Trend Note Campとは
株式会社アドライトが主催するイベントシリーズ「Trend Note Camp」では、世界で活躍する起業家や投資家の方々に、アメリカやアジアそしてアフリカの最先端ベンチャーのトレンド・ビジネスモデルなどをプレゼンテーションいただき、その後、参加者の皆さまを交えてパネルディスカッションを行っています。
第7回目となる今回のテーマは、「アフリカスタートアップトレンドーFinTechを中心に」です。
アフリカで活躍するスタートアップというと、日本人である私たちにはまだまだ馴染みが薄いかもしれませんが、今回はそんなアフリカにおけるスタートアップ・トレンドについて、現地に駐在後,帰国し、大学院にてアフリカ研究をしておられる伊関氏をお招きしてご講演いただきました。伊関氏は特にサブサハラアフリカの事情に明るく、M-PESAといったメジャーなサービスも登場しているケニアなどの実例も交えながらお話いただきました。
伊関氏の経歴
伊関氏は大学卒業後にまず大手自動車メーカーに就職され、北米及びヨーロッパ地域での事業を担当されました。その後アフリカ地域の担当となり、2016年からは駐在員として南アフリカのヨハネスブルグに渡られました。アフリカ滞在中には、ガーナへの長期出張なども経験されたそうです。そして、帰国後には大学院でのアフリカ研究を開始され、さらにアフリカのスタートアップ関連の情報配信を行っている「Afropick」というサイトの編集長として、日本であまり知られていないアフリカのスタートアップやカルチャーを発信されています。
アフリカ地域の紹介
アフリカ地域に関することとして、まず伊関氏ご自身の経験から、自動車市場のことをお話いただきました。
アフリカでは、その広大な国土やまだまだ整備されていない道路が大多数であるという道路事情があるため、丈夫で長距離での走行にも対応できる耐久性の高い車種が人気とのこと。新車の購買層ではほとんどが政府機関または法人であり、個人顧客は大半が現地駐在員なのだそうです。それため、中古市場が盛んで、ネットで中古車の販売を仲介する業者の他、実店舗を展開する業者、中古車購入のコンサルティング業も行う業者等が出てきているそうです。
アフリカの地域経済という面から言うと、一応AU(Afrian Union)といった地域統合の思想は古くからあるそうですが、域内取引額はEUやASEAN域内における総額には遠く及ばず、10%ほどにとどまっているようです。その原因は、産業の同質性が高く、そもそも域内貿易の必要性が低いこと、ルールの不履行が常習化していること等が挙げられると言います。なお、地域統合の枠組みは、ケニアを中心としたEACやコートジボワールを中心としたECOWAS等もあります。なかでもケニアはアフリカにおけるイノベーションセンターとして成長してきており注目度があがっているとのことでした。
アフリカにおけるFinTech(M-PESAの事例を中心に
M-PESAのMはモバイルを表し、PESAはスワヒリ語でMoneyの意味だそうです。つまり、M-PESAとはモバイルマネーのことで、2007年にVodafoneによって開発され、現地最大級のモバイルネットワークを保持するsafaricomによってローンチされました。利用するには公認店で電話番号と紐づけられた電子口座を開設する必要があり、取引はすべてSMS上で完結します。また、預金以外の取引(送金、引き出し、支払い等)には約10%の金額に応じた手数料がかかるとのことです。
そして、伊関氏はアフリカ最大級のスラム街である、ナイロビのキベラにて、M-PESAの普及度合をチェックしてみたそうです。 すると、キベラ内にもM-PESAの代理店は存在し、SIMカードの番号とPIN番号を伝えると即座に入金が可能であったといいます。また、キベラ内には観光客向けの土産物等をつくる細工小屋が多数あるそうなのですが、その細工小屋でもM-PESAを利用しての支払いが可能であったとのことでした。このようなスラム街で貧困な方々でも利用されているようです。
M-PESA上における流通量の総額は10兆円に達していて、ユーザーの利用目的の半数ほどが送金目的であるとのことでした。これは、出稼ぎ労働者が多いというケニアの事情から家族への送金などに利用されるケースを反映してのことかもしれません。また、M-PESAの派生サービスも次々と登場していて、例えばトランザクションの履歴やSMS上でのやり取りを考慮した信用情報を扱うbranchといったサービスが提供されています。
サブサハラのエコシステム全体の動きとしては現在、「スマホ化」、「2Gから3Gへ」といったものがあり、スマートフォン所持率の向上、通信回線の高速化といった目標が掲げられています。こうしたユーザー数の増加や通信環境の整備に向けた取り組みによって、M-PESAに関連するサービスが今後ますます広がっていくことが期待できるのではないか、ということでした
ケニアのスタートアップ事情
アフリカ発という文脈からは外れますが、スタートアップの概況を示すものとして、Uberの大躍進があります。実はケニアではUberがユーザー数を急拡大させており、なぜかというと、Uberが採用している双方向に対して行うレビューの仕組みがサービスの高い安全性が好評で急成長したとのことでした。最近ではそのUberに触発されたCtoCのバイク便のような類似サービスが次々と登場しているようです。
ケニアにはスタートアップコミュニティが存在していて、先ほどご紹介したスラム街のキベラに近い位置にNairobi Garage1やihub、ナイロビ大学に近い位置にMettaやNairobi Garage2といったコワーキングプレイスがあります。IhubにはFacebookのCEOであるMark Zuckerbergが訪れたことが話題になり、またNairobi GarageにはUberが入居しているそうです。Mettaは香港系のスタートアップコミュニティで、週に2,3回ほど起業家と投資家を交えたイベントが開催されているようです。こうしたスタートアップコミュニティの人気の背景には、ナイロビのインフラ事情があり、安定した通信が確保できる利点が大きいと言います。
ここまでが、ケニアのスタートアップエコシステム全般のお話。その後、伊関氏が実際に訪問したことのあるチームについてご紹介していただきました。筆者が個人的に面白いと感じたのは、BRCKというBOP層のデジタルデバイドを解決するために、タフに設計されたモバイルWifi端末とタブレット端末を開発、販売しているチームや、BOP層向けで、ガスボンベに取り付けて使用分のみを小売りで販売するためのデバイスを開発、販売しているチームなどです。サービスの低価格化のために、越境ECを利用して、中国製の安価なデバイスを採用するといった取り組みも行われているようです。
伊関氏が感じたスタートアップのトレンドとしては、人口の過半数を占めるBOP層(Base of the Pyramid。低所得者層、中間層、富裕層の三段階からなるピラミッド型のうち最下層のこと)向けのサービスが増えていること、貧困層の負担となっていて中間搾取を解消すること、脆弱なインフラを背景としたサービスが増えていること等の特徴が伺えるとのことでした。
そして、起業の担い手としては、大卒者でありながら就職からあぶれた層が多く、資金調達の方法としては個人の貯蓄や、家族からの支援、寄付などがほとんどで、金融機関の利用はほとんどなく、VCもその知名度はかなり低いそうです。
また、存在するVCもそのほとんどがシードステージに固まっていて、ミッシングミドルと言われる状況が生じており、Growthステージまで支えるような投資家が少なく、そこがスタートアップにとってのデスバレーと化しているようです。
また、ケニアの起業家には、ビジネススキルの不足や、エンジニアとしての習熟度不足が目立ち、原因としては大学等の高等教育機関における教育不足が挙げられていました。実際に、投資家の期待と起業家の達成感の間に開きがある場合が多く、問題となるケースもあるようです。
注目度の高さを示したパネルディスカッション
伊関さんの講演ののちに、弊社木村がモデレーターを務めパネルディスカッションが行われました。
参加者の皆さんからは幅広い質問が投げかけられ、アフリカスタートアップに対する関心度の高さを感じられるものでした。
―ケニアにおけるクラウド型投資ファンディングの規模およびユーザー層について
―アフリカで越境ECを利用する場合のメジャーな決済手段は何か
―社会的サービスを行うスタートアップが多いが、マネタライズはどうしているか。マーケティングの手法はどうか
―Impact Investment とは
―アフリカのスタートアップのエグジットはどうなっているか
―M-PESAがカバーしきれていない市場はどこか
―M-PESAの手数料に関してユーザーの抵抗はないのか
―なぜM-PESAは東アフリカを中心にして広がったのか
―M-PESAの競合と考えられる銀行の動きはどうか。政府からの規制等はあるか
質疑応答ののちには、登壇者の伊関氏と参加者の皆様を交えてネットワーキング。皆さん積極的に情報交換をされている様子が印象的でした。
最後に
昨今では途上国のスタートアップも注目を集めるようになってきましたが、アフリカにはアフリカ独自の事情を反映したスタートアップが多く、とても興味深い内容であったように思います。ご講演いただいた伊関氏はアフリカでの滞在経験があり、実際にスラムに足を運んでの実地調査も行っていたとのことで、非常に示唆に富んだお話をいただけました。歴史的なビハインドを克服しようとするエネルギーと、成長市場としての力強さ、一方でビジネスエコシステムとしての未熟さも持ったアフリカにおけるスタートアップの動きに今後も注目していきたいですね。
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