業務改善プロジェクトはどのように始まるか
業務改善プロジェクトが発足されるきっかけは大きく2つに分けられます。一つ目は役員など上席からの指示、二つ目は現場社員からの提案によるものです。
業務改善が役員から提起される場合には、経営管理、製品別損益の可視化といった経営目線での課題解決が中心になります。一方で、現場社員から提案される場合には、フリーデスク化などの働き方改善や、業務プロセスの改善など、現場目線での課題解決が中心になります。いずれの場合も業務改善プロジェクト発足時に解決すべき主要な課題は決まっているものの、具体的なゴールや道筋がはっきりと見えておらず、とかくプロジェクトの始まりは混沌としています。
そこで重要になるのがプロジェクトの始め方です。混沌としたプロジェクトの開始地点からどのようにプロジェクトを安定飛行させるのか、本コラムではプロジェクトの始め方について詳しく掘り下げていきたいと思います。
業務改善プロジェクト開始にあたり考慮すべきポイント
業務改善プロジェクトの始まりにおいて何をどのように進めれば良いのかがはっきりしていないため、なかなか開始されない、なんとなく始まってしまうなどが見受けられます。プロジェクトを安定飛行させるために考慮すべきポイントを5つ挙げます。
- 方向性とゴールを設定する
- 体制をつくる
- 期待値を知る
- タスクを洗い出す
- スケジュールを引く
いずれもプロジェクトの立上げにあたって不可欠と考えられる項目ですが、各ポイントが十分に考慮や議論がなされていない、あるいは共有されていない、オーソライズされていないといったケースがあります。プロジェクトが順調に立ち上がったかように見えても途中で頓挫するか、あるいは手戻りしてしまうケースもあります。
プロジェクトの手戻りを防ぐために、上記項目についてそれぞれ詳しく見ていきましょう。
方向性とゴールを設定する
プロジェクトで解決すべき主要な課題は決まっているものの、「何のために解決するのか」「どこまで解決するのか」という2つの問いに対する答えが十分に議論されずにプロジェクトが始まってしまうケースが見受けられます。
プロジェクトの根っこともいえる方向性とゴールに不備があると、課題解決のための実行策を検討するタイミングで優先順位がつけられない、プロジェクトの初期に戻ってしまう、プロジェクトの実施効果の測り方で頓挫する、などといった壁に出くわしてしまいます。
そこで、プロジェクトの手戻りをなくすためにも、何のために課題を解決するのかという方向性と、どこまで解決するのかというプロジェクトのゴールを開始前に決めておく必要があるのです。
一般的に、方向性とゴールはそれぞれ目的と目標と呼ばれます。本コラムで敢えて異なる言葉を使っているのは、目的と目標というふたつの言葉が非常に混同しやすいためです。目的すなわち方向性とは、なぜこのプロジェクトを進めるのか、その理由に該当します。
たとえば、製造業において業務改善プロジェクトを立上げ、間接作業時間の削減という課題を設定した際、どのような理由が考えられるでしょうか。
- 直接作業時間への割当を増やして生産能力を高めたい
- 残業時間を減らして労務費を削減したい
- 従業員の健康増進に役立てたい
などありますが、方向性の決定にあたっては、課題の提起者を交えて十分に議論し、明文化する必要があります。
目標すなわちゴールとは、「どこまで達成すればプロジェクトは終わりなのか」を決めることです。プロジェクト完了後に効果測定することを鑑みて、客観的に測定可能なものを設定することが重要です。ゴールの設定にあたっては、”SMARTの法則”というフレームワークを活用すると有益です。SMARTの法則を用いて設定したゴールが、Specific(具体的かつわかりやすい)、Measurable(測定可能である)、Achievable(達成可能である)、Realistic(現実的である)、Timely(期日が設定されている)という5点を満たしているかを評価するのです。
たとえば、先の間接作業時間の削減という課題であれば、当年度中に一人あたり1日1時間の削減なのか、全社員で昨年の15%削減なのか、直接作業時間に対する間接作業時間の割合を10%削減するのかなど数値を活用して具体化します。ただコミットするだけでなく、数値を満たすことに意義があるのかをプロジェクト開始時に十分に議論しておくことが必要です。プロジェクト終了後、振り返りする際にも重要となります。
体制をつくる
プロジェクトの方向性とゴールが定まったら、次プロジェクトの体制づくりです。体制をつくるという作業は以下の要素に分解することができます。
- プロジェクトマネージャー(PM)を決める
- プロジェクトメンバーを招集する
- 意思決定機関を明確にする
- 連携するプロジェクトを明確にする
- プロジェクトの体制を社内へ周知する
はじめにプロジェクトマネージャーを決定するのは、業務改善プロジェクトにおいてもっとも役割が多く、プロジェクトの円滑な遂行に対して非常に重要な位置付けになるためです。主な役割は、プロジェクトの進捗管理、課題管理、リスク管理などになりますが、プロジェクトメンバーの動機付けや他部門への働きかけも行いますので、リーダーシップスキルを兼ね備えていることが理想的です。
プロジェクトマネージャーは、プロジェクトメンバーとの密なコミュニケーションが求められます。それにより課題を早期に発見したり、雑談も交えることで、メンバーの心理的な状態を把握したりすることができます。
また、意思決定機関を明確にすることも重要です。当プロジェクト会議内での決定事項は会社としてオーソライズされるというケースもありますが、多くはプロジェクト外に別途意思決定機関が存在します。たとえば、経営会議、役員会議、取締役会、情報セキュリティ委員会、営業部連絡会などさまざまな会議体、委員会が意思決定機関となります。
そして、当プロジェクトにおける決定事項をどの機関へエスカレーションして意思決定していくのかを明らかにしておく必要があります。不明確でいると、プロジェクト会議が単なるアイディア出しのレベルでとどまり、実行に移すことができません。
最後に、プロジェクトの体制を社内へ周知することも重要です。体制の周知が不十分ですと、プロジェクトメンバーがプロジェクト会議等に時間を費やすことに周囲の理解が得られず、「あの人は何をやっているのか?」「自部署の仕事をしっかりとやってほしい」など誤った認識を持たれてしまい、プロジェクトメンバーの参画意思を阻害してしまうことになります。よって、プロジェクト体制を社内に周知することが、プロジェクト開始時に重要となるのです。
期待値を知る
業務改善プロジェクトは、プロジェクトオーナー(プロジェクトの最終責任者)が役員であることが多いです。ここでは、プロジェクトオーナーが本プロジェクトに対して何を期待しているのかを明らかにし、方向性とゴールを評価して適宜修正をかけます。具体的には、プロジェクトマネージャーがプロジェクトオーナーへヒアリングを実施し、以下のような質問を投げかけてみます。
- 会社の中期( 3〜5年)の目標および理想とする姿を教えてください。
- 各業務機能(販売、生産、会計など)における現状の課題と感じていることは何でしょうか?
- 本プロジェクトに対する期待は何でしょうか?
- 本プロジェクトの方向性とゴールは適切なものでしょうか?
上記の質問に対する回答をさらに掘り下げる質問を重ねるのも有効です。これらを通して、冒頭に設定した方向性とゴールを評価し、必要に応じて修正をかけます。プロジェクトオーナーの期待値を把握せずに開始すると、プロジェクトの中盤あるいは後半において思っていたほどの効果が出ていない、考えていた方向性と異なるなど認識のズレが生じ、プロジェクトの初期段階へ手戻りするか、最悪中断することにつながります。
このような問題を避けるためにも、プロジェクトオーナーの期待値をプロジェクトの開始前に把握することが重要になります。
タスクを洗い出す
プロジェクトの方向性とゴール、期待値の把握ができましたら、次にプロジェクトの遂行に必要なタスクを洗い出します。業務改善プロジェクトの標準的な進め方から見た大分類レベルのタスクは以下のとおりです。
- 現状把握
- 課題分析
- 方策検討
- 方策決定
- 業務運用設計
- 改善実行
- 運用評価
これら7つの大分類タスクをさらにブレークダウンして、詳細タスク化します。詳細タスク化はプロジェクトの方向性やゴールなどにより異なります。また上記タスクを横断して、プロジェクト管理のタスクも含めます。例えば週次の定例会議、月次のステアリングコミッティー、中課題ごとの分科会などをタスクに含めるようにします。
スケジュールを引く
タスクの洗い出しができたら、各タスクのスケジュールを引きます。たとえばWBS(Work Breakdown Structure)を活用し、スケジュールを可視化します。スケジュール化の作業は以下の要素に分解することができます。
- マイルストーンを認識する
- マスタスケジュールを引く
- 詳細タスクのスケジュールを引く
プロジェクト全体の最終期日を認識することをはじめ、役員決裁のタイミングや各種委員会における報告タイミングなどを認識し、マイルストーンを設定します。マイルストーンを設定したら大分類のタスクレベルでマスタスケジュールを設定し、さらに詳細タスクのスケジュールへと落とし込みます。設定したマイルストーンから作業期間を考慮して、バックワード(逆算)で作業開始日を決めます。なお、プロジェクトの会議体も取り決めておき、スケジュールに含めるようにします。
業務改善プロジェクトの開始
上記すべての作業を終えたら、決定事項をプロジェクト計画書として文書にまとめ、プロジェクトオーナーの承認を得ます。プロジェクトオーナーの承認が得られたら、プロジェクト開始可能な状態となります。これまでみてきたとおり、プロジェクトの開始には複数の作業があります。冒頭で申し上げたとおり、プロジェクト開始時点では混沌とした状態にあることが多いため、なるべく効率的にプロジェクト開始作業を終え、迅速にプロジェクト開始へと移行したいところです。
関連リンク
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