2022年2月15日、弊社アドライトは、サステイナビリティ領域でのオープン・イノベーションに関する事例や最新情報をお届けするイベントシリーズ「Mirai Salon」15回目として、「次の100年をつくるオープンイノベーション」をオンラインにて開催。ゲストに東洋製罐グループホールディングス株式会社イノベーション推進室 Chief Business Producer・三木逸平氏(以下、三木氏)と同事業室シンガポール支店担当・田島克海氏(以下、田島氏)を迎え、前半は東洋製罐グループの取り組みについて講演いただき、後半はパネルディスカッション形式で、食糧危機の解決を目指すスタートアップ出資について語っていただいた。
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イノベーション戦略のベースは「過去の成功体験を捨てるな」
東洋製罐グループは、包装容器の製造、販売をBtoBで行ういわゆる老舗大企業だ。金属、プラスチック、紙、ガラスの4大素材を扱う包装容器メーカーは珍しく、これまで多くのプロダクトを世に送り出してきた。
東洋製罐グループではイノベーション戦略を検討する際、「そもそも何のためにイノベーションが必要なのか」という問いからスタートした。外部講師を招いて議論を重ねる中で、「1.守るべきものの定義 2.イノベーションの棚卸し 3.Inside Out」の3つがイノベーションを推進する上でポイントとして見えてきたという。
そこから企業史を読み解き、東洋製罐グループ100年の歴史から学ぶ「本当の成功体験は何か」を整理し、イノベーション戦略の基盤に据えたという。
「社会課題を発見し、パートナーとともに、社内リソースを活かしながら新しい文化を社会実装することがこれまでの東洋製罐の本当の成功体験でした。それを表面的に捉えるのではなく、その奥にある我々のスピリットを守るために変革を起こすということを中心に据えて、イノベーション戦略のベースにしています」と三木氏。
「事業の目的は人類の将来を幸福ならしめるもの」という創業者のスピリットを守るべきものとし、その手段としてイノベーションがあり、スタートアップ投資があるとした。
Shiok Meatsへの出資の概要と目的
前述のイノベーション戦略をベースに具体的な事例として、2020年10月にシンガポールのスタートアップ・Shiok Meatsへの出資を行った同社。
背景に、2019年から東洋製罐グループの可能性を伸ばすための取り組みとして始めたオープンイノベーション活動の「OPEN UP! PROJECT」があるという。
こちらは「インサイドアウト型」と「エコシステム型」2つのイノベーション創出のアプローチを想定しており、Shiok Meatsへの投資はエコシステム型にあたる。
「エコシステム型イノベーションでは、『解決したい社会課題』を起点にパートナーと連携し課題解決となるソリューションを生み出していくことを目指しています。Shiok Meatsとの取り組みは、社会課題を『アジアの食糧危機』とし、アジア/Food-Techのエコシステムを実現するための取り組みとして位置付けています」と田島氏。
人口増に伴う食糧危機を救うには新たな食品生産システムが必要不可欠な状況であり、Foodtechでも上流側にあたる代替タンパク質の領域が注目されている。
Shiok Meatsは代替タンパク質の領域の中でも細胞培養肉の分野にあたり、世界で唯一甲殻類に取り組んでいる点でユニークな開発を行っているという。
では、なぜ、包装容器メーカーが細胞培養肉の分野に投資するに至ったのか。
そこには、東洋製罐の根底にある「食を”美味しく安全に”届ける」というグループ精神に立ち返った際、「果たして50年後にも同じように食を届けることができるのか」という問いがあったという。
「東洋製罐が立ち上がった100年前も、根底に食糧危機を救いたいという想いがありました。日本で包装容器を通して食糧危機解決に取り組んできた弊社と、アジアで培養甲殻類を通して食糧危機に挑むShiok Meatsの目指すビジョンが一致していました」と田島氏は語る。
ビジネス面では、細胞培養技術は完成し、Labからmarketへ社会実装のフェーズを迎えており、食の保存と流通が必要な状況になっている。この領域はまさに東洋製罐グループのこれまでの強みが存分に発揮できる領域であり、事業シナジーが期待できる。
またATカーニー社の調査によると、2040年に細胞培養肉は食肉流通の35%を占める可能性が示唆されており、社会的なインパクトも大きく、ビジネス的な将来性も期待できるという。
*出展:ATカーニー「アグリビジネスのテーブルにはどれだけの肉が残るか?」(2021年8月)
細胞培養領域の中でもShiok Meats社を選んだのは、培養甲殻類という独自性に加え、シンガポールという土壌も期待できるものであったとのこと。
「シンガポールでは、2020年に世界に先駆けて培養肉の認可が降りるなど政府も積極的に支援を行っています。そのため、フードテックエコシステムに多くの人材や技術が集まってきています」と田島氏。こうした共創パートナーとともに、50年後も安心して食が届けられることを可能にしていきたいと語った。
ストーリーを伝える
では、スタートアップ投資を進める上で意識していることは何か。「自社のリソースをうまく活用すること」と三木氏。大企業には資金力、影響力、品質力や技術力などがあり、これらが社会へのインパクトをもたらすという。
社内のリソースを活用するにあたり、抵抗勢力に阻まれる、経営層から具体的な指示が出ない、現場が危機感を持たないなどの障壁が予想されるが、それらをクリアするには、経営層、ミドル層、現場層のそれぞれの立場にある「Story Telling」「Sense Making」「Issue Selling」の3つの要素がポイントになるという。
「経営層はストーリーを語る。現場は課題感を上に上げていく。そして、間にいるミドル層がその意味合いを紡いでいく動きが必要です。この3層で全員が理解できるストーリーを握っていきます」と三木氏。特にミドル層の動きが重要で、各関係者の状況を調整しながらストーリーを伝えていくことで、スタートアップ投資などの新しい取り組みが進めやすくなるという。
進めながら最適解を考える
イベントの後半では、弊社・熊谷がモデレーターのもと、フードテックの動向やスタートアップ投資のリアルな話などを語るトークセッションが行われた。
拠点開設後1年足らずで海外スタートアップへの出資を実現した同社。初めからそちらを見据えていたか聞かれると、「出資はあくまで手段でした」と三木氏。シンガポールにイノベーション拠点ができたというきっかけはあったものの、海外では出資を行ったうえで事業をアクセラレートすることが結果的に最適解だったという。
「本来であれば、投資は経営会議にかけて稟議を通さないといけませんが、それではスピード感が合いません。そのための仕組みを作ろうと、予算の確保に重点を置きました。具体的には、経産省が取り組んでる税制上の優遇措置制度などを活かして財務系の役員に働きかけました」財源を確保すれば、その枠の中でスピーディに進めることができる。結果的に約2か月でクローズできたと話してくれた。
スタートアップへの出資/事業創出の判断基準については、目指すビジョンやストーリーの共鳴と、東洋製罐がそのスタートアップに対してどういうバリューが出せるのかを重視しているという。
フードテック領域におけるアジアの特徴や差異はどうか。「技術は各国あまり変わりがなく、その先にあるローカライズが異なります」と田島氏。「食はセンシティブなものなので、培養肉であれ、植物肉であれ、舌に乗せた瞬間に違和感を感じることもあるはずです。それらをどう料理し、現地に合わせていくのかが差別化要因になるのではないかと思います」と見解を寄せた。
最後に、アジアのスタートアップの魅力を聞かれると、「食糧危機を自分事と捉え、事業を推進していくハングリーさ」と締めくくった。
取材を終えて
スタートアップ出資であれ、新規事業であれ、社内を動かすにはキーマンをおさえ、ストーリーを理解してもらい、判断してもらいやすい環境づくりが欠かせない。
彼らは社内の歴史を紐解き、守るべきものを明確にする点まで取り入れた。スマートかつ思いの込められた交渉力が次なる100年に繋がると確信した。
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