デジタル社会の未来像 。挑戦と創造が切り拓く変化と成長の未来

 addlight journal 編集部

通信技術は、スマートフォンにとどまらず、自動車、医療、教育など、多岐にわたる分野で活用され、現代の生活において不可欠な存在となっている。「6G」や「Beyond5G」といった次世代通信技術に関する議論は年々活発化しており、これらの技術が私たちの生活や仕事に大きな変革をもたらすと期待されている。

このような状況の中、弊社主催ウェビナー「通信技術の進化がもたらす生活と仕事の未来」が開催された。本ウェビナーでは、登壇者には、さくらインターネット代表取締役社長の田中邦裕氏を迎え、次世代通信技術が私たちの社会に与える影響を探るとともに、技術革新のトレンドをどのように読み解き、ビジネスに結び付けるべきかについて議論が行われた。

また、東京都主催の「Tokyo NEXT 5G Boosters Project」の一環である「5Gで実現するスマートな暮らし」プログラムの説明も行われた。このプログラムでは、スタートアップ企業に対して、大手企業との実証実験や専任メンターによるサポート、資金調達の支援などが提供されるほか、大手企業向けにはスタートアップ企業との連携機会の提供や実証実験の支援が行われる。

本記事では、ウェビナーのサマリーを紹介する。次世代通信技術を活用したビジネス戦略のヒントを探る方々にとって、今後の参考になるだろう。

オープンイノベーションや事業立ち上げ、社内起業家育成ならアドライトへ!

「求めるスタートアップと出会えない」「新規事業が立ち上がらない」「社内起業家が育たない」とお悩みのお客様、まずはお気軽にアドライトへご相談ください。
事業開発のプロフェッショナルであるアドライトが貴社課題に合わせご提案します。

登壇者紹介

田中氏は高専在学中に起業をした異色の経歴の持ち主だ。通信インフラ事業に対する情熱を持ちながら、2005年には東証マザーズに上場。その後、プライム市場への市場変更を果たし、現在では通信インフラ業界の中核を担う企業へと成長させた。また、単に企業を運営するだけにとどまらず、若手起業家やエンジニアの育成、さらに60社以上へのエンジェル出資を通じて、日本国内でのスタートアップ支援にも力を注いでいる。

さくらインターネットとは

さくらインターネットは、データセンターの運営、クラウドサービスを提供する通信インフラ企業だ。2005年に東証マザーズ上場、現在はプライム市場に上場している。

クラウドサービスは、アマゾンのAWS、マイクロソフトのAzureなど、海外のビッグテックが存在感を示しており、国内外の競争が激しい分野だが、その中でさくらインターネットは国産企業で唯一ガバメントクラウドの条件付き認定を受けるなど、存在感を発揮している。

さくらインターネットの強みは、垂直統合型・自前主義にあると田中氏は語る。データセンターの設計・建設からソフトウェア開発、運用・保守までを自社で完結する垂直統合型のビジネスモデルを採用しており、これにより他社には対応が難しい特殊要件にも柔軟に応えることができる。このような技術力が認められ、ガバメントクラウドの条件付き認定や経済産業省による「クラウドプログラム」供給確保計画の認定を受けている。

技術の進化がもたらす産業の変遷

次に、田中氏はこれまで技術革新によってどのように産業が変遷してきたかを説明した。

まず、第1次産業革命(インダストリー1.0)では蒸気機関が普及し、工場が労働の中心となる産業社会が形成された。それまでは個々に仕事をしていた人々が集まるようになり、共同で働くために時計の必要性が高まった。また資本主義が登場してきたのもこの時期だ。

次に、第2次産業革命(インダストリー2.0)では電気とガソリンが導入され、自動車や大規模工場の発展が進んだ。講演ではこの頃の産業革命の象徴的なできごととして、馬車から車へおよそ十数年で移行したことを挙げたが、これは現代のVUCAと呼ばれる時代に匹敵するほどのスピードであり、100年も前から技術革新による大きな変革はあったと田中氏は指摘する。また、この変化により馬の世話をする仕事などは無くなったが、その代わりにフォードに代表されるような自動車産業が発展し、オイルメジャーなども出現しており、波に乗れた人たちは大きく発展もしている。

第3次産業革命(インダストリー3.0)は、いわゆるIT革命とも呼ばれ、情報技術と自動化により生産性が飛躍的に向上した時代だ。例として携帯電話の発展が講演では紹介された。初期型の携帯電話の登場から20年ほどでスマートフォンが登場し、スマートフォンは5年ほどで一気に普及した。ここでも産業革命による激しい変化が伺える。また、携帯が小型化した背景には電池やチップの技術進化が関係しており、これらは相乗効果で発展をしているという。つまり、スマートフォンという象徴的な技術革新の周辺領域の技術も発展することで、大きな変化が生まれることを示唆している。

そして、現在起きている第4次産業革命(インダストリー4.0)では、デジタル技術とAIによる全産業の高度化と融合が進んでいる。特に、中国やアメリカではロボットによる無人化が進んでいるが、日本はこの分野で遅れをとっている。AI技術の発展は目覚ましく、この進化の流れにうまく乗れるかどうかが重要であると田中氏は指摘する。

時代はクラウドからDX、そしてAXへ

ここまで歴史の変遷を紐解き、パラダイムシフトが起きたタイミングを振り返ってきたが、今はまさに新たなパラダイムとして「AI」が登場しており、DX(デジタルトランスフォーメーション)に続き、AX(AIトランスフォーメーション)が日本の経済成長の起爆剤になると田中氏はいう。

「トランスフォーメーション」という言葉には、全体をリビルドするような大きなインパクトがある。例えば、契約書のやりとり一つをとっても、単に紙からデジタル化するようなレベルの話ではなく、メールのやり取りをなくす、さらにはそもそも文章ではないフォーマットでやりとりするなど、抜本的な変化が起きることが「トランスフォーメーション」という言葉には内包されている。AXにおいても、抜本的に人手不足をAIで解消するぐらいのインパクトが期待される。

Beyond5Gについて

田中氏は「AI社会」を支える基盤として5Gに代表される通信技術の発展にも触れた。

5Gは、これまでの通信技術と比べて大きく異なり、完全にインターネットベース(IPベース)で構築されている点が特徴である。3Gでは音声通信にデジタルデータを付加し、4Gではデジタルを前提とした高速通信が可能になったが、ネットワーク構造は依然として中央集権型(スター型)であり、地元間の通信でも中央のサーバーを経由する必要があった。

これに対し、5Gではメッシュ型のネットワークが採用され、エッジコンピューティングによってユーザーに近い場所でデータ処理が可能になった。これにより、遅延が削減され、ドローンやロボットのようなリアルタイム通信が求められるアプリケーションが実現可能となる。また、Wi-Fiと異なり、5Gは管理されたネットワークであるため、電波の接続不良が少なく、高い信頼性を持つ。

さらに、ローカル5Gを活用すれば、企業が独自に基地局を設置し、自社内で通信を完結させることも可能になる。さくらインターネットでもローカル5Gの設備を活用したエッジコンピューティングの実証実験を行い、その成果をオープンソースとして公開している。

5Gの進化により、AIをはじめとする新しいテクノロジーを活用する基盤が整い、これをいかにビジネスに活かすかが企業にとって極めて重要な課題となっていると田中氏は指摘した。

スタートアップはどう行動すべきか

田中氏は講演の最後に、スタートアップ起業家に向けてメッセージを発信した。

まず、新規事業を成功させるためには、個人や企業が「好きであること」と「市場が伸びていること」の2つが重要であると田中氏は指摘する。好きな分野で活動している人には情熱があり、伸びる市場を選ぶことで持続的な成長が可能になると述べた。田中氏自身も、18歳でサーバー事業を始めた際に、好きな分野である通信インフラが急成長している市場であったため、学びながら事業を拡大することができたという。加えて、さくらインターネットが成長を続けている理由として、好きな分野で働きたいという内発的動機を持った社員の存在を挙げた。同社は『「やりたいこと」を「できる」に変える』という理念を掲げており、社員一人ひとりが情熱を持って事業に取り組める環境を整えている。

また、田中氏は、本業の領域が明らかに伸びている場合、既存の事業にフルコミットするべきだと主張する。無理に新規事業を増やすと、リソースが分散し、事業の焦点がぼやけてしまうためである。一方で、伸びない市場で事業を始めることは市場選択のミスであり、スタートアップにおいては致命的であると警鐘を鳴らした。

田中氏は最後に、AIや5Gなどの伸びている分野は参入者全員が成長できる可能性を持つ市場であり、このような市場を選ぶことが成功への鍵であると述べ、講演を締めくくった。

Q&Aセッション

Q&Aセッションでは、AIや通信技術の観点、スタートアップ経営の観点で様々な質問がなされた。

起業のスタートアップフェーズにおける挫折や課題をどう乗り越えてきたか

起業や事業運営における課題や挫折を乗り越えるためには、他者との対話や迅速な行動が重要であると田中氏は述べている。特に「壁打ち相手」を持つことが大切であり、自分の考えを話しながら整理し、新たな気づきを得ることができると強調した。

さらに、判断の遅さが失敗につながるケースも多いため、課題に気づいたら即行動する姿勢が必要だと述べた。田中氏自身は起業家団体に所属し、月1回のチームミーティングで自分の課題や失敗をさらけ出し、それを言語化することで学びを得てきたという。このプロセスを通じて、自分が何をやりたいのかを明確化する能力が養われると述べた。

AX(AIトランスフォーメーション)の進展が先行している分野

AX(AIトランスフォーメーション)の進展が先行している分野について、田中氏はホワイトカラー業務が主な対象であると述べた。特に物流業界や小売業のホワイトカラー分野で、AIを活用した業務の効率化が急速に進んでいると指摘した。また、自動車業界では、自動運転技術を中心にAIが製品そのものに組み込まれており、製品力の向上にAIを活用している点でAXが進んでいると評価した。

田中氏はさらに、AXの本質はコスト削減や業務改善ではなく、AIを自社の製品やサービスに取り入れ、競争力を高めることにあると強調した。AIを活用して新たな価値を創出する取り組みが、AXを成功に導く鍵であると回答した。

不確実性が高い状況で、どこに投資すべきか

次世代通信技術のように不確実性が高い状況で、現在の技術を活用するか、将来を見据えた開発を進めるべきかについて、田中氏は企業のリソースやステージに応じた判断が重要だと述べた。

スタートアップのように即座にキャッシュフローが必要な場合は、既存の技術を活用して短期的な成果を目指すべきである。一方、リソースに余裕がある大企業であれば、5年後の大きな利益を目指し、次世代技術の研究開発に注力すべきだと提案した。田中氏は、リソースについて「おみくじで大吉が出るまで引き続けられる力」と例え、余力がある企業はリスクを取るべきだと述べた。

田中氏はまた、スタートアップと大企業が連携する際の課題にも触れ、大企業は意思決定を迅速に行い、スタートアップの売上に寄与することでスタートアップの成長を支援すべきと提言した。特に、スタートアップに対して資金提供だけでなく売上機会を与えることが、双方にとっての利益を生む重要な要素であると強調した。

さらに、スタートアップの未熟さを理解し、手厚いサポートを行うことで関係性が深まり、長期的な信頼関係を築くことが可能になると述べた。大企業とスタートアップが共に成長するためには、こうした相互支援が不可欠であると結論づけた。

取材を終えて

講演で語られた通り、改めて産業の変遷を振り返ると、技術の進化は、私たちの生活やビジネスに大きな影響を与えてきたことがわかる。そして、今起きている「AI」による技術革新は間違いなく、これまでと同等か、それ以上のインパクトを持つ変化である。スタートアップ、あるいは大企業も、これから発展をしていくためには避けては通れないし、この波にいかに乗るかが、成長の鍵となる。

講演では、AIや5Gといった次世代技術を単なる効率化の手段として捉えるのではなく、製品やサービスの付加価値を高め、競争力を向上させるための武器として活用するべきだと強調された。これらの技術がもたらす変化は、既存のビジネスモデルや社会構造を根本的に再構築する可能性を秘めており、企業はそのポテンシャルを最大限に引き出す戦略を立てる必要がある。

関連イベントの紹介 | Tokyo NEXT 5G Boosters Project

最後に、本講演の関連プロジェクトである「Tokyo NEXT 5G Boosters Project」についてご紹介する。

Tokyo NEXT 5G Boosters Projectとは

東京都では、5G技術をはじめ、将来的な「Beyond5G」等も含めた次世代通信技術を活用した製品・サービス開発に取り組み、社会実装とともに企業価値向上を目指すスタートアップを支援するため、「次世代通信技術活用型スタートアップ支援事業を令和5年度より実施している。その中で、アドライトは「令和6年度採択開発プロモーター」としてスタートアップ支援を推進する役割を担っている。

より具体的には、5Gをはじめとした次世代通信技術を活用した製品、サービスの開発を行うスタートアップをアドライトが5社選定し、実証フィールドの提供や技術、事業拡大のサポートを実施する連携事業者(主に大企業側)との座組構築などを通じてイノベーション創出をするというのがコンセプトになっている。

参加スタートアップへの支援内容は、実証実験の機会提供や大手の通信キャリアや、実証フィールドの提供者となる大企業とのマッチング、資金調達機会の提供、人材や技術ネットワークなど事業創出へ向けた多角的なサポート、メンターによる伴走支援など多岐に渡る。このような全面的な支援を3年間実施する予定だ。

一方、連携事業者向けには、スタートアップとの共創機会や新規事業のシーズの獲得、新規事業創出のサポートなどを実施する。

注力領域としては、次世代通信技術と親和性の高い領域をピックアップしている。しかし、必ずしもここに限らない形で幅広く募集をしている。

スケジュール・応募方法

本プログラムの募集はすでに開始をしており、1月9日(木)18時までスタートアップの募集を行っている。

応募方法については、参加資格等の詳細も確認のうえ、以下のホームページ内の「エントリー」よりご応募いただきたい。
https://addlight.tokyo-next5g-boosters.com/