水素は、2050年カーボンニュートラルに向けて重要な選択肢として世界的に注目されてきました。燃焼時に二酸化炭素を排出しない「クリーンエネルギー」としての特徴や、再生可能エネルギーの余剰電力を活用できる点が、高い期待を集めてきた理由です。一方で、コストの高さやインフラ整備の遅れなど、現実的な課題も浮き彫りになってきています。
本稿では、水素のメリット、現在の逆風、そして今後のインフラの姿を整理します。
1. 水素に期待が寄せられた背景
CO₂を排出しない特性
水素が注目された最大の理由は、利用時に二酸化炭素を排出しないことです。産業・運輸など排出量の大きい分野での削減に寄与できる点があります。特に製鉄、化学、重輸送など電化が難しい領域において、水素は有力な選択肢とされてきました。
エネルギーを”蓄え、運ぶ”ことができる
電気は大量に長期間貯めることが難しいという性質がありますが、水素は製造して貯蔵し、必要なタイミングで使うことができます。
出典:https://www.env.go.jp/seisaku/list/ondanka_saisei/lowcarbon-h2-sc/citizen/index.html
2. 期待と現実の間にある”逆風”
価格面での課題
経済産業省「水素基本戦略」では、水素価格を2030年に30円/Nm³まで下げることを目標としていますが、IEAの分析では、各国の水素プロジェクトの進捗が遅れており、2030年の生産量見通しが目標を下回る状況にあることが報告されています。コスト低減についても、当初の期待通りには進んでいないのが実情です。
インフラ整備と採算性の問題
水素ステーションの整備には数億円規模の投資が必要で、燃料電池車の普及が追いついていないため、運営面では赤字が続いています。
パイプライン転用が難しい
既存の天然ガスパイプラインをそのまま水素に転用すると、金属の脆化を引き起こす可能性があることが知られています。欧州では既存パイプラインの一部を転用する計画が進められていますが、新規整備や改修には大規模な投資が必要とされており、技術的・経済的ハードルの高さが課題となっています。
3. 水素インフラはどこへ向かうのか
需要の大きい産業部門が中心に
IEAは「産業部門が水素需要の中心になる」と分析しています。とくに製鉄や化学分野は大量の水素を使用する見込みがあり、インフラ整備もこれらの地域を優先する傾向があります。
整備方針
全国一律にインフラを広げるのではなく、港湾や工業地帯など需要の集中する地域に拠点を設け、そこから供給することが現実的なアプローチとして示されています。
事業者支援
認定された事業者に対し、JOGMECは「価格差に着目した支援」と「拠点整備支援」という2つの助成金を交付します。前者は低炭素水素と既存燃料との価格差を補填するもので、後者はタンクやパイプラインなどのインフラ整備費用を支援するものです。
出典:https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/suisohou_02.html
4. 総論:水素が担う位置づけと今後の見通し
水素は、電化だけでは削減が難しい領域で役割を果たせる可能性を持っており、多くの国が将来的な選択肢の一つとして位置づけています。これまでの議論では「すべてを水素で置き換える」というイメージが先行した時期もありましたが、近年はより現実的な見方が広がっています。
産業向けの大規模需要、地域を絞ったインフラ、そして長期的には発電や運輸の一部に使用される、といったように、水素は”万能のエネルギー”というよりも「特定分野で価値を発揮する技術」として落ち着きつつあります。
今後も、再生可能エネルギーの拡大や技術革新、国際的なサプライチェーン整備とともに、水素の位置づけは徐々に形を変えながら進展していくとみられます。期待と課題が交錯する中で、各国の政策や市場動向を丁寧に読み解きながら、その将来像を見ていく必要があります。






