スタートアップとのコラボレーションが大企業の生存戦略上重要な時代に。欧州スタートアップが語る最新事例とは

 addlight journal 編集部

2022年2月9日、弊社アドライトは、日欧米スタートアップとのサステイナビリティ領域における事業共創プログラム「SUITz(スーツ)」連動企画として、クロスボーダーなウェビナーシリーズ「SUITz Global Climate Tech Webiner」を開催。

ゲストにSOSV Partner・Benjamin Joffe氏、PILI 共同創業者兼CEO・Jérémie Blache氏(フランス)、VoltStorage Founder & CTO・Michael Peither 氏(ドイツ)を迎え、地球の未来への存続を維持していく為の「サステイナブル・イノベーション」の最先端を追うとともに、イノベーターはどのようなビジョンやミッションを描いてイノベーションを起こそうとしているのかを語っていただいた。

前半は弊社熊谷を加えた4名の登壇者による講演が行われ、後半はトークセッションを実施。本記事では、ゲストスピーカー3名による講演の様子と、弊社代表の木村を交えたトークセッションの様子をお届けしたい。

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The State of Climate Tech 2022 -100社以上の投資と「SOSV Climate Tech Smmit」からの教訓-

(SOSV Partner・Benjamin Joffe氏)

まずは、SOSV・Benjamin Joffe氏から、VCとして100社以上の投資や大きなサミット(SOSV Climate Tech Smmit)を経て得られた「Clime Tech」に関する教訓が語られた。

SOSVは、グローバルに展開するVCファンドである。ディープテック分野を中心にアーリーステージのスタートアップを主な対象としており、運用額は$1.2Bに及ぶ。これまで世界中で1000社近くに投資しており、毎年100社ほどの新しい投資を行っているという。

SOSVはHardTech(HAX)とBiology(IndieBio)という支援プログラムを運営しており、この支援プログラムはFirstCheckで$250k-$500kを投資し、Follow-onでは1社につき最大$ 5Mの投資が行われる世界でも最大級のプログラムだ。

投資対象となる主なテーマは「Climate Tech」や「Human Tech」だ。支援プログラムのBiology分野では合成生物学、バイオマテリアル、治療学などに、HardTech分野ではロボティクス、IoT、医療機器、コンシューマデバイスなどに注力をしている。

Climate Techを大きく分けると5つのカテゴリーがある。投資先の事例としては、以下のような企業に投資をしている。

エネルギー分野では、より効率的な蓄電/発電の技術やリチウム電池などエネルギー分野に関わる素材のリサイクルなどに注目している。

食料、農業の分野では、植物由来食品、微生物を活用した発酵でタンパク質を生成する技術、細胞培養技術などが投資対象だ。この分野では世界中の中産階級の増加に伴うタンパク質の不足をどう解消するかが大きなトレンドだ。

輸送の分野では、電気自動車など公共的な乗り物も含めて電気化が進んでいる。

産業分野では、バイオマテリアルやロボティクス、産業プロセスなどがある。いかに、新しい世界が作られているかが問われている。

建築業のところでは、効率よくエネルギーを利用していくかがポイントとなるようだ。

SOSV Climate Tech Summit

また、SOSVでは「Climate Tech Summit」というイベントを2021年に初開催している。そこでは、ビル・ゲイツをはじめとする著名な投資家やスタートアップが登壇している。

ビル・ゲイツが「Climate Tech企業から次のテスラ、グーグル、アマゾン、マイクロソフトのような巨大企業が8〜10ほど生まれるだろう」と述べれば、Blackrock CEOのラリーフィンクも「巨大企業だけでなく、Climate Tech企業から1000を超えるユニコーン企業が生まれる」と語った。

また、「Climate Tech Summit」はスタートアップエコシステムの急成長に不可欠なネットワークの深化を加速させることが目的の1つだが、参加者らは「新しい素材の開発」や「サプライチェーンの効率化」、「地産地消」について各自課題を話し合ったという。

講演の最後にはClimate Techを進める上での考え方について紹介された。「Climate Techでは、富士山の登頂のように5合目からスタートできるわけではなく、1合目から一つ一つ登っていく必要がある。フェーズによって必要な技術や顧客、資産は変わっていく。成果が出るまでに時間がかかるので、Climate techへの投資は覚悟が必要だ」とBenjamin Joffe氏は語った。

微生物由来の色素がもたらす壮大なる可能性

(PILI 共同創業者兼CEO・Jérémie Blache氏)

PILIは、世界で初めて微生物由来の染料や顔料等のバイオ素材の開発を手掛ける2015年創業のフランス発スタートアップだ。「サステイナブルな染料・顔料を生産し、色素産業の環境フットプリントを削減すること」をミッションとして掲げている。

現状の色素産業を取り巻く課題は、原料に化石燃料を使った顔料が多く、製造するのに汚染を経ている点だ。300°まで熱する必要があったり、酸性が強かったり、有害物質が含まれていることもある。この課題に対して、PILIは環境に優しいバイオマスを使った代替案を提示する。

技術としては発酵プロセスを利用する。バイオマスを発酵する過程で発生する化学中間生成物を利用し、染料や顔料のような他の化学物資を生成している。発酵は効率よくバイオマスから有機化合物を生み出すことができるが、開発にお金と時間がかかる。そのことが競合他社との差別化にも繋がるという。

作られた有機化合物は服、パッケージ、印刷物、化粧品の塗料など、さまざまな用途が期待できる。現状、デニムの染料などに使われるIndigoに注力しており、来年には20トン以上の生産を行えるように準備を進めている。その後顔料や、塗料へと適用へと拡大していく。向こう数年の拡大に向けて、世界中で大規模な工場の建設を予定しているとのことだ。

「競合は大手の化学企業」とPILI。。彼らも有機化学を利用しているが、従来の化石燃料がベースになる。一部技術革新が進んでいるところではバイオマスも使われているが、単一での活用でしたかにという。

「PILIではバイオマスと有機化学を組み合わせることで、環境に優しく、安定した品質の顔料・塗料を生み出すことができる」とJérémie Blache氏は語った。

自然エネルギーが24時間安定的に利用できるサステイナブルな世界

(VoltStorage Founder & CTO・Michael Peither 氏)

VoltStorageは、太陽光や風力などの自然エネルギーを独自のストレージ技術で24時間安定利用を実現するドイツ発のスタートアップだ。「持続可能なバッテリーソリューションで自然エネルギーを24時間365日利用可能にする」をミッションとして掲げている。

太陽光発電や風力発電などに代表される再生可能エネルギーは発電量が天候に左右されることもあり、安定的に利用するためにはリチウムイオン電池のような蓄電技術が欠かせない。

しかし、リチウムイオン電池の技術だけでは量的な限界がある。そのため、リチウム電池に変わるような蓄電技術が必要であるという。長期的に保存ができる電池があれば、風力や太陽光をベースロード電源として活用でき、ガス火力発電、水力発電から代替することができるようになる。

そこで、VoltStorageは新たな電池として「鉄塩電池」を開発した。鉄と塩化物は世界中で豊富に存在する素材のため、調達が容易という特徴を持つ。

鉄塩電池はリチウム電池と比べて、多くの点で優れているという。例えば、生産コストはリチウム電池の10分の1に抑えることができ、-10°〜60°の環境下で使用ができる。また、約10,000回の充電が可能で、10〜100時間ほどの充電が可能である。

「鉄塩電池はあらゆる場所で分散型ベースロード電力を供給するための最適な技術だ」とMichael Peither 氏は語る。

仕組みとしては、鉄塩を水に溶かした超低コストの電解液で電気を蓄えている。それらをポンプで自社開発したセルとつなぎ、電気エネルギーに変換している。この技術の優れているところはエネルギーと電力を独立して拡張ができ、エネルギー容量のコストが抑えられる点と長期保存に適している点だという。

すでに250もの顧客に提供されており、稼働時間は1億時間を超える。これは世界で最も大きなフロー電池のネットワークであるとMichael Peither 氏は語る。現在は家庭用を中心に提供されているが、今後はより規模を拡大していき大きなバッテリーシステムを創りたいとした。

Talk Session -持続可能なイノベーションを推進するボーダレス・オープンイノベーションのあり方-

イベント後半では、弊社代表・木村を交えたトークセッションが行われた。

SOSV・Benjamin Joffe氏へ「講演の中でClimeTechを進める上でステージを一つ一つ登っていく必要があると説明されたが、その中でどんなところがチャレンジングになるか」と質問。
それに対し、Benjamin氏は「実はどのステージも結構難しく、その難易度は産業によっても違うが、多くのスタートアップは投資家やパートナーを集める段階が最も困難になりやすい」と回答。

「Climate Techに対して注目が集まっているが、パイオニアとしてどう感じるか」という質問には「クリーンテック投資が勃興した2011年ごろと比べて、今回の動きはボトムアップとトップダウンの両側面からトレンドがきており、これは最高の状態である」と述べた。

また、大企業とスタートアップとの協業については「大企業側は投資家的な視点が必要だと思う。例えば、何社かと一緒にやってそのうち数社がうまくいけばよいぐらいの考えで、スタートアップに対し寛容に対応すべき」と語った。

PILI ・Jérémie Blache氏、VoltStorage・Michael Peither 氏の事業を実際に進めている2人には「現在事業を進めていく上で出てきている新しい課題は何か」という質問がされた。
PILI ・Jérémie氏は、「生産拠点を作ることが事業拡大に必要になる。そのためには、事前発注をもらうことが大切になるため、アーリーアダプターを獲得することがキーになる」と回答した。

また、大企業とのコラボレーションの可能性については「2つの協力の仕方があると思う。まずはサプライヤーとしての協力方法がある。我々が納品し、テストを行い、改善を行っていくというのが一緒にできるとベストである。次に、製品開発で協力する方法もある。また、PoCという方法をとれば、大手企業は財務的なリスクをヘッジしながら開発を進めることもできる」と語った。

VoltStorage・Michael 氏は、「我々も同じような課題であり、まずはパイロットを回すことが大切で、そのために一緒に取り組んでくれるパートナーを探すことが大切」と語った。
また、大企業と一緒に取り組みたいこととしては「エネルギーセクターは大企業が多い。大企業は資金や規模も大きく、大きなユースケースを作ることができる。電力会社と我々の持つ蓄電技術などを今後はコラボレーションしていきたい」と回答した。

Q&A Session

Q&Aセッションではオーディエンスからもゲストスピーカーに向けて質問がされた。

PILI ・Jérémie 氏へは「日本の市場についてどう思うか」と質問された。これに対し「日本は高い技術を持っている。我々の持つ技術に興味を持ってくれている会社があれば、ぜひ一緒に取り組みたい」とJérémie氏は回答。

VoltStorage・Michael 氏へは「小型バッテリーは住友電装やMITなどを始め、競合他社も開発が進んでいる。その中でVoltStorageがもつ最大の強みは何か」と問いかけられた。Michael 氏は「我々は鉄塩で電解槽を作ったり、セルを作っているが、この技術は特許をとっている。技術の根幹は確かに競合と近い部分はあるが、どの素材を使うかで差別化ができている」と回答した。

次に、ゲストスピーカーに対し「農業についてどう思うか」という質問が投げかけられた。
SOSV・Benjamin 氏からは「まだまだチャンスはあると思う。例えば、農業プロセスの改善余地はまだまだあり、センサーやドローン、宇宙衛星の利用などの例がある。ロボット関係にも投資が集まっており、肥料関係なども注目されている」と答えた。

VoltStorage・Michael 氏は、「太陽光パネルなどで接点はある。バーティカル農業などは多くのエネルギーを必要とする。現状はターゲットの市場ではないが、潜在的な技術応用分野になりうる」と回答。

PILI ・Jérémie 氏は「原材料としてバイオマスを使っているので、今後農業は投資対象としても注目している」とした。

スタートアップとのコラボレーションが大企業の生存戦略上重要な時代に

最後は、ゲストスピーカーからのメッセージで締められた。

SOSV・Benjamin 氏からは「Climate Techは大きなカテゴリーであり、急成長している。今後、あらゆる産業に大きな影響を与えるだろう。そして、あらゆる産業の大手企業は、これからスタートアップとコラボレーションをしていく必要がある。そうしないと、競合がスタートアップと一緒に組んだり、小さいと思っていたスタートアップが急成長して脅威になることになる。大企業とスタートアップはコラボすることでWin-Winな関係が築くことができ、一緒に成長していくことができるとVCの立場から、オーディエンスにメッセージを送った。

PILI ・Jérémie 氏からは「新しいテクノロジーに関わるのは小さい企業にとってもスタートアップにとっても楽しい取り組みだと思う。もし、我々とコラボレーションができても、できなくても、他のフランスのスタートアップも紹介することができるので、ぜひ興味があればコンタクトして欲しい」と語った。

VoltStorage・Michael 氏は「スタートアップときくと、シリコンバレーを代表としたアメリカ企業を思い浮かべることも多いと思うが、ヨーロッパにも魅力的なスタートアップは多数存在する。そちらにも注目すべき」と締め括った。

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