今回のイベントでは、NTT西日本が運営するオープンイノベーション施設「QUINT BRIDGE」を会場に、九州大学大学院芸術工学研究院准教授の徳久氏を講師に迎え、「生成AIによる情報収集と新規事業」をテーマに、事業会社が生成AIを活用してイノベーションを生み出すための考え方や具体的な手法について講演いただきました。
講演では、新規事業開発のプロセスそのものを振り返りながら、生成AIをどこに組み込むことができるのか、そしてAIと人間がどのように役割を分担すべきなのかが、具体的なデモンストレーションを交えながら紹介されました。
1. 生成AIによって、新規事業開発の「試行回数」を増やす
まず示されたのが、人間中心設計をベースとした新規事業開発のプロセスです。
調査、分析、問題定義、アイデア創出、評価、プロトタイピング、実装といった工程は、必ずしも一方向に進むわけではありません。特にソフトウェアやサービス開発では、テストの結果によって調査や分析に戻るなど、行き来しながら精度を高めていきます。
そこで生成AIを各ステップに活用すると、従来と同じ時間の中で「もう一度やってみる」ことが可能になります。徳久氏は、各ステップの効率化によって試行可能数が増加することを、生成AI活用の大きな可能性として説明しました。
ただし、重要なのはAIだけではありません。自社でしか持っていないドメイン知識と、イノベーションプロセスに関する専門知識を掛け合わせ、それを生成AIへの指示に落とし込む。これによって、より確度の高いアウトプットを得ることが狙いです。
では、その知識を使って、そもそもどのように事業機会を探すのでしょうか。
2. 事業機会を探る3つの起点
講演では、新規事業の起点として「リソース」「技術シーズ」「人間」の3つが紹介されました。これは便宜上の区分で、技術シーズも広い意味ではリソースに含まれます。リソースとは、自社が持つスキルやナレッジ、知識、そしてどのような企業とパートナー関係にあるか、といったものです。一方、人間起点では、人が抱える悩みや課題から事業機会を考えます。
まずリソース・パートナー起点では、「自分が何者なのか」「何を知っているのか」「何を持っているのか」「誰を知っているのか」という観点で自社のリソースを整理します。講演ではリソースワークシートを生成AIに読み込ませ、それを制約条件として、次に狙うべき市場のベスト5を検討。製造業、サプライチェーン、サステナビリティ、トレーサビリティ、データ基盤市場などが候補として示されました。
続く技術シーズ起点では、技術シーズから新規事業をつくる24のステップを背景理論として紹介。その中でも「市場を細分化して理解する」「足がかり市場を決める」という初期段階の作業を生成AIに行わせました。
そして人間起点では、デザインシンキングを背景に、人間の悩みや課題から事業機会を探索します。現象学、エスノグラフィー、エスノメソドロジーなどが背景理論として紹介されました。
3. 情報収集からフィールドワークへ
事業機会の候補が見えたら、次は情報収集です。
講演では、マクロ環境・ミクロ環境の分析に加え、ファイブフォース分析や時系列分析を生成AIに行わせました。時系列分析では過去5年と今後10年を対象にトレンドを分析し、文献もリスト化。AIの出力を検証しやすくする工夫も示されました。
さらに、市場について分かった後には「実際にどこへ現場調査に行くのか」という問題が出てきます。そこで活用するのがアクターネットワークです。
アクターネットワークでは、ビジネスに関わる人、組織、制度などのアクターと、そのつながりを可視化します。これを使ってフィールドワーク先を絞り込む方法が紹介されました。実演では、自社のリソースに加え、既存事業との接続度、戦略的優先順位、短期・長期といった条件も考慮し、調査先の候補を検討しています。
ここで情報収集は、単に情報を集める作業ではなく、市場を理解し、「次に誰に会うのか」「どこを見るのか」という現場での行動につながっていきます。
4. 集めた情報をアイデアへ――AIが広げ、人が絞り込む
最後に紹介されたのが、現場で得たインタビューデータを事業アイデアへつなげる方法です。
講演では、10数名分のインタビューデータを生成AIに読み込ませ、定性的な内容分析を実施。そこからカテゴリー、コード、具体例を抽出しました。さらに、その結果をもとにサービスアイデアを50個生成し、「サービスオペレーション」「サービスエクスペリエンス」「サービスアーティファクト」「サービスの価値」という4つの要素で整理しました。
ここまでの実演を通じて示されたのが、生成AIと人間の役割分担です。
徳久氏によれば、生成AIは情報を拾って可能性を広げる「探索」が得意です。一方で、候補を絞り込むこと、ハルシネーションを確認すること、情報を解釈することは、現時点では人が担う必要があります。
つまり、生成AIに答えを一つ出させるのではなく、自社の知識と新規事業開発の手法を組み合わせてAIに探索させる。そして、広がった可能性を人が検証し、絞り込んでいく。この往復が、今回の講演で示された生成AI活用の姿です。
おわりに
今回の講演から見えてきたのは、生成AIを使って新規事業の答えを出す方法ではありません。
自社のリソースから事業機会を探し、市場を分析し、フィールドワーク先を検討し、インタビューを分析し、そこから複数のアイデアを生み出す。その一連のプロセスを効率化することで、次の仮説を試す余地をつくることです。
生成AIが得意な「広げる」と、人が担う「絞り込む」。この役割を意識しながら、自社ならではの知識をAIとの対話に組み込んでいくことが、事業会社における生成AI活用の一つのポイントになりそうです。
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