新型コロナウイルスの蔓延によって、企業の働き方に変化があったのは言うまでもない。パーソル総合研究所によると、2020年3月の緊急事態宣言前にテレワークを行っている割合は13.2%だったのに対し、2020年の11月には24.7%にまで上昇していた。
急激なテレリモートワークの普及により、ポストコロナにおける働き方について様々な議論がなされている。その中の一つがWFA(Work From Anywhere)と呼ばれる、オフィスに限らずに働く場所を選ばない勤務形態である。
本記事ではWFAに触れつつ、働き方はどうあるべきか考察する。
WFAがもたらす効用
まずはWFAという働き方の効用を示す。コロナ禍により、オフィスで働くことができなくなり、在宅やコワーキングスペースなどで作業を行う人が増えた。とくに日本では生産性の低下を感じる人も多いようだ。
しかしデータによると、働く場所を選ばないWFAには大きく5つの効用があるとわかっている。生産性の向上、ワークライフバランスの充実、感染症対策、場所に左右されない人材採用、賃料の削減だ。
ハーバードビジネスレビューによると、USPTOにおける在宅勤務からWFAへの移⾏について評価した結果、WFAを選択した対象者の生産性が4.4%向上したという。国内に目を向けると、PayPay株式会社は2020年9月より従業員のパフォーマンス向上を期待し、WFAの働き方を開始したと発表している。
WFAはワークライフバランスの実現を容易にする。WFAに移行したUSPTOの従業員からは、家族の傍にいることで全体的な幸福感が増したという声や、⼦どもの病院に近い、パートナーのために便宜を図れる、暖かい気候、美しい景⾊、より素晴らしいレクリエーション機会を楽しめるなどの声があるようだ。
WFAが実施されると、通勤ラッシュに巻き込まれずに済む。新型コロナウイルスの感染予防が叫ばれている今日、「密」を避けられるWFAは感染症対策の観点からもメリットがあるとされている。
人材採用の点でも注目すべき点がある。働く場所が制限されなくなったことで、東京などのオフィス街近郊に居住地をもたない地方優秀層の採用が可能になったことだ。弊社のオフィスは東京にあるが、札幌や神戸といった遠方に住む学生をインターン生として昨年夏より迎え入れている。ピュアに優秀か否かで採用活動できる点が大きい。彼らもインターンシップ先の選択肢が格段に増えたと感じているという。
そしてオフィス不要説が高まっていることも忘れてはならない。
企業はWFAに移行できるのか?
多くの効用をもつWFAだが、コロナ禍での働き方を見るに、移行することは決して簡単ではないようだ。
WFAを採択する企業の現在の大きな課題として、特にマネジメントが挙げられる。
ハーバードビジネスレビューの記事に戻るが、在宅勤務を採択した企業のマネジャーの1⽇の労働時間が56分⻑くなっているという。これは従業員の87%が毎日約2時間残業になっていることが大きい。
彼らの年間残業時間は2019年の242時間から455時間に跳ね上がっているのにもかかわらず、毎週4件当たり1件(26%)の割合で期日への遅れが発生しているというのだ。
つまり、生産性が落ちていることを意味する。
チームが既に完了済みの仕事に重複して費やす時間は前年比で30%増加しているといった恐ろしい調査結果もあり、コロナ禍での業務遂行やマネジメントの難しさを物語っている。
仕事のための仕事が増加
なぜ私たちはWFAを味わいきれず、仕事に費やす状態に陥っているのだろうか。最大の原因は、「仕事のための仕事」のような、不必要な業務が増大したことにあると言える。
たとえば、振り返ればすぐに聞けたようなことも、相手を指定してテキストで伝えたり、Zoom URLを発行してオンライン会議をしたりといったように「ひと手間」が発生している。また物理的に移動が減った分、「余剰時間が増えた」とみなされ、こまめに会議が入るようになり、席を立つこともままならない日もある。
不必要なタスク(現状は必要とされているかもしれないが)に追われることで、本来すべきものの手が回らない。果たしてこれが望むべき姿と言えるだろうか。
コロナ禍におけるWFAという働き方はこのような悪循環に陥る可能性を有していることに注意しておかねばならない。
より目的を明確に
オンラインでの働きにより生じている悪循環を断ち切るにはどうすればよいのだろうか。目的の明確に尽きると筆者は考える。現在行われているオンライン会議の目的は何か?進捗管理なのか、報告会なのか、問題に対するディスカッションなのか。はたまた従業員のメンタルケアなのか。
目的が明確であれば、それに対して判断すればいい。
仮にオンラインで雑談できる場が必要という声が社内から挙がるようであれば、その理由を尋ねるといいだろう。解決したい課題があり、そのために必要だという導き方と思われるが、その手段が果たして最適か否かはわからないためだ。
世の中には便利なツールがたくさん出ているが、目指す目的に沿ったものを適切なタイミングで適切に使用することを忘れずにおきたい。
最後に
WFAという働き方によって私たちが使える時間の量自体は増えた。しかしそれはあくまでも私生活の充実や仕事の付加価値を生む行動に割かれるべきであり、既存の業務を長々と行うためのものではないことを理解する必要がある。
「何のためにやるのか」という目的意識とメリハリをもって行動することで初めてWFAという自由な働き方は私たちの仕事の生産性や私生活の充実をもたらしてくれると信じている。