
「仕事がない」という状況に対し、中村氏らが選んだのは、全国の学生スポーツ百試合を無償で配信するという決断でした。利益は度外視。半年間、売上はゼロのまま資本金を食いつぶしながらも、活動を止めなかったといいます。
現在では事業領域を広げ、アジアのオリンピック・パラリンピック関連での採用やスタジアムへの導入が進むなど、スポーツテック企業として着実に実績を積み重ねています。「失敗とチャレンジの連続だったが、『どうしてもやりたい』という熱量が周囲を巻き込み、困難を突破する原動力になった」と中村氏は振り返りました。
組織を動かすための「3つの問い」
セッション後半は参加者との質疑応答形式で進行し、組織の中で新規事業やコミュニティづくりに取り組む担当者ならではの悩みが交わされました。
外部人材をどう組織に引き込むか
中村氏が意識してきたのは、スキルや経験よりも先に「面白い」と感じられるかどうかだといいます。「この人は面白い」という直感が、最初のハードルを越えさせる。組織への定着は一気に進めるのではなく、スーツからポロシャツ、ジーンズへと段階を踏むように、少しずつ慣らしていくことが有効だったと語りました。
上層部をどう説得するか
社内の報告・連絡・相談だけでは、上層部はなかなか動かない。むしろ効果的だったのは、他社の幹部からの評価など「外部からの評判」だったといいます。また、公式な会議の場よりも、食事などリラックスした状況での軽い会話のほうが、意思決定者の記憶に残りやすいとの実感も共有されました。
大企業の期待値と、現場が実現できる規模とのギャップ
新規事業には10億円・100億円規模の成果が期待されがちですが、3〜5年でそれを実現するのは現実的に難しいと中村氏は指摘します。経営トップが会見で語る数字も、あくまで期待値や可能性を示すための説明にすぎない場合があると率直に明かしました。現在のNTTでは、ゼロからの大型投資よりも、保有アセットを活用した地域のB2B DXなど、小さく始める方向性への傾斜が見られるといいます。
「異能」を集めることが、新しい価値になる
セッションを通じて中村氏が繰り返し語っていたのは、想定通りにいかないことを前提に、それでも動き続けることの大切さでした。大企業に馴染みにくい「異能」な人材ほど、世の中を変えてきた――その仮説のもと、社外に飛び出し、仲間を集め、失敗を重ねながらも事業の種をまき続けてきたのが、中村氏の15年だったといえます。
「たった一人、おもしろいと思われるかどうか。それが事業のきっかけになる」という言葉に、その姿勢が凝縮されていました。
おわりに
今回のイベントを通して印象的だったのは、中村氏が成功談だけでなく、事業化できなかった挑戦や、半年間売上ゼロだった日々まで包み隠さず共有していたことでした。新規事業やオープンイノベーションに正解はありません。だからこそ、同じ挑戦を続ける仲間と出会い、経験を分かち合えるコミュニティの存在には、大きな価値があります。
Hack Osakaについて
Osaka Innovation Hubを中心に、大阪市・JETRO大阪本部などが主催する国際イノベーション会議「Hack Osaka」。2013年から毎年開催されており、スマートシティやヘルステックなどをテーマに、国内外のスタートアップや投資家が集う場となっている。 Osaka Innovation Hubの立ち上げに携わった吉川氏は、シリコンバレーでの経験から着想を得て、人と人をつなぐ「Human hub」という考え方のもと、市内10カ所のハブ整備を推進。現在は食やスマートシティをテーマに取り組んでいる。
イベントのご案内
主催イベント

生成AIによる自社リソース起点の事業アイデア創出
日時:2026年10月22日(木)13:00-14:30
https://20261022-addlight-seminer.peatix.com/
登壇イベント
弊社代表の木村が登壇するイベントをご紹介いたします。
①GSE2026サイドイベント「Kansai GX Co-Creation Forum」
日時:2026年10月5日(月)13:00〜17:30
https://luma.com/enks1wnl
②グリーン・サステナブルテックショーケース2026 ~新規事業・新製品開発のタネがここにある。未来を創る素材・製品・技術を見つけよう~
日時:2026年10月30日(金)13:30〜14:30
https://ebis.obda.or.jp/service/505163/detail
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