10年前の大失敗「クリーンテック投資」と今日の「気候テック投資」の違いは

 addlight journal 編集部

2022年2月9日、弊社アドライトは、日欧米スタートアップとのサステイナブル領域における事業共創プログラム「SUITz(スーツ)」連動企画として、クロスボーダーなウェビナーシリーズ「SUITz Global Climate Tech Webiner」を開催。

ゲストにPILI 共同創業者兼CEO・Jérémie Blache氏(フランス)、VoltStorage Founder & CTO Michael Peither 氏(ドイツ)、SOSV Partner Benjamin Joffe氏を迎え、地球の未来への存続を維持していく為の「サステイナブル・イノベーション」の最先端を追うとともに、イノベーターはどのようなビジョンやミッションをもってイノベーションを起こそうとしているのかを語っていただいた。

前半は弊社熊谷を加えた4名の登壇者による講演が行われ、後半はトークセッションを実施。本記事では、弊社熊谷による「10年前の世界的な大失敗作・クリーンテック投資と昨今の環境テックの根本的な違い」と題した講演についてお伝えしたい。

クリーンテックと気候テックの根本的な違いとは

2000年代半ばから2010年代前半まで、エネルギー関連を中心としたクリーンテックが注目された。政界の有力者が牽引したこともあり、一時期は投資熱も高まったが、2011年ごろをピークに急速に成長は鈍化。クリーンテックの代表的な企業の一つであるSOLYNDRA社の破産などもあり、今ではVC業界で代表的な失敗例として記憶されている。

では、本イベントの主題でもある気候テック(Climate Tech)はクリーンテックと根本的に何が違うのか。熊谷氏は「クリーンテックがエネルギー関連を中心としたことに対し、気候テックでは、地球の持続性に繋がるあらゆる産業界のイノベーションが対象となっている。対象規模の違いが根本的な違いである」という。

VC投資パフォーマンスについても、今のところ気候テックについてはコロナショックによる若干の失速はあったものの、概ね右肩上がりに推移しており、クリーンテックとの違いが明らかになっている。

より具体的な違いについて熊谷氏は「①原動力の起点の違い」「②対象産業の特性の違い」「③投資対象領域の違い」の3つの主な違いで説明できるという。

①原動力の起点の違い:何のため?誰のため?

クリーンテックが一部有識者が牽引しトップダウンで進められたのに対し、気候テックはZ世代やミレニアル世代を中心とした市民レベルによるボトムアップの動きという違いがある。

気候テックは幅広い産業を対象としているため、我々の生活を司る領域もカバーしている。特に、世界の中心となりつつあるZ世代やミレニアル世代は地球環境に対する意識が高く、購買行動や自身の就職先の選択にも影響があるという。

また、政策や制度面でも違いが見られる。クリーンテックが特定の国々によるリスクマネーを刺激するような政策が中心だったことに対し、気候テックでは世界規模全体で中長期に取り組んでいく空気があるという。

それに加えて、気温の変化など、地球環境の急速な変化を個々人が日常で実感するレベルにまでなっていることが全体的な意識にも影響を与えていると熊谷氏は語る。

②対象産業の特性の違い:コモディティ市場から知識集約型産業へ

クリーンテックが価格変動の影響をもろに受けるコモディティ市場が中心だったのに対し、気候テックは技術革新に牽引される知識集約的な産業が中心となっている点も大きな違いだ。

クリーンテックではGoogleに買収されたNESTLABS社やOpwer社など一部の成功したソフトウェア会社を除き、多くがソーラーパネル、バッテリー、バイオ燃料、風力発電など、ハードウェア開発が必要な重たい領域が中心だった。

一方で気候テックでは、フードテック、アグリテック、バイオ、素材化学、IT、物流、倉庫、広くはウェルビーイングなども対象となる。対象産業の特性の違いは、投資対象領域の違いにも繋がると熊谷氏は強調した。

③投資対象領域の違い:気候テックはVC投資向き

次に熊谷氏は昨年6月に経済産業省が発表した「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を基に作成したスライドを紹介。そこには今後脱炭素を目指していく中で重要な領域として14産業が示されている。

茶色で示されているのが過去のクリーンテックで主流となった産業で、ピンク、赤で示されているのが気候テックが主流となる領域だ(尚、赤に示す領域がSUITz~日欧米事業共創実務支援プログラムで弊社がスポンサー企業と欧米スタートアップと取り組んで行く予定の対象領域だ)。クリーンテックはエネルギー関連産業のみに限定されているのに対して、気候テックは幅広い産業を対象としていることがこの図からも読み取れる。また、クリーンテックは川上の産業が多かったのに対し、気候テックの対象領域は家庭・オフィス関連など川下の領域もカバーしている

「クリーンテックはVC投資に不向きな長期のR&Dサイクルが必要な資本集約型産業が中心だったのに対し、気候テックはVC投資に向いている短期のR&Dサイクルで立ち上がる知識集約型産業が多く連なる」と熊谷氏は語る。

 

講演の中では、気候テックの具体例として、フードテックの例が挙げられた。

食の生産サプライチェーンでは、農家・生産現場から製造工程現場、外食関係、一般家庭内へとバリューチェーンが流れていく中で、各フェーズにおいてフードロスが発生している。それらの未然防止対策や回収、リサイクルといったフードロス削減施策の中でITやソフトウェア、ハードウェアが開発され、活用されている。

フードロスという問題一つをとってもこれだけ多くの細かいテーマに分かれており、気候テックの可能性や産業の幅広さが伺える。

現在の気候テック潮流

現在の気候テックの主要セクターの比重ではEVが48%と半分近くを占める結果となっている。この領域では米国だけでなく、中国の台頭なども見られる。EVに次いで多いのはフードテック領域となっており、全体の13%を占めている。

また、これまで説明してきた潮流を受けて、既存の大手事業会社に対する投資家からの目線も変わりつつある。特に、世界的な年金基金等の機関投資家が上場企業に対し、ESGを意識した経営戦略を実行できているかをモニタリングする動きが高まっている。「既存の大手企業がこのような形でプレッシャーを受けていく。そうすることで、幅広いステークホルダーが気候テックに対し前向きに取り組む機運が高まっている」と熊谷氏は語る。

講演の最後には、弊社が今後注目していきたい日本企業と気候テックの領域についても語られた。

「ものづくり」や「食」の領域など、日本の得意としている分野が注目領域として挙げられたが、これらの領域は日本だけで閉じるのではなく、積極的に欧米企業と事業共創していく取り組みが必要と締め括った。

取材を終えて

地球を取り巻く環境は、他人事ではなくなってきている。特に将来ある若い世代は”自分ごと”として捉えられており、その危機感が今日の気候テックへの関心に繋がっている。また、多くの課題に対し、解決するための技術が揃ってきたことや、投資や人材が集まるエコシステムが形成されつつあることが、幅広い産業でのイノベーションに発展している。これらが以前のクリーンテックとの大きな違いであることがわかった。

本イベントでは、この後、アメリカ、ドイツ、フランスで活躍するイノベーターから気候テックに関する世界的な動きが紹介された。示唆に富む内容となっており、大いに盛り上がった。

アドライトでは今後も、日欧米スタートアップとのサステイナブル領域における事業共創プログラム「SUITz(スーツ)」と連動したイベントを実施していく予定である。