2025年10月28日、宮崎県宮崎市のMOC(宮崎オープンシティ推進協議会)にて、「2025年度第1回みやざきフードテックセミナー」が開催された。 主催は宮崎県、運営は株式会社アドライトが務める本セミナーは「フードテックで実現する、サステナブル・持続可能な食品製造の未来」と題したテーマで行われた。
イベントは、「食のサステナビリティから考える、フードロスへの取り組み」と題した講演と、「身近なところから実践できる、サステナブル・フードロスへのチャレンジ!」と題したパネルディスカッションの二部構成で実施。基調講演では、Sustainable Food Asia株式会社CEO海野 慧氏が登壇し、世界的な潮流と日本企業が取るべき戦略について解説。パネルディスカッションでは、海野氏に加え、池田糖化工業株式会社 東京開発室 二井 広平氏、株式会社栗山ノーサン 常務取締役 池田 吉啓氏が参加し、各社の取り組みが紹介された。
日本有数の食料供給基地である宮崎県において、テクノロジーを活用していかに食品産業の課題を解決し、新たな付加価値を創出するか。会場には県内の食品関連事業者や支援機関が集まり、熱心な議論が交わされた。 本稿では、基調講演と、県内・県外の先進企業を交えたパネルディスカッションの模様を、余すことなく詳細にレポートする。
みやざきフードテックとは
フードテックとは、「Food」と「Technology」を組み合わせた言葉で、生産から加工、流通、消費等へとつながる食分野の新しい技術及びその技術を活用したビジネスモデルのことである。
その中で、みやざきフードテックセミナーとは専門家によるフードテックの最新動向の紹介・講演や、有識者や県内事業者の取り組みを発表するパネルディスカッションを通し、フードテックの導入に向けた機運の醸成や、県内事業者間や県外大手企業との交流・協業の機会創出を目指したセミナーである。
前回の様子はこちら:https://journal.addlight.co.jp/archives/suitz_event_20250219/
【基調講演】「食のサステナビリティから考える、フードロスへの取り組み」
基調講演には、東南アジアを中心に「サステナブルフード」の普及とエコシステム構築に取り組む海野慧氏が登壇。「食のサステナビリティから考える、フードロスへの取り組み」と題し、世界的な潮流と、日本企業が取るべき戦略について語った。
登壇者紹介
本イベントの基調講演では、Sustainable Food Asia株式会社 代表取締役CEO 海野 慧氏が登壇した。海野氏は株式会社じげんの取締役として上場を牽引した実績を持ち、現在は日本とアジアをつなぐ食産業のエコシステム構築に尽力している。ジャックフルーツなどの新素材活用や、アジアのスタートアップを集めたカンファレンスの運営などを通じ、国境を越えた社会課題解決と次世代フードビジネスの創出に取り組んでいる。

「サステナブルフード」とは何か? 3つの構成要素
海野氏は冒頭、自身が定義する「サステナブルフード」について解説した。サステナブルフードの定義は世界的に見てもあまり明確な定義はないが、多くの人が漠然と抱く「環境に良い食」というイメージを、海野氏は以下の3つのアジェンダ、6つのイシューに分解しているという。

海野氏は「フードロス削減は、この中の『資源保全』に直結する重要なテーマだ」と位置づける。効率的に資源を循環させ、資源を過剰に消費しないためにはどうすればよいのか、海野氏の活動はこのような問題をスタートアップや大企業とともに解決していくことだという。講演では、日本に限らず、世界、特に東南アジアのスタートアップ、あるいは研究者といったコミュニティと活発に交流することで得られた、具体的な知見が紹介された。
フードロスの現状
続いて話題は、具体的なフードロスの現状へと移った。 まず、一般的にフードロスと言われている言葉には、厳密には2つの言葉が内包されている。一つは「フードロス」でこれは生産・加工・流通などの上流工程で発生する食品のロスのことを指す。もう一つは「フードウェイスト」で、小売や飲食、家庭などの下流工程で消費者の活動によって起こるロスである。

世界のフードロスの現状としては年間10.5億トン(毎日10億食ぐらい)のフードロスが起きているという。翻って、日本のフードロス発生量は年間約464万トンと言われている。消費者庁の報告によると、経済損失換算で、年間4兆円にも及ぶという。企業を中心に日本の食品ロスは減少傾向にあるが、自給率が低く海外に依存している日本において、これだけのロスが発生しているのは大きな課題だと指摘する。
また、海野氏は、この数字には含まれていない「隠れフードロス」の存在を指摘する。「464万トンという数字は、あくまで『本来食べられるのに捨てられているもの』の量です。しかし、生産・加工の段階で『食べられない』と判断されて捨てられているもの、例えば野菜の皮や芯、搾りかす、規格外で市場に出ない農作物などを含めると、その総量は約2,000万トンに上るとも言われています」という。
例えば、ビールの醸造過程で出る「麦芽かす(モルト粕)」や、カット野菜工場で大量に出る野菜の端材。これらは産業廃棄物として処理コストをかけて捨てられているが、加工技術次第では新たな食材に生まれ変わる。 「この2,000万トンという数字にこそ、ビジネスチャンスが眠っている」と海野氏は強調する。これまでコスト(廃棄費用)だったものを、テクノロジーの力でプロフィットに変えることができれば、それは日本経済にとって大きなインパクトとなる。
日本国内のアップサイクル事例:売上に貢献する「攻め」のロス対策
講演では、日本のスタートアップや大企業によるアップサイクルの例が紹介された。
ASTRA FOOD PLAN:「過熱蒸煎」で玉ねぎをパウダー化

日本のスタートアップ、ASTRA FOOD PLAN株式会社は、「過熱蒸煎」という独自の乾燥・殺菌技術を持つ。高温のスチームで瞬時に乾燥・殺菌を行うことで、食材の風味や栄養価を損なわずにパウダー化できる技術だ。 海野氏は、吉野家ホールディングスとの取り組みを紹介。牛丼の具材加工時に出る玉ねぎの端材(芯や外側など)は、1日あたり約700kgにも及んでいたという。これを過熱蒸煎機でパウダー化し、「玉ねぎぐるりこ」として商品化。パンやスナックの原料として販売することで、廃棄コスト削減と新たな売上創出の両立に成功している。
グリーンエース:未利用野菜を「Upvege」へ

株式会社グリーンエースは、色や香りを保持したまま野菜を粉末化する技術を持ち、「Upvege(アップベジ)」というブランドで展開している。 例えば、ライフコーポレーションのサラダ製造工程で出る玉ねぎの端材を活用し、「玉ねぎドレッシング」を開発。
これをサラダ売り場に並べて販売することで、「このサラダを作る際に出た玉ねぎを使っています」というストーリーが消費者に響き、ドレッシングだけでなくサラダ自体の売上向上にも寄与したという。「捨てないために買う」のではなく、「美味しいから買う、結果としてエコになる」という好循環を生み出した事例だ。
世界のフードテック・トレンド
フードテックの取り組みは、海外でも盛んに行われている。

同じくイギリス発の「Olio(オリオ)」は、家庭や店舗で余った食品を近隣住民とシェアするアプリだ。「作りすぎたスープがある」「旅行に行くので冷蔵庫の野菜をもらってほしい」といった情報を投稿し、欲しい人が取りに行く仕組みで、いわば「食版のメルカリ」のようなサービスである。地域コミュニティの活性化とロス削減を同時に実現している。
アメリカの「Apeel Sciences」は、野菜や果物の表面を植物由来の成分でコーティングし、鮮度を劇的に長持ちさせる技術を持つ。 プラスチック包装を使わずに酸化や水分の蒸発を防ぐことで、流通過程での腐敗ロスを減らすことができる。
フードロスは日本にとって最大・最後のチャンス。「Mottainai」を世界共通言語に
このような世界の潮流を踏まえて、海野氏はフードロスへの取り組みが、日本にとって最大のチャンスであると同時に、最後のチャンスではないかと指摘する。日本のポテンシャルとして、日本の食文化が持つ価値に触れ、講演の最後、海野氏はケニアの環境活動家ワンガリ・マータイ氏が広めた「Mottainai(もったいない)」という言葉に触れた。 「Reduce(ゴミ削減)、Reuse(再利用)、Recycle(再資源化)という3Rに加え、Respect(資源への敬意)という概念まで含んだ『もったいない』という言葉は、世界に誇れる日本の精神性です。日本が持つ食文化、伝統、技術はアジアをはじめとした世界と繋がり大きな価値となる」と締めくくった。
【パネルディスカッション】身近なところから実践できる、サステナブル・フードロスへのチャレンジ!
後半のパネルディスカッションでは、海野氏に加え、実際に食品製造の現場でアップサイクルに取り組む2名のゲストが登壇。モデレーターは株式会社アドライト代表の木村が務めた。
登壇者:
- 海野 慧 氏(Sustainable Food Asia株式会社 代表取締役CEO)
- 二井 広平 氏(池田糖化工業株式会社 東京開発室)
- 池田 吉啓 氏(株式会社栗山ノーサン 常務取締役
モデレーター:
- 木村 忠昭 (株式会社アドライト 代表取締役)
食品製造の「黒子」が変わる時
池田糖化工業は、創業から120年以上にわたり、中間加工メーカーとして大手食品メーカー等に原料を供給してきた「食の黒子」企業だ。カラメル色素や調味料、エキスなどを製造しており、二井氏いわく「スーパーに並ぶ加工食品の裏面を見れば、当社の関わった素材がほとんどの確率で入っている」という。
しかし、二井氏は近年のビジネスモデルの変化について危機感を口にした。「これまでは、お客様である食品メーカーから『こういう味を作ってほしい』と依頼されて作る受託型が中心でした。しかし、人口減少や市場の成熟化に伴い、ただ待っているだけでは選ばれない時代になっています。そこで我々は、『NEO黒子企業』を目指し、自社発信で新しい価値、例えばアップサイクル素材などを提案するスタイルへと転換を図っています」と語る。

その一環として取り組んでいるのが、植物性食品を美味しくする「プラントdeリッチ®」や、スタートアップとの共創だ。 ASTRA FOOD PLANの「玉ねぎぐるりこ」を使った事例では、単に粉末を作るだけでなく、池田糖化工業がその粉末を使って「玉ねぎ拌麺(まぜそば)」のメニューや「コロッケ」を開発し、試食会までセッティングしたという。 「粉末のままでは使い方がわからない。だから我々が間に入り、具体的なメニューや加工品として提案することで、実装までのスピードを上げる。これが新しい黒子の役割です」と二井氏は語る。
アップサイクルは「ゴミ処理」ではない
議論は、アップサイクルをビジネスとして成立させるための要点へと深まっていった。
海野氏は、アップサイクル成功の鍵は「川上(生産者)から川下(消費者)までの連携」にあると指摘する。 前述のグリーンエースの事例でも、単にスーパーが廃棄物を出すだけ、あるいはメーカーが加工するだけでは成立しなかった。 「どのタイミングで回収すれば鮮度が保てるか」「どのような加工をすれば消費者が美味しいと感じるか」を、排出元、加工業者、販売者が一体となって設計する必要がある。
二井氏もこれに同意し、「中間加工業者としての我々の役割は、排出された素材を『使いやすい形』に変換することです。例えば玉ねぎの皮をそのまま渡されても、パン屋さんもお菓子屋さんも困ってしまう。それを我々が殺菌し、乾燥させ、ペーストやパウダー状にすることで、初めて『食品原料』として流通させることができます」と語った。
さらに二井氏は、アップサイクル製品開発の難しさについて、「単に『エコだから』という理由だけでは、一度は買ってもらえてもリピートには繋がらない」と指摘。「牛肉不使用のコロッケに玉ねぎのアップサイクル素材を入れたところ、コクが出て非常に美味しくなり、結果として大好評だった事例があります。まずは『美味しい』『機能性が高い』という価値があり、その背景にサステナブルなストーリーがある、という順番が重要です」と実体験を共有した。
会場からのQ&A:「衛生管理」と「コストの壁」
パネルディスカッションの終盤、会場やオンライン参加者から核心を突く質問が寄せられた。
質問:「廃棄されるものを食品として再利用する場合、衛生管理や品質保証(QA)のハードルが非常に高いのではないか? どのようにクリアしているのか?」
池田氏: 「おっしゃる通り、食品として使う以上、衛生基準は非常に厳しいです。工場から出る端材を使う場合、どうしても異物混入のリスクや鮮度劣化の問題があります。我々の場合、自社工場内で発生するものをすぐに処理できる体制があるからこそ可能ですが、外部から回収して食品にするとなると、回収コストや選別コストが跳ね上がり、採算が合わなくなるケースが多いのが現状です」
二井氏: 「食品グレードの品質を担保するためには、例えば土付きの野菜であれば洗浄工程が必要になりますが、その設備投資やランニングコストを誰が負担するのかという問題になります。正直なところ、既存のサプライチェーンの中で『ゴミ』として扱われているものを『食品』に戻すのは、コスト的に見合わないことが多い。だからこそ、『食品』にこだわらず、飼料や肥料、あるいはバイオプラスチックやエネルギーなど、別の用途でのリサイクルも含めて検討する柔軟性が必要です」
海野氏: 「全くその通りで、無理に食品に戻そうとしてコストがかかりすぎては本末転倒です。例えばASTRA FOOD PLANの事例では、乾燥させて減容化することで産廃コストを下げつつ、飼料や肥料として販売するルートも構築しています。また、食品にするのであれば、『ストーリー』という付加価値を乗せて、通常の商品よりも高くても選ばれるようなブランディングが不可欠です」
総括:宮崎から始まる「食のイノベーション」
セミナーを通じ、浮き彫りになったのは「フードテックはもはや大企業や都市部だけのものではない」という事実だ。 むしろ、豊かな農畜産物を有し、日々大量の生産・加工が行われている宮崎県のような地域こそ、未利用資源の宝庫であり、イノベーションの最前線になり得る。
海野氏は最後に、「答えを持っている人はまだ誰もいません。だからこそ、まずは小さくてもいいから『やってみる』ことが重要です。宮崎の事業者の皆さんが実験的に取り組み、失敗も含めて共有し合うことで、新しい食産業のモデルがここから生まれることを期待しています」とエールを送った。
株式会社アドライトでは、今後も宮崎県とともにフードテックによる産業創出を支援していく方針だ。次回(第2回)のセミナーは年明け2026年2月10日(火)、「人手不足解消」をテーマに開催を予定している。 宮崎から始まる「持続可能な食」への挑戦に、今後も注目していきたい。
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