「中期経営計画」白紙からの再構築。コロナ禍で経営トップが選択した新規事業 – Brave Changer #7イベントレポート

 addlight journal 編集部

2021年1月15日、弊社アドライトはイベント「Brave Changer #7 『企業の将来を創り出す、コロナ禍における新規事業への取り組み』」を、オンラインにて開催した。事業会社での新規事業創出を目指すイノベーターに向けたイベントシリーズであるBrave Changer。第7回目となる今回は、株式会社イーストの代表取締役・長島秀晃氏をお招きした。

長島氏は昨年からBX(ビジネストランスフォーメーション)の考え方を取り入れ、既存事業のアセットを利用した新規事業開発に注力すべく、社内変革に乗り出した。弊社代表の木村がモデレーターとして登壇し、同社がコロナ禍を超えてチャレンジする新規事業領域をテーマに長島氏の考えの本質に迫った。

株式会社イーストを成長させたアイデア軸

株式会社イースト(以下、イースト社)は、大手総合ディベロッパーをクライアントとし、SC(ショッピングセンター)が多数作られてきた時代の業界の成長とともに事業を拡大してきた。SCの総合商社として顧客に寄り添い、全国に3,000あると言われている商業施設のうち、500施設との取引実績を持つイースト社は、以下3つのサービスを軸に事業を展開している。

イースト社が展開する3つのサービスの軸
  • オペレーション:日々の売上管理や家賃請求、電子マネーを含む決済管理などの運営・運用面を取り扱う
  • セールスプロモーション:集客面のサポート。最近は、WEBやサイネージといったデジタル領域に特化している
  • システム:商業施設に特化したクラウド型売上管理システムMallProを中心としたシステムの提供を行う

商業施設のシステム開発や運営オペレーション業務のアウトソーシングを担う同社は、ストック型ビジネスの特徴を生かし、1997年の創業から右肩上がりで成長を続け、現在は従業員数1,000名を超える企業となっている。

未来の事業性の担保のやり方の最適解 

中期事業計画をゼロからスタート

長島氏はイントロダクションとして「未来の事業性の担保をどう設計するか」について取り上げた。

コロナ禍に直面する中でも顧客に寄り添うというポリシーのもと要望に応え続けたことが成長につながった反面、新しい事業を創り出せていなかったことを課題として認識。弊社アドライトに相談のうえ、当初計画していた中期事業計画を一度白紙に戻し、ゼロから練り上げることを選択した。

新たな3つの柱

はじめに、顧客のどのようなニーズにどの程度応えられているのか、改めて社内の現状を整理。次に外部に目を向けてみると、SCの市場自体が確実に縮小することが見えた。そのうえであらゆる経営数値を分析し、課題を洗い出し、中期事業計画において新たな3つの柱を設計するに至った。

  • 全社戦略①:既存事業からの獲得利益最大化
  • 全社戦略②:一歩先の商業・複合施設を見据えた新サービスの創造
  • 全社戦略③:ミッション遂行のモニタリングとアドバイスを行うガバナンス機能の強化

「既存事業で何が利益の最大化につながるのかを見極め、未来を見据えた新規事業に対して積極的に投資を選択しました。ただし、成長の見込みがないと判断した事業は見切るなど俯瞰的にミッション遂行を監視できるガバナンス機能の強化も取り入れました」と長島氏。

練り直した3つの全社戦略の概念図

さらに、新しい戦略を遂行するため、社員を部署横断でシャッフルする大々的な組織変更を行ったという。組織・陣容を大きく見直すことで、新サービス創造とガバナンス機能をビルトインした体制の構築を目指した。

組織改革に求められる姿勢

大胆な組織改革に関しては、イベント後半の質疑でも視聴者から尋ねられた。長島氏は「周囲に納得してもらうためには課題感をできるだけ強く持ってもらうこと、そしてその課題にアプローチする社員のモチベーションを注視しておくことが必要です。組織変更において気を遣ったのは、何度も自ら、とくにマネジメント層の社員に対して課題感を語ったことです」と振り返りつつ、社員に対してそれを持ってもらうための工夫として「やりがいと働きやすさの確保に力を注いだり、ユニット制を導入して事業や組織に責任を持てるようにしました」とコメント。

既存事業領域の幅を太くし、面を拡大する

他者とのコラボレーションによる既存事業の強化

次に、既存事業の強化について触れた。

「新しい事業を進めたからといって既存事業が育つわけではなく、急な組織変更のもと迅速に機能させられるのかといえばそれも難しいはずです」と長島氏。だからこそまずは既存事業領域において、いかに利益を最大化できるのかを考えたという。

「そのために、他社とのコラボレーションでスピード感を持ち、既存事業領域をより拡大していくと決めました」と続けた。イースト社は、Alibaba Japanや17 media Japanをはじめとする、多くのテック企業とMallProを土台にしたコラボレーションの実施に成功。アフターコロナで必要となる拡張機能開発を進めてきたという。

イベント内でも7つのコラボレーション事例が紹介された。

「これらは全てお客様に寄り添う企業姿勢をもとにした取り組みです。一番の課題は、コロナ禍以降におけるテナントさんの売上をどのように改善していくのか。とくに従来のオフライン以外の売上創出という観点が鍵を握っていました。スピード感ある解決のためだからこそ、名だたるテック企業とのコラボレーション実現に漕ぎ着けられました」と長島氏。

コロナ禍でも手を抜かないお客様に対する姿勢

コロナ禍において重要視していたことを聞かれると、「お客様に寄り添って何かをするという姿勢を失わないことが大事でした。我々のお客様は人を呼ぶのが仕事のひとつですが、コロナ禍でそれが難しくなり、お客様自体も変化を余儀なくされています」と述べている。ベースに顧客の課題というものがあって、それを解決していくうえで自社に足りないリソースを外部とのコラボレーションで実現していくということだ。

非対面のアクセラレータープログラムへの参加

他にも、弊社アドライトが運営に関わる、大阪府主導のアクセラレータープログラム「スタートアップ・イニシャルプログラムOSAKA」にオープンイノベーションパートナーとして参加したことにも触れた。ここでもイースト社はスタートアップとのコラボレーションに成功している。「熱量や想いが似ているとトントン拍子に事業化が進んでいきやすいと感じた」とコラボレーションのコツにも言及。

スタートアップ・イニシャルプログラムOSAKAにおける取組事例

「コロナ禍においてはむしろオンラインで多くの企業と会いやすくなっています。だからこそどんどん自らが動いて企業の社長さんと直接会い、一緒にサービスをやろうと提案することを繰り返しました。そしてアクセラレータープログラムにおいてもひとまずプロトタイプを作ろうとスピード感にこだわりました。だからこそ実際のサービスインに繋げることができました」と成功の要因を分析した。

効果的な人材育成方法の採択

コラボレーションを促進するための社内人材育成について長島氏は、会社が大きくなるにつれ通常の研修以外のプログラムを用意する必要性を感じていると述べたうえで、「アドライトの人材育成プログラムを通して、参加者はプログラム内容だけでなく、会社からの期待を感じ、会社への貢献意欲を抱いてくれました。プログラムに参加した社員が実際に他社とのコラボレーションに取り組み、実績を出してくれました」と回答。

実に多くの企業とのコラボレーションをたったの1年で実行に移してきたイースト社、ひいては長島氏の取り組みに、視聴者からも驚きの声があがっていた。

自らがサービスの破壊者となり、DX化による業務のやり方改善を行う

続いて、コラボレーションでの事業拡大と並行して実施された、DX(デジタルトランスフォーメーション)による業務改善についても話が及んだ。

「未来でも自社サービスを守るためにどうすればよいか熟考しました。社会がますます変化する中においては、一度自分達でサービスを破壊し、DXによってフルモデルチェンジをしようと考えました」と長島氏。

そして「まずは運営モデルとしてあるべき姿を描き、これまで築き上げてきた人材資源やアウトソーシングのノウハウ、システムといったリソースを組み合わせて、お客様の組織改革と運営コストの最適化を図ることを打ち出しました」と続けた。

運営基盤再構築の概念図

具体的には申請書類・クレームの管理やレポートのフォーマット化など、今まで人を常駐させて行っていたような業務の多くをシステマティックにしつつ、どこでも誰でも見ることができ、管理できるような設計を意識。オペレーション・セールスプロモーション・システムの組み合わせによる新しい運営モデルを構築・提案したという。

構築し直した新たな運営モデル

オリジナリティのあるアイデアで、ニーズを顕在化させ、市場を席捲する

リアルとオンライン、双方を活かすために

最後に、イースト社の未来を切り開く新規のオリジナルサービスの開発を取り上げた。

長島氏は、イースト社が今後事業領域を拡大したり、SC領域外に範囲を広げるにはどうすればいいか?これから先商業施設はどうなっていくのか?といった問いを立てたうえでこう述べた。「商業施設はこの先衰退していくと感じている人も多いと思います。とはいえ私はリアルの場が持つ力をまだまだ信じています。リアルの場があるからこそオンラインが生きていくと思います」

さらに、「OMO(Online Merges with Offline)の作り方もリアルのものを基にした発想を持ち、まずはサービスインフラを整備してお客様に提案を行っていきます。そして体験価値を味わう場所としての商業施設において、いかにしてリアル以外での集客や売上確保をしていくのか考案していきたいです」とし、リアルとオンラインの融合に対する考えを展開。

日本では研究段階というデジタルツインの考え方を建物やエリアに導入し、ハード依存のもののデータを活用し、商業施設やまちづくりに組み込んでソリューションとして提供することへも言及。

具体的には、イースト社のスーパーシティ構想への参画や、新たに立ち上げたSC特化型情報共有のメディアサイトSC networkの事例をふまえ、新たなオリジナルのサービスを自社のノウハウと強みを生かしつつ、フィールドを変えることで何ができるか検証しながら実行に移しているという。

取材を終えて

イベントを通して感じたことは長島氏の丁寧かつ大胆な取り組み姿勢だ。突如現れたコロナウイルスの社会への影響や、将来の市場の可能性を冷静に見極め、やると決めたら大きく実行に移している。

前向きで感謝を忘れないマインドセットも見逃せない。お客様に対して徹底的に寄り添う姿勢が垣間見えた。

最後に、コロナ禍において経営者として大切にしていることを問われた際の回答にもぜひ触れておきたい。「明けない夜はないという意識を常に持っています。必ずやまた素晴らしい世界が待っています。未来だけ見て生きていこうよ。そしてそれは必ずや楽しいものです」

 

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