まずは、プロジェクトの定義と、発生要因・目的による4分類についてをご説明したいと思います。
プロジェクトと通常業務
企業の中の「プロジェクト」というと、みなさんはどのような内容を想像しますか?
プロジェクト(project)の語源は、pro「前もって」ject「投げる」から来ています。この言葉の通り、前もってなにかを投げる、すなわち将来の目的を定め、そこに向かって進んでいくことがプロジェクトの本来の意味です。
例えば、コンサルティングファームやシステム開発企業などでは、大半の業務がクライアントの個別の要求に基づいたカスタムメイドとなるため、多くの仕事がプロジェクトベースになります。それとは別に、どのような業種の企業においても、特別の事象が発生したり、通常の業務とは別に個別に対応しなければならない事項がある場合には、特別のプロジェクトチームが結成され、その対応に当たるようなこともあります。例えば、オフィスの引っ越しにあたり、引っ越しプロジェクトが立ち上がったり、ISO(製品やサービスの品質、性能、安全などに関する国際的な規格)の取得のためにISO取得プロジェクトとして組織横断的に対応したりする場合がこれにあたります。
一方で、例えば消費者向けのメーカー企業や老舗企業などにおいて、出来上がったビジネスを役割分担して日々のルーティーン業務に落とし込み、決められた業務をマニュアル通りに進める場合には、プロジェクト単位ではなく、通常の業務として仕事が進められることになります。
それでは、プロジェクトと通常の業務との違いは、一体何なのでしょうか?
プロジェクトの特徴は「有期性」と「独自性」
アメリカの非営利団体PMI(Project Management Institute)が策定した、プロジェクトマネジメントの標準的な知識体系であるPMBOK(Project Management Body Of Knowledge)によると、プロジェクトを「独自のプロダクト、サービス、所産を創造するために実施される有期的な業務」と定義しています。プロジェクトの特徴としては、いわゆる通常の業務と比較して、1. 明確な開始と終了がある「有期性」と、2. 独自の目的がある「独自性」のふたつをあげています。つまり、企業の中の仕事や業務でも、期限が定められており、何かしら独自の目的がある場合に、プロジェクトと定義されるのです。もちろん、プロジェクトの期間は数日間の場合もあれば数年に渡ることもあるでしょうし、プロジェクト独自の目的も、多種多様になります。
みなさんがこれまで関わったことのある会社の中のプロジェクトなどを思い出して頂いてみても、このふたつの要件があてはまるのではないでしょうか。これらをまとめると下の表のようになります。
<図1>プロジェクトと通常業務の違い
プロジェクトの成功と失敗とは
次に企業におけるプロジェクトの成功と失敗について考えてみましょう。プロジェクトには、前述の通り、限られた期間の中で、独自の目的を達成することが求められます。限られているのは当然時間だけではありません。時間以外にも、人員、資産、予算など、いわゆるヒト・モノ・カネと呼ばれるビジネスに必要な資源については、その一定期間の中で制約されることになります。その制約された資源を最大限活用して、プロジェクトの目的を達成する必要があるのです。
PMBOKでは、プロジェクトの成功と失敗を「プロジェクトに課せられたさまざまな制約条件のバランスを取り、決められたプロジェクトの目的が達成されたかどうか」によって決まるとしています。そして、その制約条件として、スコープ(プロジェクトの目的と範囲)、時間、コスト、品質、人的資源、コミュニケーション、リスク、調達、統合管理の9つの観点でマネジメントを行う必要があるとしています。
経営学者のピーター・ドラッカーも、企業経営において、「いかに単純化し組織化しても、なすべきことは利用しうる資源よりも多く残る。」と述べています。つまり、単純化し組織化したものがプロジェクトだとすると、全てのことを限られたリソースで賄うのは不可能であり、制約条件の中でそのプロジェクトを遂行することが必要になります。また彼は、限られたリソースを最大限効果的に活用するため、その目的の達成のために「何をやるか」(何をやらないか)の優先順位(劣後順位)をつける重要性を示唆しています。
このように考えると、プロジェクトマネジメントとは、限られた資源を活用し、限られた期間の中で目的を達成するために優先順位とプロセスを管理すること、と説明することができます。
「変化」によりプロジェクトが生まれる
それでは、企業においてプロジェクトはどのように発足するのか考えてみたいと思います。
通常、企業はその企業が「無期限」に継続するという前提(ゴーイング・コンサーン)のもとで、企業理念などの全社的な一定の「目的」に従い、各部署やメンバーが業務を遂行し顧客に価値を提供しています。通常のサイクルにおいては、単一の目的に向かって無期限に事業を継続することになり、その事業の遂行に必要な業務を分担して実施することになるのです。このサイクルのもとでは、「独自」で「有期」のプロジェクトの必要性はなさそうに見えます。
そのような企業においてプロジェクトが必要になる要因は何でしょうか?そのひとつの大きな要因は「変化」です。何かの変化があった時に、通常業務のルーティーンでは対応できずに特別の対応が必要になる場合があり、その変化への対応のため、期限を区切って独自の目的をもつプロジェクトが発足します。
前述の引っ越しプロジェクトの場合には、「社員が増えてオフィスが手狭になった」ことであったり、「入居しているオフィスビルのオーナーに立ち退きを迫られた」ことなど、社内または社外の変化が要因になっていることでしょう。ISO取得プロジェクトの場合にも同様に、「海外展開にあたり企業の信頼性を高めるために、社長からISO取得の指令が下った」ことであったり、「新たな法律やルールが定められ、その企業がISOを取得し遵守する必要が生じた」ことなど、社内または社外の変化が要因であると考えられます。
前述のPMBOKでは、プロジェクト発足のきっかけとして、
1 市場のニーズ
2 組織のニーズ
3 顧客要求
4 技術的進歩
5 法的要件
6 社会的ニーズ
をあげています。この6つを、外部環境の変化か内部環境の変化かというプロジェクトの発生要因の軸と、事業創造のプロジェクトか課題解決のプロジェクトか、というプロジェクトの目的の軸で4つのセグメントに分類してみました。
<図2>企業におけるプロジェクトの4分類
企業におけるプロジェクトの4分類
1分類目のセグメントは、事業創造を目的にしており、その発生要因が企業外部の要因によるプロジェクトが該当します。大きく分類すると1市場のニーズ、6社会的ニーズが挙げられます。1の市場のニーズとしては、例えば、若者の間でソーシャルゲームが流行り始めたため、新しい課金型のソーシャルゲームを企画・開発するような新規事業開発のプロジェクトや、6の社会的ニーズでは、社会の高齢化が進み、高齢者向けの介護サービスの需要が高まったため、新たに介護サービスを開始するような新規事業開発のプロジェクトなどが該当します。どちらもマーケットインの発想に基づく事業創造のプロジェクトです。
2分類目のセグメントには、事業創造を目的にしており、その発生要因が企業内部の要因によるプロジェクトが該当します。先ほどの例によると、4技術的進歩により発足するプロジェクトが挙げられます。その例としては、社内での研究開発が進み新しい技術の発明があったため、それを活用し新たな事業を創造するようなプロジェクトが該当します。事業創造にあたっては、社内のシーズと世の中のニーズの接点を探ることが必要になります。
3分類目のセグメントには、課題解決を目的にしており、その発生要因が企業外部の変化によるプロジェクトが該当することになります。大きく分類すると3顧客要求、5法的要件が挙げられます。3顧客要求により発足するプロジェクトの例としては、顧客の組織変更に合わせたシステムを提案・設計して導入させたいプロジェクトなどが考えられ、5法的要件により発足するプロジェクトの例としては、例えば、個人情報保護法が制定されたため、その法令を順守できるコンプライアンス体制を構築するプロジェクトが挙げられます。
4分類目のセグメントは、課題解決を目的にしており、その発生要因が企業内部の変化によるプロジェクトです。先ほどの例によると、2組織のニーズにより発足するプロジェクトが挙げられます。例えば、オフィスが古くなり社内が汚れてきたので、空いている時間を活用して社内美化を進めるようなプロジェクトが考えられます。
3分類目と4分類目のセグメントは課題解決を目的とするプロジェクトです。そこでは、あるべき姿が明確になっており、そこに到達したり、そのレベルに達するまで、現状を改善したり、現状とのギャップを埋める取組を推進したりすることになります。
今回はプロジェクトの定義、発足要因・目的について、ご説明させていただきました。
次回も引き続き、プロジェクトをテーマにご説明いたします。