イノベーターと新規事業を⽣み出す組織

 addlight journal 編集部

2022年1月20日、弊社アドライトは事業会社での新規事業創出を目指すイノベーターに向けたイベントシリーズ「Brave Changer」第13回目として、「イノベーターと新規事業を⽣み出す組織」をオンラインにて開催。

立教大社会デザイン研究所と社会デザイン・ビジネスラボを創設するなど精力的に活動する株式会社JSOL 三尾幸司氏をお迎えし、新規事業立ち上げにおける組織やメンバーの定義、周囲の巻き込み方等を語っていただいた。

ITを強みに、事業を持っている企業と協働で新規事業を起こす

法人向けに高品質なICTサービスを提供するJSOL。三尾氏はJSOLの新規事業立ち上げやそのマネジメント、また社外でも事業創造コミュニティ運営やNPO、子供向けのキャリア開発など幅広い活動を行っている。

JSOLは企業への基幹システム導入が事業の母体になるが、自分たちも事業を持たないといけないとの危機感から、4年前から新規事業支援に取り組み始めた。

IT会社ゆえの「システムはあるが事業がない」というネックを乗り越えるために、事業を持っている顧客と協働で取り組むスキームを組んだ。主にアイデアを出す事業企画部分と、ITでプロトタイプを作る部分で新規事業を支援している。

事業開発ワークショップ「いのべ場」はこれまで50回以上開催し、DXを軸にしつつもバラエティーに富んだ企業に参加いただいた。またアイデアを出すだけではなく、プロトタイピングと検証・アセスメントまで支援しているのが特徴だ。

JSOLのアイデア ~みらい創造プロジェクト~

JSOLでは「みらい創造プロジェクト」と銘打ち、4つの取り組みで新規事業開発を動かしている。
本日の講演の中心となるのは「みらい会議」になるが、他の取り組みについても説明いただいた。

事例① 社会デザイン・ビジネスラボ』

自社だけではなく、社外の知見・技術アカデミアとの融合を目指し、2019年に立教大学と立ち上げたのが『社会デザイン・ビジネスラボ』という研究会だ。

「環境」「地方創生」などのテーマを設定したワークショップを開催。参加者で課題やアイデアを出し、いくつかはそのままプロジェクト化をして推進している。過去に20回ほど開催し、33社のサポータ―企業・600人ほどのイベント参加者を巻き込んだ盛況な取り組みだ。

事例② みらい共創

営業活動を通じ課題を見つけて、企業とのパートナーシップで事業開発を行う取り組みが『みらい共創』だ。

まだ立ち上げ途中ではあるものの、MIセンサーに強みを持つ愛知製鋼様との共創ディスカッションなど、今後楽しみな取り組みも生まれている。

事例③ みらいfounder

みらいfounderは他の3つの枠組みとは関係なく、個人や有志の活動から事業アイデアを募る取り組みだ。今はIoT×教育事業のテーマで活動を行っている。

チーム型での新規事業開発『みらい会議』

事例④ みらい会議

JSOLの新規事業の中心を担う『みらい会議』は、知の深化と探索による「両利きの経営」をコンセプトとしている。既存の事業の強みを深化させつつも、これまで行ってこなかった新規事業創出を目指している。

『みらい会議』開設の目的は「社会課題の解決」「収益基盤としての貢献」「次世代リーダー・イノベーション人材の育成」と設定し、2020年から2年間活動を行ってきた。

社風を生かしたやり方で進めた『みらい会議』

みらい会議の特徴

『みらい会議』の特殊な点として、リーダーは立候補だがメンバーはドラフト制をとっていることが挙げられる。
社風上、あまり積極的に手上げをしない社員を考慮した工夫だが、メンバー側にも選ばれたことによって士気が高まる効果もあると三尾氏は語る。

また業務や予算の調整、外部パイプとのつながりなど、新規事業に集中できる環境も整えているそうだ。

全体スケジュール

スケジュールとしては年間を2つのステップに分けて活動を展開している。

4月にリーダーが企画書を提出、1stステップ最後の9月に報告会を行い企画の審査を実施する。審査を通過したチームが後半のプロトタイピングの2ndステップへと進む。

過去2年間に挙げられたテーマはDMP、バリアフリー、スマートワーク、カーボンニュートラルなどさまざま。4チームが立ち上がり、2ndステップに進んだのは2チームだったそう。

2022年の活動に向けて

初年度の開催を受けて、次年度の2021年には社外メンターの設置、社外コラボレーションの機会、アドライトからの支援など、活動が円滑に進むために主に社外に向けた施策を拡充させたそうだ。

現在は2022年度の活動中ではあるが、2021年の活動からいくつか強化しているポイントを挙げていただいた。

立候補者を増やすために、インタビュー動画を公開するなどの社内プロモーションを強化。また活動の中核となるリーダーの負荷を減らすため、チームビルディング強化などを狙っていると三尾氏は締めくくった。

質疑応答

イベントの後半では、弊社代表・木村がモデレーターとなり、三尾氏に社内で新規事業を起こす際のよくある壁などについて、質疑応答のトークセッションが行われた。

Q.社内の理解促進・環境変化があっても継続するコツについて

まずは社内の理解促進について、三尾氏自身の工夫を語っていただいた。
「社内には反対する人も確かにいますが、応援してくれる人もいます。まずは‟協力者を作る”ことが重要です。協力者を増やすためには社外の巻き込みも重要です。社外の人にアプローチを行い、イベント開催などの実績を作ってしまう。そこに社内の人に来てもらえれば、社会課題への理解などが進む上に社外の人と接するメリットも感じてもらえます。」と社内説得のプロセスを三尾氏は語る。

環境変化については「経営層が変わる際の対応には、社外のコンサルタントなど有識者に協力してもらいながら、インプットを行うなどの工夫をしています。同時に、自分たちの取り組みを社内広報するなどの仕組化も有効かと思います。」と社内外の仕掛けを語った。

Q.新規事業の座組・メンバー選出について

次に気になるメンバー人選についてのコツを聞いた。
「メンバーの人選については”育てる前提”というスタンスが大事です。最初は知識がないのでノウハウやフレームワークは座学で学んでもらいますが、現場で行動できるタイプの方がうまく行きやすいです。正解がない新規事業の世界では、壁を乗り越える勢いやチャレンジ精神があった方がいいですね。」と、実践を通じた想いを三尾氏は語る。

その他、トークセッションでは「新規事業コンテストはやりっぱなしでは効果が出ない」、「新規事業のよくある失敗は検討ばかりして外に出ないこと」、など新規事業に関する生きたノウハウを三尾氏にお話いただいた。

取材を終えて

企業内の新規事業の起こし方は、トップダウンのもとプロジェクト化されたり、ボトムアップで若手チームが組成したりと、各社様々だろう。
いずれの場合も、新規事業の推進者が誰よりも意思や意図を持ち、推進をプロデュースする必要性が本講演では示唆された。
今後新規事業を起こしたい企業も、現在新規事業を推進中の企業も、プロセス設計の参考にしていただけるエッセンスがあったのではないだろうか。