【事例】ホンダのサステナビリティ×デジタルを推進するチームが実践する「質の良い“不常識”」な思考法。第2の創業期を支える人材育成―本田技研工業株式会社

 addlight journal 編集部

自動車やバイク、レーシングカーなど様々な製品の開発・生産・販売を担う本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)。

同社は1960年代から環境課題解決に尽力し、「自由な移動の喜び」と「豊かで持続可能な社会」の実現を掲げている。現在のモビリティ業界の激変期を「第2の創業期」と位置付け、全社一丸となって企業変革に挑んでいる。

この大きな変革期において、ホンダは製品ライフサイクル全体での環境負荷低減という基本姿勢を大切にしており、サステナビリティ・デジタル課では、事業開発プロセスの全体感を捉え、実践を重視した社内育成プログラムの実施を決断した。その設計・運営はイントレプレナー育成支援に強みを持つアドライトに依頼した。

本記事では、ホンダとアドライトの人材育成での取り組みについて、同社でプログラムを主導したデジタル統括部 グローバル・サービス・データプラットフォーム部 サステナビリティ・デジタル課 課長の内田翼チーフエンジニアと、アドライトで今回のプログラムを主導した山本啓史執行役員にお話を伺った。

会社紹介:本田技研工業株式会社(https://www.honda.co.jp/)

本田技研工業株式会社では、二輪車・四輪車・パワープロダクツ・航空機といった多様なモビリティ製品の開発・製造・販売をグローバルに展開している。独自のエンジン技術を基盤に、環境対応車や電動モビリティ、安全運転支援システム、ロボティクスなど、持続可能な社会の実現に向けた先進技術にも注力している。

プロローグ:「0から1を生むための人材育成」へのチャレンジ

アドライトは、スタートアップ支援で培ったケイパビリティ開発のノウハウを大企業に提供している。同社は元々スタートアップの支援から事業を開始し、その中でリーンスタートアップの考え方や、多様なスタートアップとの実体験を通じて得た「頭の使い方」の重要性を痛感した。

教科書的な知識だけでなく、業種・業態・タイミング・ポジションによって変化するビジネスのリアルな状況に対応できる知見が、アドライトの提供価値となっている。この経験に基づき、大企業が既存事業の枠にとらわれず、新規事業開発を通じて未来を切り拓くための総合プログラム「INTRAPRENEURz(イントレプレナーズ)」を提供している。戦略から人材育成、事業化支援までを一貫して支援することで、社内から継続的に事業が創出される体制構築を目指している。

一方、ホンダは現在、モビリティ業界の激変期を「第2の創業期」と位置付け、全社一丸となって企業変革に挑んでいる。その根幹にあるのは「環境」と「安全」という二つのチャレンジであり、全製品・企業活動を通じたカーボンニュートラルの実現と、2050年までに二輪・四輪車が関与する交通事故死者ゼロを目指している。これらの高い目標を達成するため、資源循環(サーキュラーエコノミー)とSDV(ソフトウェア・デファインド・ビークル)領域への注力が不可欠であり、デジタル技術とデータを活用した事業オペレーションの変革を推進している。その中で、モノ消費からコト・トキ消費への変化という「100年に一度の大変革期」において、消費者ニーズをいち早く捉え、マーケットインやアウトサイドインの視点から事業計画を立てる必要性を感じていた。

ホンダは、社内外を問わず「人」にフォーカスする哲学・文化を持った企業である。今回の育成施策には、量ではなく人の質に投資することで現在の底上げを図り、現場からの提案の質を高めるという短期的な狙いに加え、その先の飛躍を担う経営人材を育てていくという中長期的な意図が込められている。

加えて、ホンダでは、全社共通の人材育成のカリキュラムを持ちながらも、領域ごとにより効果的なプログラムは部署単位で取り組むことができる。そこで、社内事情に影響されず、外部からの客観的な視点を取り入れる重要性を踏まえ、外部企業との人材育成プログラムの共創を模索し「0から1を生むための人材育成」を提案したアドライトとの協働を決めた。アドライトのプログラムで新しい知見を得ることを目指し、参加者間で共通言語・共同体験を育み、連帯感を持って事業に取り組むことも狙いとしていた。

こうした両者の想いが重なり、今回の人材育成プログラムが実現した。アドライトが持つスタートアップ支援を通じて得た実践的な「頭の使い方」や、教科書通りではないリアルな事例に基づいたカリキュラム提供の強みが、ホンダの求める「新しい発想」ができる人材育成に繋がると考えられた。過去の取り組みも踏まえ、両社が熟考し、再編成したカリキュラムを共に作り上げることで、今回の協創へと発展したのである。

ここからは実際のプログラムについて、両名にインタビューした様子をお届けする。

対談:教科書では学べない実践的なプログラムを共創

――所属する部署と役割について教えてください。

ホンダ内田氏:

サステナビリティ・デジタル課では、主に環境関連の施策を担当しています。全社的な環境対応の取り組みを進める役割を担い、サステナビリティとデジタルの融合という視点から、ソリューションの企画・開発を各ビジネス部門とともに推進する役割を担っています。部署のミッションとしては、社内で脈々と受け継がれてきた「Blue Skies for Our Children」の実現を掲げ、環境問題の解決を通じ、人・社会にとって普遍的な価値(環境負荷の低減)を生み出すことを目指すものです。

そのために、社内の各ビジネス部門や機能部門がデジタル技術を最大限に活用できるよう支援し、デジタルエコシステムの構築を主導することで、会社の価値向上や体質の改善をサポートしています。

アドライト山本氏:

新規事業に関わるコンサルティングや人材育成全般、その他、アクセラレータープログラムやスタートアップ連携などに関わっています。特に、大企業に向けたサービスである「INTRAPRENEURz(イントレプレナーズ)」の推進にも関わっており、今回の取り組みを主担当させていただきました。

―アドライトに依頼した経緯を教えてください。

ホンダ内田氏:

アドライト社とは、私が商品開発を担当していた研究所時代からのお付き合いで、共に人材育成プログラムを創り上げた経験がありました。アドライト社の強みは、先進領域に対する感度の高さ、そして時代をリードする領域の見極めや、スタートアップをはじめとする外部ネットワークの強さ、それらをカリキュラムに落とし込んで二人三脚で推進してくれる点だと評価しています。

教科書に載っているような知識を一方的に教えるのではなく、リアルな実体験に基づき、業種・業態・ポジション・タイミングによって変化するビジネスのリアルな状況に対応できる知見が、アドライト社の大きなケイパビリティだと感じたのです。

アドライト山本氏:

ありがとうございます。弊社は元々スタートアップの支援から事業を開始し、その中で培った「リーンスタートアップ」の考え方や、多様なスタートアップとの接点を通じて得た実践的な「頭の使い方」を、大企業のお客様にも提供したいという想いがございます。

特に、従来の教科書的な教育ではなく、実践的な学びを提供することに重点を置いています。今回、内田様からは受講者の方々が既に一定の教育を受けているため、より実践的なアプローチが必要だというお話をいただいていましたので、弊社の「INTRAPRENEURz DOJO」をベースにしつつ、ホンダ様の状況に合わせたカリキュラムを、議論を重ねながらカスタマイズいたしました。

―アドライトに期待したことを教えてください。

ホンダ内田氏:

今回のプログラムでは、前回のカリキュラム(過去記事参照)をアレンジすることをベースに考え、特に事業成立性の視点を強く取り入れることで、これまでとは違う気づきや視座が得られることを期待していました。

アドライト社は多くのスタートアップとのお付き合いから豊富な引き出しを持っており、経営者や事業家の思考を追体験できるようなカリキュラムに仕立てられると考えました。具体的には、財務諸表の作り方も単なるスキル伝達ではなく、ケーススタディによる実践学習などが挙げられます。大企業における事業開発では市場規模がネックとなる場合もあり、例えば1000億円規模の事業をどのように実現するのかといった事例を扱えたこともポイントでした。

山本さんをはじめ、アドライトの皆様が一方的に提案するのではなく、ホンダの「ワイガヤの文化」に沿って、より良いものを作るために共に議論し、カリキュラムを作り上げられた点も大きかったですね。これは、アドライトが持つ強みであると考えています。

アドライト山本氏:

私たちとしても、ホンダ様の文化を理解し、共に最善のカリキュラムを創り上げることができたのは非常に有意義な経験でした。特に、正解が一つではない新規事業開発において、リアルな事例を基に、参加者の方々が自ら判断し、その結果を考察する機会を提供することに注力しました。

―どのようなカリキュラムを組み立てられたか教えてください

ホンダ内田氏:

カリキュラムについては、まず前半でアイデアを自由に発想するフェーズを設け、そこでは実行可能性をあまり意識せずに、幅広くアイデアを出していくことに重点を置きました。

後半では、財務観点も含めた実行可能性を重視し、自分たちが出したアイデアが本当に事業として成立するのか、厳しい目をもって数字をチェックするプロセスを設け、カリキュラムの精度向上を図りました。今回は特に、カリキュラム後半における事業立ち上げの難しさを体験してもらうことで、より実践的な学習効果を狙っていました。

また、カリキュラム全体を通して、他社事例を随所に取り入れていただきました。その事例内の当事者が当時どのように判断したのかという、いわば「正解」も示してもらいながらカリキュラムを進めることで、参加者が自分たちの理解度を客観的に確認することができ、納得感を持ってカリキュラムを進められるような仕掛けを設けました。こうした学びを通じて、実行力を身につけられた点が、今回のカリキュラムの優れたポイントであったと感じています。

―プログラムの評価や成果についてお聞かせください。

ホンダ内田氏:

本プログラムは、目論見通りの内容でした。参加者から次回のカリキュラムへの期待が寄せられており、デジタル統括部内の人材開発部門はもちろん、事業部からの興味・関心も寄せられています。

参加者の変化として感じられたのは、曖昧な状況や得意な領域以外でも、仮説を立てて、価値とその見通しを立てる意識、行動が見られるようになった点です。さらに、自分が理解しているところ・理解していないところ、得意なところ・不得意なところを可視化できたことも大きな成果であり、今後のスキルアップの指針を見つけることに繋がったと考えています。

また、グループワークを積極的に実施したことで、「あの時の、あの体験」を共有できたのは、受講者間で共通言語を持つ上で非常に良い経験となったようです。

アドライト山本氏:

私たちとしても、受講者の皆様が自身の課題を認識し、次なる成長への意欲を高めていただけたことは大変喜ばしいことです。

―この結果を受けて、両社でどんな未来が描けるでしょうか?

ホンダ内田氏:

今回の育成プログラムを通じて得られた学びをもとに、価値を生み出す、あるいは支援するアクションの「確度」を上げる取り組みを継続していきたいと考えています。これは、迅速かつ的確に目指すべきゴールに到達するための「頭の使い方トレーニング」であり、今後の人材育成の重要なポイントであると考えています。

また、弊課の「Willの重なり(納得)を大切に、質の良い不常識を見つけ、タイムリーに価値を創出する」という行動指針を踏まえると、今回のプログラムは「質の良い“不常識”」を見つけて、やり切る(実行力)ための土台作りにも繋がったと実感しています。

ホンダでは、現場レベルで必要だと判断したものは、自発的に育成や取り組みを進められるボトムアップの文化があります。今回の育成プログラムも、まさに現場発で実現したものであり、こうした三現主義(現場・現物・現実)を大切にする体質がホンダのユニークな強みだと考えています。

アドライト山本氏:

アドライトとしては、これまで個社に提供してきたカリキュラムやサービスを通じて、数多くの企業や個人と接点を持つことができました。しかし、そのネットワークをまだ十分に資産として活用できていないと感じています。今後は、個別のプログラム提供に留まらず、日本全体の「イントレプレナーズ」を繋げていく動きに力を入れていきたいと考えています。

例えば、GX(グリーントランスフォーメーション)のような、まだ明確な市場がない新しい領域において、いち早く挑戦するイントレプレナーや企業が増え、そうした企業同士が横で繋がるような未来を描いています。プログラムの未来は、個社に閉じることなく、社会全体への還元を意識したものとなるでしょう。

我々も、デザインシンキングベースだけでなく、リソースベース、シーズベースなど、自分たちの周りにある、あらゆるものから可能性を探るというプロセスを採用し、そこから新たな価値を発見しながら、今後もスタートアップや事業会社、産学連携を含め、幅広い分野での連携を実現したいと考えています。

エピローグ:取材を終えて

今回のホンダとアドライトの対談を通じて、日本の大企業における人材育成の新しい形を垣間見ることができた。

特に印象的だったのは、ホンダに根付く「自分の中に強い意思があり、その本質的価値に周囲が共感し、やがて共鳴へと広がっていくことで、結果として大きなチャレンジが可能になる」という企業文化である。通常、大企業では組織の枠に縛られがちだが、ホンダでは社員一人ひとりの「志」が新しい挑戦を可能にする原動力となっている。今回の人材育成プログラムが、人事部門主導ではなく現場発信で実現したことからも、そのボトムアップ型の組織文化と、それを支える柔軟な体制がうかがえる。まさに、大手企業でありながらも、個人の熱意と行動が組織を動かし、新たな価値を生み出す環境がホンダには存在すると感じた。

本カリキュラムを通して両者の思いが重なった「質の良い“不常識”」を目指す人材育成や、イントレプレナーズのネットワーク形成は、まさに大企業が今取り組むべき挑戦だ。筆者としては、このような日本社会における企業間の連携が、新たな価値を生み出し続けることを期待している。

社内起業家育成ならアドライトへ!

「INTRAPRENEURz DOJO(イントレプレナーズ ドウジョウ)」では、新規事業アイデアを発想できる「新規ビジネス挑戦者」の育成を支援していますぜひご紹介した企業や本プログラムに興味を持たれた方は弊社アドライトまでご連絡をください。