1. 食料安全保障と食料システムの転換
近年、食料を取り巻く環境は大きく変化しています。世界的な人口増加や気候変動、国際情勢の不安定化などにより、食料供給のリスクは高まりつつあります。こうした状況の中で、「食料安全保障」という概念が改めて注目されています。
食料安全保障とは、人々が必要な食料を安定的に入手できる状態を意味します。これは単に農産物を生産するだけでは実現できません。農業生産、食品加工、物流、小売、消費、そして廃棄物処理に至るまで、社会全体で構成される「食料システム」が安定して機能することが重要になります。
日本は多くの食料を海外からの輸入に依存しています。穀物や飼料などの主要な農産物は国際市場に大きく依存しており、世界的な食料価格の変動や輸出規制、物流の混乱が国内の食料供給に影響を及ぼす可能性があります。近年の世界的な食料価格の上昇や地政学的リスクの高まりは、日本の食料供給構造の脆弱性を改めて浮き彫りにしました。
こうした背景を踏まえ、日本政府は農業政策の見直しを進めています。その中心となる政策の一つが、みどりの食料システム戦略です。この戦略は、農林水産省が2021年に策定したものであり、農業と食品産業の持続可能性を高めると同時に、環境負荷の低減を目指す政策です。
特徴的なのは、農業生産だけでなく、食品産業や流通、消費などを含めた「食料システム全体」を対象としている点です。食料の生産から消費、資源循環までを一体的に捉え、持続可能な社会へと転換することが目指されています。
出典:みどりの食料システム戦略トップページhttps://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/
2. 気候変動の影響を最も受ける農業
農業は自然環境に大きく依存する産業であり、気候変動の影響を最も受けやすい分野の一つです。気温の上昇や降水パターンの変化、極端気象の増加は、農作物の生育や収量に直接的な影響を与えます。
日本でもすでにその影響は顕在化しています。例えば、気温上昇によってコメの品質低下が課題となっており、高温障害による白未熟粒の増加などが報告されています。また、果樹栽培では栽培適地の変化が指摘されており、将来的には産地の移動が必要になる可能性もあります。
さらに、豪雨や台風などの極端気象の増加も農業に大きな影響を与えています。近年、日本では大規模な豪雨災害が頻発しており、農地や農業インフラが被害を受けるケースが増えています。農業は自然条件に強く依存するため、気候変動の影響を直接的に受けやすい産業なのです。
一方で、農業は気候変動対策とも密接に関係しています。畜産から排出されるメタンや肥料使用に伴う亜酸化窒素など、農業分野も温室効果ガス排出の一部を担っています。そのため、農業分野でも脱炭素化に向けた取り組みが求められています。
こうした背景のもと、日本政府は農業分野においてもGXの推進を進めています。農業は気候変動の影響を受けるだけでなく、環境負荷を低減することで脱炭素社会の実現に貢献できる可能性を持つ分野でもあります。
3. みどりGX加速化研究会が示す政策の方向性
「みどりの食料システム戦略」をさらに推進するため、農林水産省は食料・農林水産分野におけるGX加速化研究会を設置しました。この研究会は、食料・農林水産分野におけるGXの実現に向けて、政策の方向性や具体的な施策を検討することを目的としています。
研究会では、みどりの食料システム戦略の取り組みを加速させるとともに、農業・食品分野におけるGXの推進を図ることが重要なテーマとなっています。背景には、近年の気温上昇や異常気象によって農業生産への影響が懸念されていることがあります。こうした状況を踏まえ、農業の持続性を高めるための政策議論が進められています。
研究会では、さまざまなテーマについて議論が行われています。例えば、GXを推進するための民間投資の呼び込みや、カーボン・クレジットの活用促進、有機農業の面的拡大、さらには気候変動への適応策などが主要な議題となっています。
また、新たな食料・農業・農村基本計画を踏まえ、2030年までに重点的に進める政策として「みどり加速化GXプラン」を取りまとめることも検討されています。これにより、農業分野における脱炭素化と環境負荷低減の取り組みをさらに加速させることが期待されています。
4. 日本農業が持つGXのポテンシャル
多くの課題がある一方で、日本の農業には大きな可能性も存在しています。その一つが技術力です。日本は世界的に見ても高い技術力を持つ国であり、農業分野でも先端技術の活用が進んでいます。
近年注目されているスマート農業はその代表例です。センサーやIoT、人工知能などを活用することで、作物の生育状況や土壌環境を詳細に把握し、必要な資材を適切な量だけ投入することが可能になります。これにより、肥料や農薬の使用量を削減しながら生産性を維持することが期待されています。
また、日本の農業は品質の高い農産物を生産する技術を長年にわたり蓄積してきました。精密な栽培管理や施設園芸、品種改良などの技術は世界的にも高く評価されています。こうした技術は、環境負荷を低減しながら生産性を高める持続可能な農業の実現において重要な強みとなります。
さらに、日本では地域資源を活用した循環型農業の可能性も広がっています。農業残渣や食品廃棄物を肥料やエネルギーとして再利用する取り組みは、地域の資源循環を促進し、農業と地域社会を結びつける新しい仕組みを生み出しています。これは、資源循環型経済である
サーキュラーエコノミーの観点からも重要な取り組みと言えるでしょう。
食料システムの転換は、農業者だけで実現できるものではありません。企業や自治体、そして消費者を含めた社会全体の取り組みが必要です。環境に配慮した食品の選択や食品ロスの削減など、消費者の行動も食料システムの変化を後押しする重要な要素となります。
出典:農林水産省 みどりの食料システム戦略に基づく取組の進捗状況と今後の展開
https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/251029-33.pdf
気候変動や人口減少が進む現代において、食料の安定供給と環境保全をどのように両立させるかは重要な課題です。GXと食料政策を統合的に進める取り組みは、日本の農業と食料システムを持続可能なものへと転換する鍵となるでしょう。
イベント
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