前回は、プロジェクト型ビジネス企業が利益体質となるためには、個別原価計算を見直し、プロジェクトの見積精度を向上させる必要性があること、そして先読みのプロジェクト管理体制を構築する重要性をお話しました。また、ソフトウェア業界に大きな影響を与えた「工事進行基準」の適用にも、これらの要素が欠かせないことをお伝えしました。
しかし、これまでドンブリ勘定を行なってきた企業にとって、先読みのプロジェクト管理体制を構築するには困難を伴う場合があります。そこで第2回と第3回では、その困難の要因となる個別原価計算について、「財務会計」と「管理会計」の側面から押さえるべきポイントをお話します。
「財務会計」とは、貸借対照表や損益計算書、キャッシュフロー計算書などの財務諸表を中心とした会計情報を、株主や債権者、当局などの企業外部の利害関係者に提供することを目的にした会計のことを指します。対する「管理会計」は、経営者や企業の経営幹部への情報を目的としたものになります。
ソフトウェア業界特有の会計基準設立背景
まず、財務会計上の側面ですが、こちらは金融商品取引法をはじめとする各種会計基準など、企業が経営を行ううえで遵守しなければならない側面を意味します。
工事進行基準が原則適用となることが定められた「工事契約に関する会計基準」は2007年に公表され、2009年4月から適用開始となりました。そのため、この会計基準を適用することは基本的にすべての企業にとって必須となっています。
工事進行基準は、以前から建設業における長期請負工事などで行われていた会計処理の方法ですが、この時にソフトウェア開発への適用が明記されました。ソフトウェア業界では、いわゆる“ソフトウェア会計”と呼ばれる「研究開発費等に係る会計基準」が1998年に公表されており、大きくみると、ソフトウェア会計における受注制作のソフトウェアでは、工事進行基準が原則適用となる「工事契約に関する会計基準」が関連してくることになります。
ソフトウェア業界では、形のない商品を扱う特性上、既存の会計ルールをそのままあてはめると不整合が生じることが多くありました。資産性の判断など、主観的な判断が介入してしまう点も難しい部分であります。過去にはサービスが無形である特性を逆手にとり、粉飾決算といった不適切な会計処理が行われる事例が存在しました。 そこで、そのような不正を防止すべく、「情報サービス産業における監査上の諸問題について」「ソフトウェア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い」などのソフトウェア業界特有の会計ルールが2006年、2007年と相次いで公表されました。
このように、ソフトウェア業界の会計をめぐるこれまでの経緯を勘案しますと、「工事契約に関する会計基準」の適用でも、これまでのソフトウェア業界特有の会計慣行や会計ルールを十分に考慮する必要があります。具体的には、今までも実務上行われてきた分割検収や複合取引など、ソフトウェア取引をめぐる会計処理については、会計上の要件を満たすことを意識するなど、引き続き対応が必要になります。
内部統制の構築も重要
また、金融商品取引法や会社法では、内部統制の構築が要求されているため、工事進行基準と内部統制の関係でも留意が必要になります。たとえば受注制作のソフトウェアでは、プロジェクトの受注から販売までの各プロセスにおいて、適切なコントロールが必要です。その上で、工事進行基準特有のポイントである見積もりの変更などについても、ほかの内部統制プロセスと同様、適切な仕組みを構築していく必要があります。
自己流の原価計算では先読みのプロジェクト管理体制の構築が難しい
そして、開発に関するコストの見積もりや集計を行うには原価計算を行う必要がありますが、原価計算基準に準拠した個別原価計算制度の構築が求められます。原価計算制度には絶対的な唯一の答えがあるわけではなく、企業ごとに、その実態や目的に沿って構築していくものになります。
そのため原価計算基準に準拠しながら、労務費の単価決定や製造間接費の集計などの要点をおさえた原価計算制度の構築を行う必要があります。自己流の原価計算のままでは、先読みのプロジェクト管理体制を構築するのは難しいということを頭に入れておいてください。正しい原価計算を行うためのポイントにつきましては、第4回のコラムで詳しくご紹介します。
次回は、個別原価計算のもう1つの側面、「管理会計」にスポットをあててお話をしていきます。