食品製造現場で深刻化する人手不足問題にフードテックで立ち向かう​─2025年度第2回みやざきフードテックセミナー

 addlight journal 編集部

2026年2月10日、宮崎県宮崎市のMOC(宮崎オープンシティ推進協議会)にて、「2025年度第2回みやざきフードテックセミナー」が開催された。本セミナーは宮崎県が主催し、株式会社アドライトが運営を担い、「フードテックで人材不足に立ち向かう!」をテーマに実施された。

イベントでは、食品製造現場で深刻化する人手不足の課題に対し、テクノロジーを活用して取り組む企業等によるパネルディスカッションが行われた。パネルディスカッションには、フードテック、ロボティクス、DX、投資といった多様な領域から第一線で活躍する経営者・実務家が登壇した。

人手不足は全国の食産業が直面する共通の課題であり、本イベントでの知見は他地域での取り組みにも広く活用できる内容となっている。本稿では、県内・県外の先進企業を交えたパネルディスカッションの模様をレポートする。

みやざきフードテックとは ―フードテックが問われる時代背景

フードテックとは、「フード」と「テクノロジー」を組み合わせた造語であり、生産から加工、流通、消費、廃棄に至る食分野全体の新しい技術、およびその技術を活用したビジネスモデルを指す。

宮崎県は農業産出額が全国トップクラスであり、多様な農畜水産品とそれらを活用した加工商品が数多く生み出されている。しかし、農林水産業や食品関連事業者は人手不足に直面し、採用ができない、人の定着に困っているといった課題が深刻化している。この課題に対し、フードテックの導入によって人材不足に対応する動きが全国的に進んでおり、宮崎県内でも先進的に取り組んでいる事例が出てきており、本会でも紹介されている。

第一回の様子はこちら:https://journal.addlight.co.jp/archives/suitz_event_20251028/

登壇者のご紹介

地方発ラグジュアリーブランドの挑戦――ジャパンキャビア

最初に登壇したのは、ジャパンキャビア株式会社代表取締役の坂元氏である。1961年宮崎県日南市生まれで、建設会社勤務を経て2009年にチョウザメ養殖の可能性に着目し事業化。2013年に宮崎キャビア事業協同組合を設立し事務局長を務め、2016年の株式会社化に伴い代表取締役に就任した。

同社のコンセプトは「幸福な一皿と調和する」であり、「キャビアが何かの料理にちょっと乗っているだけでなんか幸福な気持ちになりませんか。幸運が舞い込んでくるようなワクワク感のある、そういった食材を作っている」と説明した。

ジャパンキャビアは3つの柱で事業を展開している。第一の柱は「キャビア事業」で、ブランド「宮崎キャビア1983」は1983年に日本に初めてチョウザメが旧ソ連から導入されたことに敬意を表して命名された。第二の柱は「加工品製造販売事業」で、キャビアの粉末を使った塩や醤油、キャビアに合うウォッカ、さらにはキャビアエキスを使ったハンドクリームなど多彩な商品を開発している。第三の柱は「商社事業」で、5つ星ホテルや3つ星レストランとの直接取引を通じて宮崎の優良食材を高級市場に届けている。

坂元氏が特に誇りを持って語ったのは、G7サミットでの採用実績である。「G7伊勢志摩サミットに採用されたことで一気にブランド力が上がった。続けてG7広島サミットでも連続採用されるという本当にありがたいお話をいただき、2回連続でG7サミットに採用されるのはなかなかない」と述べた。さらに国際線ファーストクラスやモナコ公国での採用実績を説明した。

価格戦略についても坂元氏は明確な方針を示した。「今、日本には中国産の安いキャビアが入ってきており、値段では絶対に負ける。中国産キャビアが大体グラム100円台で販売されているが、うちはその5倍ぐらいで販売している。その5倍の付加価値をつけるために、和のキャビアとして醤油や鰹だしといった日本ならではの味付けで世界に挑戦していこうという会社だ」と述べ、価格競争ではなく付加価値競争で勝負する姿勢を鮮明にした。

調理の自動化で持続可能な食産業を――TechMagic

次に登壇したのは、TechMagic株式会社執行役員事業本部イノベーション営業部部長の白木氏である。2007年に日本大学商学部を卒業後、株式会社リクルートに入社。2011年に株式会社エアウィーヴに転職し、中国法人の立ち上げとマネージングディレクターとして中国市場での事業展開を経験。2019年にTechMagic株式会社に入社し、現在は執行役員営業部長として外食、流通、小売、食品メーカーに対する技術支援を行っている。

TechMagicは2018年創業の食領域に特化したスタートアップで、食のバリューチェーンにおける川下、つまり最終調理を中心に事業を展開している。同社は創業以来、調理ロボットと業務用ロボットの2つの分野で受託開発を進めてきた。白木氏は「創業当初はやはりお金がありませんので、企業様ごとのカスタマイズのものをやっていった。時間をかけて、徐々に受託比率を下げて、直近では自社プロダクトの比率が8割を超えるような形になっている」と説明し、ビジネスモデルの転換を図ってきたことを明かした。

調理ロボットの代表例として、プロントコーポレーション社と共同開発したパスタ調理ロボット「P-Robo」がある。「1時間に75食、45秒の間隔で連続的に出していくことで、これまで3人かかっていた業務を1人で美味しくできる」と白木氏は説明した。もう一つの主力製品が炒め調理ロボット「i-Robo」である。「鍋の温度を自動的に制御することで、メニューごとに最適な調理を行う。これまでは職人の方の技や経験に属人化されていたが、我々はそれをきちんと吸い上げて、デジタル化して、データ化してソフトウェアにすることで、ボタン1つで研修が0日の従業員の方でも職人と同じ味を出せることを目指して開発した」と語った。さらに炒め調理を連続的に行う上での洗浄機能を組み込むことで、1台で多品種提供を実現している。

白木氏が特に注目しているのが、異業種からの飲食参入である。「ガソリンスタンドの方が飲食店をやってみようとか、木材屋さんが新しくこういったものを使って新業態をやりたいといった動きがどんどん出てきている」と紹介した。また、地方からの問い合わせの多さにも言及し、「我々へのお問い合わせには、3代続いている地元の名店が、後継者がいなくて困っている、そこに対してこういう切り口でできないかというお問い合わせが本当に多い。都心の大都市というよりも、地方からの方がよりお困りの声が深くて多いという印象を受けている」と述べ、持続可能な食産業の実現に向けた決意を示した。

さらに白木氏は食品工場向けコンソーシアムの取り組みも紹介した。「食産業全体の共通課題を解決したいという思いがある。工場における各社のコア技術はそれぞれあるが、非コア領域での困りごと、こういったところに各社共通の要素があることに気づいて、「未来型食品工場コンソーシアム」を立ち上げた。工場における生産性の向上を各社が横並びで手を取りながらやっていこうとしている」と説明し、規模や地域を超えた連携の可能性を示唆した。

データとAIで従業員の心と時間を守る――コリニア

3番目の登壇者はコリニア株式会社代表取締役CEOの小倉氏である。富山県出身で、早稲田大学、東京大学大学院を卒業後、商社で海外市場開拓・構築に従事。その後、戦略コンサルティングファームを経て、2013年にDXコンサルティングファームであるコリニア社を起業した。

コリニアは食品産業を中心にDXコンサルティング・商社機能を提供しており、特に需要予測、生産計画の最適化、在庫管理などのAI活用支援を得意としている。小倉氏はAIが勃興する以前から、データ活用の重要性を実感し、強化してきたという。現在は生成AIなども用いて、ビジネス検討とプロダクト実装の双方からアプローチをしている。直近では、日本のIT企業である株式会社ココペリとタッグを組み、生成AIを活用した日本発のITプロダクトをASEANに広げていく活動も行っている。

また、2022年の日本DX大賞を受賞した富山県で140年続く食品製造業である株式会社源との取り組みについても紹介された。「『従業員の心と時間の負担を軽減する需要予測DX』の取り組みで支援賞をいただいた。2025年には経済産業省より、AIを実装させたITプラットフォーム事業、産地支援で表彰を受けた」と述べ、実績を示した。

VCの視点から見る一次産業の未来――オイシックス・ラ・大地

4人目の登壇者はオイシックス・ラ・大地株式会社CVCの梅村氏である。同社のコーポレートベンチャーキャピタルファンドマネージャーとして、フード&アグリテック領域に特化した投資・支援活動を展開している。

梅村氏は自己紹介で、「VC業界には珍しく、フードとアグリ、食と農に特化したVCです。領域は広く、農業用ロボットから、代替プロテイン、アップサイクルなど、38社のスタートアップへ投資をしており、2社のExitに成功している」と説明した。

特徴的なのは、オイシックスのCVCでありながら、オイシックスの出資比率はマイノリティであり食のサプライチェーンにかかわる事業会社や金融機関など様々な企業の出資によって運営されている。「オイシックスだけではなく、様々な事業会社でエコシステムを構築してスタートアップを支援していくことを強みとしたVCです」と梅村氏は同社の特徴を強調した。

パネルディスカッション――人材不足への処方箋

モデレーターを務めた弊社・木村の進行のもと、4名の登壇者によるパネルディスカッションが行われ、各社のフードテック活用について深掘りされた。

フードテックを始めたきっかけと実践内容

まず、モデレーターの木村から「各社がフードテックを始めたきっかけと実践内容について」質問が投げかけられた。

坂元氏は「一番のフードテックを始めたきっかけは、社内の困りごとの解決だ」と明快に答えた。同社ではチョウザメを育てる部門を養殖業者が担当し、ジャパンキャビアがキャビアを製造する体制をとっている。その中で養殖業者が直面した最大の課題がチョウザメの雌雄判別だった。「チョウザメは3歳ぐらいになるまで雌雄がわからない。どうしているかというと、1匹ずつ網で揚げて、お腹を切って、白子か卵かを見て、それを縫ってまた池に戻すという作業をやっている。これが大体1匹あたり10分から20分ぐらいかかる」。この極めて労力のかかる作業を何とかしたいという思いから、最初に取り組んだのがPCR検査によるDNA鑑定だったと坂元氏は語った。「つまりは困りごとを解決するためにフードテックを始めた」と述べ、現場の課題解決こそがフードテック導入の原動力であったことを明らかにした。

白木氏は2つの観点からフードテック創業の背景を語った。一つは産業構造の課題である。「まず、マクロ的なところから申し上げると、やはりそのフードの領域における流通の部分、特に外食産業の高い廃業率や新規就労者の低下、また低い利益率、こういったところから持続可能な産業になるのかなという高い疑問を持っていた。そういったところで、テクノロジーを使うことで持続可能な産業にできないかと考えた」と説明した。

もう一つの原動力は、祖母という身近な存在にあった。九州で一人暮らす祖母が、加齢とともに大好きだった料理ができなくなり、身体が衰えて元気を失っていく。そんな「家族の切実な変化」を目の当たりにしたことから食の本質に気づいたという。「食って人を良くすること、食事という風に分解すると言うが、そこに目をつけた時に、誰でもおいしい食事を、もしくは場所や期待を超えて提供していくということにとても価値があると気づいた。この思いは自分たちだけではなく、他の人もきっと同じ困りごとを持っているはずだと感じた。そこから産業としてのチャンスとパーソナルな思いの両方を原動力に創業した」と述べ、マクロとミクロ、両方の視点が創業の原動力になったことを明らかにした。

小倉氏は「弊社はどちらかというとフードに入ったのはお客さんがいたからで、人材不足という課題があった」と述べた。未来予測は難しいが、その中でも人口動態の変化は比較的予測がしやすく、人材不足になることは明らかであった。そのため、起業した当初から、人材不足への対処を事業の核に据えていたという。

人材不足という確実な未来を前にして、小倉氏は「業務自体をなくせばいいのじゃないかと思った。人間がやることは、本当は2割か3割ぐらいしかなくて、あとの7割ぐらいを今で言うAIやDXテクノロジーを使って自動化してしまえば、わかりやすく言うと3倍ぐらいの生産性になるし、3倍になれば人口が減ったとしても日本は成長できると思った」と語った。

梅村氏は小売と生産の両面から課題を提示した。オイシックスは、小売を軸にしているが、実は生産サイドとも直接契約を行っている。その中で、生産側の調達リスクが顕在化しているという。また、顧客側の変化にも触れた。お客様一人ひとりのニーズやライフスタイルが本当に多様化している。オイシックスだけの商品開発ではカバーしきれない中で、出資しているスタートアップと一緒になって面白い商品を作ることに取り組んでいる」と述べ、フードテックにCVCとして関わる意義について説明した。

フードテック導入による自社事業への影響と変化

続いて木村から「フードテックに取り組んだことによる自社事業への影響や変化」について各社に尋ねられた。今度は梅村氏から回答が始まった。

梅村氏はまず、危機感をきっかけに様々なスタートアップと協業を進めてきた経緯を振り返った上で、具体的な取り組みとしてクラフトマーケットという売り場の存在を紹介した。これは国内外のスタートアップ商品を販売するオンライン上の実験的な売り場で、アップサイクル商品やコオロギのスナックなど、先進的な商品を取り扱ってきた。お客さまからのフィードバックが直接的に得られるため、お客さまに求められている商品がわかる一方で、全く売れない商品も明確になる。こうした学びが事業にとって大きな気づきになっているという。

また、同社の主力商品であるミールキット「Kit Oisix」とスタートアップとのコラボレーションも進展している。約20分で主菜と副菜が作れるこのキットは、最近では腸内細菌を研究するMetagen社や、希少な食材を扱う企業などとコラボレーションしている。梅村氏は「これまでいろんなメニューを展開してきたが、機能性や希少性といった新しい切り口の商品が出てきて、プラットフォーム側としては非常に良いサイクルが生まれている」と評価した。

小倉氏は、フードテック領域が一次産業から三次産業まで幅広いことに触れた上で、2013年の創業初期から取り組んできた経験から得られた知見を語った。まず、一次産業から三次産業まで関わる中で、どこにDXが効果的に機能するかというポイントが非常に見えやすくなったという。さらに興味深い発見として、ソリューションの観点から業界を超えた共通性が見えてきたことを挙げた。小倉氏は「需要予測は食品に限らず、観光業界やエンターテインメント業界でも共通する課題だ」と指摘し、同じ課題が異なる業界に存在していることを食品業界での経験を通じて理解できたと述べた。

その理由について、「食は人間の根源的な活動に近い業界だからこそ、そうした共通性があるのだろう」と分析し、他業界への知見の展開は容易ではないものの、蓄積した知見を活かしやすいことは間違いないと結論づけた。

白木氏は、顧客との関わりを通じて同社内の考え方がアップデートされたと語った。当初、自動化というと既存業務の再現や人の仕事を奪うものと見られることがあり、コスト削減の側面が強調されがちだった。しかし実際に導入した顧客から最も喜ばれたのは、まったく別の価値だったという。

白木氏によれば、顧客からのフィードバックで一番多かったのは、社員が本来注力すべき領域にしっかりコミットできるようになったこと、そして今まで見えなかった視野で全体を見渡せるようになったことだった。例えばシェフであれば、時間の余裕ができたことで、これまで提供できなかった新しいメニューの開発に取り組める。店長であれば、店舗全体を俯瞰して見渡す時間が確保できるようになる。

こうした経験を通じて、同社は「活人化」という言葉を積極的に使うようになった。白木氏は「コストを下げて省人化、つまり人を減らすのではなく、より人の能力を拡大する。これがテクノロジーとの融合による本質的な価値だ」と強調し、この気づきは顧客から教えてもらったものだと語った。

坂元氏は養殖業者の高齢化と労働力不足という切実な課題から話を始めた。最大の困りごとだった雌雄判別について、PCR検査による解決を進めたものの、それでも粘液を採取してジャパンキャビアに持ち込むという人手が必要だった。そこで同社はさらに一歩先を見据え、近畿大学と県水産試験場とで共同で雌しか生まないチョウザメの開発に取り組んでいる。坂元氏は「あと3、4年もすれば雌しか生まれないチョウザメが実用化され、そのまま大人になっていく。そういったテクノロジーを使って、この困りごと自体をなくそうとしている」と説明した。問題を解決するのではなく、問題そのものを消滅させるアプローチである。

また、同社は対米HACCPとEUHACCPの両方を持っているため、それぞれで異なる書類や管理内容が必要となり、輸出の際にもそれぞれ違う対応が求められる。以前は紙で管理していたこれらの業務を、自社のシステムに合わせた管理ソフトウェアを開発することで自動化した。坂元氏はこの取り組みによって「すごい効率化が図れた」と成果を語った。

フードテックを通じた人手不足解消への取り組み

セミナーのメインテーマである人手不足解消について、木村から各社の具体的な取り組みについて質問が投げかけられた。

坂元氏は深刻な人口減少の現実から話を始めた。「未来カルテ2050」によれば、宮崎県の人口推計は、2050年には約27万人の人口が減少すると予測されている。坂元氏は「そういった中で、我々中小企業にどうやって人を呼び込むかというのは、もう無理だと思っている。今の同じ人員で売り上げを2倍にする、生産量を2倍にする取り組みに今シフトしている」と明言した。具体的な取り組みとして、坂元氏は「全社員AI装備」という構想を掲げた。全社員がAIを使えるようにする取り組みの第一段階として、自社独自のAIを開発している。

木村から新技術を積極的に導入できる背景について尋ねられると、坂元氏は率直に答えた。新しいシステムを導入する際、最大の障壁は従業員からの抵抗だという。使い慣れたシステムから変更することへの不安から、できない理由を並べられることが常だ。

そこで坂元氏が採用したのはトップダウンのアプローチである。「やってみてできないことを解決していく」という方針のもと、全社員AI化を宣言し、毎週の朝礼で社員に「私は今こんなAI活用をしています」と発表させる取り組みを行っている。こうしてAIを身近に使えるようにしているのだという。

白木氏は、「未来型食品工場コンソーシアム」での取り組みを紹介した。各社が共通で抱えている課題、例えば少量多品種の粉体や液体を計量する作業など、属人化した業務が残っている。こうした課題を1社だけでなく、手を取り合って解決していく動きが今後の大きなトレンドになると白木氏は見ている。

さらに白木氏は、AIやテクノロジーが民主化されて誰でも使えるようになった時代の到来を指摘した。「今まで大企業が資本のパワーで優先的にやってきた業務が本当に民主化されて、地域や規模に関わらず活用できるチャンスが広がっている」と述べ、同社も率先して社内で活用し、顧客にもその恩恵を届けていると語った。

特にハードウェアだけでなく、ソフトウェアの導入コストがどんどん下がっていく傾向にあり、これが加速していくという。白木氏は「人手が少なくなっていくというのはもう変えられない事実なので、その中で生産性を上げていくということにきちんと向き合う。今からそういった取り組み自体が5年後、10年後に、取り組んだ段階で生き残ってさらに価値を上げていく必須の選択だ」と強調した。

木村から導入時の人手や難易度について問われると、白木氏はトライアル期間を設けたテストの重要性を語った。オペレーションを大きく変えることへの不安、仕事がなくなるのではないかという懸念に対しては、「新しい価値が生まれるということを訴求していきたい」と述べた。実際に使ってみて初めて、今までできなかったことができるようになったという発見があることが多いため、まず試してもらい、その知見を横展開していくアプローチを取っているという。

小倉氏は富山県の140年続く水産食品製造業、源(みなもと)の事例を紹介した。この事例で特筆すべきは、社長が最初から数字の話をしなかったことだという。売り上げを上げたいとかコストを下げたいという話ではなく、社長が語ったのは「とにかくかっこいい、若い人が来たくなるような会社にしたい」という思いだった。AIやテクノロジーを使って、今新しい取り組みをやっている会社だと示すことで、若い人に「すごいな、あそこは本当に面白いことをしようとしている」と思ってもらえる会社にしたかったと振り返る。小倉氏は「人材不足はすごく難しい課題だが、求人が難しい時に、今一度どういう人に来てほしいか考えた時に、やっぱり結局かっこいいプロジェクトをやっていることでしか打開できないので、それはやるしかない」と述べた。

さらに小倉氏は、日本の潜在的な可能性について言及した。日本はGDPで世界4位まで落ちたが、これは女性の力をまだ十分に活用できていないことの裏返しだという。「女性が働きやすい会社にすれば、この人口でももう一回、GDP3位ぐらいにいけるのじゃないか」と小倉氏は考えている。そのためには、良い意味で楽ができるように、生産性を上げることが今のAIやDXでできることであり、やるべき課題だと語った。コリニア自身も社内でこの実践を行い、「嫌なことは嫌なことで、やらなくていいことはしなくていい。それを技術で自動化することで、自分がやりたいことに集中できる環境を作れるのではないか」と述べた。

木村から実際の結果について問われると、小倉氏は「噂で広がって、実際に採用に好影響があり、社長の顔が明るくなった」と答えた。商工会などでも評判になっているという。

梅村氏からは、宮崎県に一次産業企業が多いことを踏まえ、アグリテックの事例をいくつか紹介した。まず取り上げたのは、宮崎県のテラスマイルという会社である。この会社はスーパーや外食企業が求める野菜や米と、生産者側の供給をマッチングする事業を展開している。生産者側には安定的な出口があるというメリットがあり、小売店側には調達リスクを軽減できるメリットがある。

次に紹介されたのは、EF polymer株式会社のオレンジやレモンの皮から吸水性ポリマーを作る技術である。天然素材のため土に残らないこのポリマーは、水やりの効率を改善する。梅村氏は「夏場の水やりは特に負担が大きいので、それが少なくなるだけでもかなりの労力削減になる」と説明した。

さらに、畜産分野での事例も紹介された。牛の飼育では、突然倒れたりする異常行動の早期発見が課題となっている。株式会社ファームノートの技術では、デバイスを使った監視システムで異常行動を検知できるようになり、発情期の把握もできるため、繁殖効率の向上にもつながっているという。梅村氏は「農業においても畜産においても、いろんなスタートアップの技術があるので、課題があればぜひ相談してほしい」と呼びかけた。

木村からVCの観点で人材不足について注目しているポイントについて尋ねられると、梅村氏はグローバルな視点から、人手不足や高齢化といった課題において、日本は世界で最も先行していると答えた。「介護の分野などでも、グローバルで見ても日本が一番進んでいて、その後どこかの国は同じように日本の道をたどる。VCとしても、技術的にはすごくそこにチャンスがある」と述べた。日本で確立した技術が、10年後にそのまま世界に展開できる可能性があるため、「人材不足や高齢化みたいなところは非常に注目している」と語った。

フードテック導入・推進における課題と将来性

パネルディスカッションの締めくくりとして、木村から「フードテックを導入、推進する上での課題と将来性」について質問が投げかけられた。

梅村氏は、先ほどまで語ってきた将来性とは真逆のことを言うと前置きした上で、フード&アグリテック領域の厳しい現実を語った。日本でこの領域に特化したVCは1〜2社程度しかなく、極めて珍しい存在だという。その理由は単純で、これまでこの領域でリターンを生み出すことが非常に難しいとされてきたからだ

梅村氏は「今、スタートアップといえば宇宙、AIといった感じだが、我々はフードとアグリという、すごく手触り感のあるところで取り組んでいる」と述べた。だからこそ、この領域は1社だけで取り組むのではなく、フードアグリにかかわる多くのプレイヤー全員で進む船のようなものだという認識を示した。

その上で梅村氏は、都市も地方も関係なく、産業全体で取り組んでいく必要があると強調した。新しいことを始めるには間違いなく費用がかかるが、「商品や設備にフードテックを導入することによって、費用対効果や採用面でのメリットがあり、それが全体として積み上がっていくと、この領域で日本がより世界で存在感を示せるようになる」と将来への期待を語った。

小倉氏は支援者側の立場から、事業者がなかなか言いにくい点について語った。導入を決断する際、通常は数字で判断する。コストが下がる、作業時間が下がるといった定量的な指標で、経営者や決裁者は判断を行う。しかし、小倉氏が指摘したのは、一次産業などでは数値化できない部分が非常に大きいという点だ。具体例として、工場で魚を解凍する作業を挙げた。この作業では、朝の1時や2時に出社して水を流しっぱなしにする必要がある。これを数値化して判断軸にしようとすると、コンサルタントとしても水道代ぐらいしか算出できない。

小倉氏は「そうではなくて、その寒さに耐えること、朝早く起きることなど、数値化しにくいところが色々ある。そこも含めて判断してほしい」と訴えた。お金も時間も大事だが、実際に働く人にとって、テクノロジーを1つ導入するということは、その働き方が楽になり、働く人の力が増幅されるということだ。小倉氏は「その人たちの数値にしにくい部分をしっかり見てあげてほしい。それができれば将来性という観点でも、人材不足の解消に繋がる。従業員も、これから入ってくる人も、この会社はそこまで見てくれるのだと感じるだろう」と述べ、数値化できない価値への配慮が人材確保にも繋がることを示唆した。

白木氏は、課題として「DX、つまりトランスフォーメーションすることに対する心理的な面やオペレーションのハードル」を挙げた。これは大手企業でも存在する課題だという。その対策として白木氏が提唱したのが「出島戦略」である。いきなりトランスフォーメーションしようというのは無理がある。そうではなく、試験的に出島として、本業とは少し離れた視点やオペレーション、あるいは規模感で実行をトライしてみる。それによってどういう結果が起こるのか、どういう世界に行こうとするのかを見極め、戦略的に外出しして進めていくことに、次に繋がるエッセンスがあるという。

その際、トップがコミットして若手にやらせるのか、あるいはトップの反対を押し切ってでもこれをやりたいという情熱を持つのか。白木氏は「まさにジャパンキャビアさんの創業ヒストリーのように、トップのコミットがやはり次の10年、20年単位での新しい成長のきっかけになる」と指摘した。また、重要なのは、必ずしも一定の確率で成功することではなく、そこから得られた学びで本業が少しでも良くなれば、長期的に見て価値のある投資になるという点だ。白木氏は「そういった戦略的な出島をきっかけに、トップが目指していく姿を引っ張っていくことが解決に繋がるストーリーだ」と結論づけた。

坂元氏は小規模製造業の立場から、課題を二つに整理した。一つ目は、どこに向けてアンテナを張り、どういう良い情報を得るかという点である。方法が間違っていたり、情報が間違っていたりすると、そこに投資しても失敗してしまう。

坂元氏は具体例を挙げた。「今日であれば、例えば、(Future Food Fund社へ)うちに投資してみないか、という話をするのか、(TechMagic社へ)キャビアの技術を持っているけど、ロボットで何かできないか、という話を持っていくのか。どこに話を持っていくのか、アンテナの張り方が一つある。」と述べた。

二つ目の課題は属人化の問題である。人材不足がこれから深刻になっていく中で、少ない人数で大きな仕事をしていくとなると、どうしても専門家になっていく。そうすると、その人に業務が属人化してしまう。大きな会社では複数の人材で対応できるが、中小企業では「その人が抜けると何もできない」という状況に陥る。これが中小企業にとって最も困る点だという。

この課題を解決する手段として、坂元氏は先ほども触れた自社独自のAI開発を挙げた。「会社の今までのレシピ、キャビアはこうやって作るのだよ、営業はこうやってするのだよという知識をどんどん詰め込んでいって、いずれはそういった詰め込むことさえも自動化できるようなシステムを作ろうとしている」と説明し、課題と向き合い続ける姿勢を示した。

質疑応答――宮崎県への影響を問う

最後に、オンライン参加者から「宮崎県は農業、畜産、水産が強いが、そこにフードテックが入ることで生産現場、流通、地域経済、雇用、食文化がどのように変わる可能性があるか、考えを伺いたい」という質問が寄せられた。

梅村氏は、一次産業の設備投資には大きな資金が必要であり、現状は銀行からの借入が中心であることを指摘した。その上で「これから伸びていくという一次産業の方に、我々のようなVCからの出資もあって良いのではないかと本気で思っている」と述べた。まだ農業法人などへの出資実績はないものの、本来の一次産業は設備投資型でありエクイティが適切な場面も多くあるという。

梅村氏が描く将来像は明確だ。農業法人が本当に大きくなって上場するような時代になれば、人手不足の中でも人が集まってくる。「農業でも上場できる」「土日休みでちゃんとした会社、法人として成立する」という認識が広がれば、一次産業が魅力的な職場として認知され、雇用が生まれる。VCとしても最終的なエグジット、つまり投資回収の道筋も描けるようになる。梅村氏は「日本の農業により多くのお金が入り、人が入り、優秀な方も入るという好循環になるのではないか」と語った。

小倉氏は「本当に毎回来るたびに食が豊かだなと感じる」と宮崎県の潜在力を評価した。その上で、興味深い事例を紹介した。トマトを作っている兄弟がいて、兄は豊作だったのに弟は不作だった。しかし兄は弟に自分のノウハウを教えない。小倉氏は「そういうことをやっていると個人的には良いかもしれないが、全体的にはどんどん衰退していく」と指摘した。

小倉氏が強調したのは、テクノロジーの本質的な価値である。「AIは使い方を誤ると悪いところもあるが、良いところを増やせる。つまり、職人を超えることはできないが、1人の職人を100人分にすることはできる。それが今のテクノロジーだと思う」と述べ、優れた技術を引き出して足し合うことにテクノロジーを使えば、一次産業もより強くなっていくと結論づけた。

白木氏は、調理の自動化という同社のサービスを例に、地域や産業を横断して活躍の場が広がる可能性を語った。具体的には、宮崎の食材生産者が、従来は一次産業と思っていた事業を、テクノロジーの活用によって三次産業や外食、流通の方にも展開できるようになる。あるいは、宮崎で展開していた事業が、目に見える範囲までかと思っていたところから、テクノロジーによって仕組み化され、オペレーションが標準化されることで、外部や場合によっては海外にも展開できるようになる。

白木氏は「もっと早く、もっと時間を短く、こういったことができる側面がある」と述べた上で、重要なのは「どう使うか」だと強調した。それぞれの会社がどこを目指すか旗を立てさえすれば、そこに至るルートは、今までよりもテクノロジーを活用することによって、早く正確に到達できる。失敗したとしてもそのフィードバックを得て、結果的に高い確度で進むことができるという。白木氏は最後に「出島みたいなところで思考を広げて、テックを使ったらどんなことができるのかということを、ぜひ今日皆様持ち帰って考える機会にしていただければ」と参加者に呼びかけた。

坂元氏は「宮崎県は本当に風土が良くて、いいものを作る。でも、売るのが苦手という部分がやっぱり宮崎県にはある」と率直に語った。ジャパンキャビアは商社機能を持っているため、「うちの仲間に他の人も一緒に入ってもらおう」という形で、小規模生産者と一緒に販売していくことができる。しかし現状は電話やメールでの連絡が中心で、まだうまくテクノロジーが使えていない。坂元氏は「宮崎県のいろんな小さな農家さんと横にきっちり繋がれるようなテクノロジーを使ったり作ったりして、それをうまく利用してみんなで販売していくことができればいい」と展望を語った。

もう一つ、坂元氏が強調したのは投資の活用である。ジャパンキャビア自身、工場を作る際にベンチャーキャピタルから投資を受けた経験がある。「投資は非常に大事だ。今こうやって金利が上がっていく中では、投資はすごく魅力的な選択肢だ」と述べた。

当日の様子(動画)

なお、当日の様子については、以下の動画も参考にしていただきたい。

まとめ

本セミナーを通じて浮かび上がったのは、人手不足という課題が「解決すべき問題」である以前に、産業構造そのものを変革する契機になり得るという視点だ。

登壇各社に共通していたのは、テクノロジーを「人の代替」としてではなく、「人の能力を拡張するもの」として捉えているという点である。省人化ではなく活人化、業務削減ではなく働く人の解放——そうした考え方のもとで導入されたフードテックが、採用力の向上や新事業展開といった副次的な価値をも生み出していた事実は、特筆に値する。

また、宮崎県という文脈においても、本セミナーの示唆は大きい。農業・畜産・水産において全国トップクラスの生産力を持ちながら、販路開拓や情報発信に課題を抱えてきた宮崎県にとって、フードテックはその弱点を補う有効な手段となりうる。一次産業の現場にテクノロジーが根付けば、生産の効率化にとどまらず、若い世代が働きたいと思える産業への転換も現実味を帯びてくる。

人口減少という抗えない潮流の中で、宮崎の食産業がいかに持続可能な形で成長を続けるか。その答えの一端が、本セミナーの議論の中に確かに存在していた。

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