バランストスコアカード(BSC)の活用と留意点

 addlight journal 編集部

今回は、企業のヴィジョンや戦略を財務/非財務の視点で定量的にブレイクダウンして実行(アクションプラン)まで落とし込む手法である、バランストスコアカード(Balanced Score Card : BSC)について簡単に紹介していきます。

バランストスコアカードの特徴

バランストスコアカードの発祥は、1992年にアメリカの「Harvard Business Review」において発表された業績評価システムだといわれています。企業のヴィジョンや戦略を実行・管理するためのフレームワークであり、戦略目標を重要成功要因、業績評価指標、ターゲット数値、アクションプランとブレイクダウンし管理していきます。

ここで戦略目標はKey Goal Indicator(KGI)とも呼ばれ、企業のヴィジョンに基づく企業活動の経営目標として設定されます。そして、設定された戦略目標を達成するために何が重要な要因かを洗い出し、それを重要成功指標(Critical Success factor(CSF))として抽出します。その際に、SWOT分析やそのクロス分析などを活用して成功要因を洗い出したり整理したりすることも有益です。そして、抽出された重要成功指標の達成と相関のある指標を業績評価指標(KeyPerformance Indicator(KPI))として設定し、その具体的目標値をターゲット数値として定めることになります。これらをそのターゲット数値達成のための実行施策をアクションプランとして落し込みます。これらを一覧にして図示したものが図1のバランストスコアカードであり、この縦軸は下章の4つの視点に基づき行われます。

【図1】バランストスコアカード

重要成功指標の抽出の際に使われることのあるSWOT分析とは、企業の置かれる外部環境や内部環境を強み (Strengths)、弱み (Weaknesses)、機会 (Opportunities)、脅威 (Threats) の4つのカテゴリーで要因分析し、更にはそれらの要因をクロスで掛け合わせて図のように分析する手法です。この手法をバランストスコアカードにも取り入れることにより、戦略立案を行い、重要成功指標を洗い出すきかっけにすることができます。
【図2】 SWOTによるクロス分析

バランストスコアカードの4つの視点

バランストスコアカードでは、従来のフレームワークが財務面の指標を重視していたのに対し、①財務に加えて、②顧客③業務プロセス④学習と成長という財務以外の視点を加えた計4つの視点によって構成されます。

過去の視点である、①財務、現在の視点である②顧客③業務プロセス、未来の視点である④学習と成長を各要素として取り込むことにより、過去・現在・未来とバランスよく企業の進むべき筋道を設定・管理することができます。また別の観点では、企業内部(対内的)の視点である③業務プロセス④学習と成長と、企業外部(対外的)の視点である①財務②顧客というふたつの要素を持ち、企業内外の各ステークホルダーにもバランスよく配慮した経営管理の方法であるといえます。これらは、時に均衡をとりながら、時にはどこかの視点にウェイトを置きながら、状況に応じて目標達成のための計器盤の役目を果たしていくのです。

それぞれの視点の具体的な説明及び代表的な業績評価指標は以下のとおりです。

①財務の視点
株主や従業員などの利害関係者の期待にこたえ企業業績として財務的に成功するためにどのように行動すべきか。代表的な指標としては、売上高、利益率、利益額などのP/L指標や自己資本比率などのB/S指標の他に、最近注目を集めているROEやEPSなどの株主に対する指標などがあげられる。

②顧客の視点
企業のヴィジョンを達成するために、顧客の立場からまたは顧客に対してどのように行動すべきか。代表的な指標としては、前者の顧客の立場からの視点としては満足度や繰り返し購買率などが、後者の企業の立場から顧客をみる視点としては、顧客当たり売上高や顧客当たり費用などがあげられる。

③業務プロセスの視点
財務的目標の達成や顧客満足度を向上させるために、優れた業務プロセスを構築する。代表的な指標としては、サービスや製品を開発するイノベーションプロセス、サービスや製品をデリバリーする生産や購買や販売などの各オペレーションプロセス、サービスや製品を提供した後のアフターサービスなどのプロセスごとに様々な指標が想定され、それはビジネスモデルによって大きく異なる。

④学習と成長の視点
企業のヴィジョンを達成するために組織や個人として、どのように能力向上を図るか。代表的な指標としては、社員定着率、従業員満足度、能力向上率などがあげられる。

これらの視点に基づき、戦略目標の因果関係や関連を図式化したものが、いわゆる戦略マップと呼ばれるものになります。ここでは、バランストスコアカードの代表例である米国サウスウエスト航空の戦略マップを例示させて頂きます。

 【図3】米国サウスウエスト航空の戦略マップ

バランストスコアカードの活用手順

バランストスコアカードの活用については、以下の6ステップに従って進めてゆきますので、再度整理して紹介します。

1.企業のヴィジョンと戦略の策定
まず、企業の置かれている市場環境や競争環境などを踏まえた上で、全社としてのヴィジョンと企業経営の戦略を策定します。

2.各視点の戦略目標(KGI)と重要成功要因(CSF)の抽出
次に、財務、顧客、業務プロセス、学習と成長の各視点に基づき、前段で策定した企業のヴィジョンと戦略に従った戦略目標(KGI)を抽出します。そして、その戦略目標を達成することにダイレクトに紐付く重要成功要因を決定します。その際に、SWOT分析(クロス分析)などにより重要成功要因を洗い出すことも有効です。

3.戦略目標と重要成功要因に基づく重要評価指標(KPI)、ターゲット数値及びアクションプランの設定
続いて、抽出した戦略目標と重要成功要因を実現・評価するための重要評価指標(KPI)を決定します。これらは、ある程度の時間軸に従って設定することも有効です。そして、その重要評価指標を全社的に承認することにより、社内での共通言語として目指すべきラインを共有します。なお、KPIの設定・管理方法については、前々回の「定量(KPI)管理によるプロジェクトマネジメント」でも触れさせて頂きましたので、そちらもご参考ください。

4.バランストスコアカードの完成と戦略マップの作成
これまでのステップを踏まえ、整合性・ストーリー性のあるバランストスコアカードを完成させます。合わせて、戦略目標の関係性を戦略マップとして作成することにより、それぞれの戦略目標のつながりが明示され、全体像をメンバー間で共有することに役立ちます。

5.事業部、部課、個人単位などレイヤーごとのバランススコアカードの落し込みと運用
ここで、全社のバランストスコアカードを事業部、部課、個人単位など上位から下位までのレイヤーに展開します。それぞれのレイヤーでのバランストスコアカードの戦略目標の達成が全社の戦略目標達成につながるよう整合させ、各レイヤーの方向性を一致させます。

6.モニタリング
最後に、バランストスコアカードの運用として、設定した重要評価指標のターゲット数値の達成度を確認し、PDCAサイクルにより振り返りと改善活動を継続的に行います。重要評価指標の達成は各レイヤーの評価につなげると、より効果的にバランストスコアカードを運用できます。また、設定した重要評価指標の実現が重要成功要因を通じて戦略目標の達成につながっているかのチェックも行い、その状況に応じてバランストスコアカード自体のブラッシュアップを行うことも肝要です。

終わりに

バランストスコアカードの基本的な考え方として、トップダウンでヴィジョンや戦略を組織の末端までアクションプランに落とし、それを体系的かつ定量的に管理するというものがあります。これは、外部環境の変化が限定的(または予測可能)で、トップダウンの意思決定で事業活動を展開する場合にはマッチする考え方です。一方で、外部環境の変化が激しく、現場にある程度のまとまった権限を委譲し現場がボトムアップ的に小さい単位で自由に事業活動を行う場合には、細部までKPIやアクションプランで縛ってしまうことによりせっかくの柔軟な機動性が失われてしまう危険性があります。

いずれの場合にも、財務の視点だけではなく非財務の視点も含め定量的にものごとを計画的/体系的に考えるバランストスコアカードの考え方自体は広義の管理会計として素晴らしく、どのような状況においても参考にすべきフレームワークと考えます。ただし、その粒度や程度など含む活用方法については、その状況に応じてアレンジして上手に取り入れて頂ければと思います。