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ケンブリッジ大学NanoDTCで生み出される学際的かつ社会実装志向性の高い研究の数々

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9月19日、Inspired.Lab(東京・大手町)にてイベント「英ケンブリッジ大学 PhD 大学院生の皆さんの研究紹介 & ネットワーキング」が開催された。

英ケンブリッジ大学のNanoDTC(NanoDTC, University of Cambridge)に所属する博士課程の大学院生約20人が来日し、口頭やポスターでの発表を通じて自身の研究内容を紹介した。イベントでは立食形式のネットワーキングセッションも催され、NanoDTCの学生達は、研究者、スタートアップや大手企業の関係者、学生らとの親睦を図った。

本イベントの主催は、TomyK Ltd.三菱地所株式会社。本稿ではイベントの模様を紹介するとともに、TomyK 代表・鎌田富久氏へのインタビューを掲載する。

10年間で誕生したディープテック・スタートアップは10社以上

NanoDTCは、ケンブリッジ大学において10年前に始まったナノテクノロジー、ナノサイエンス分野の研究に取り組むプログラムだ。1年間のMRes(Master of Research, 修士号に相当)と3年間のPhD(Doctor of Philosophy, 博士号に相当)の課程からなり、学生は1年目に科学やビジネス、サイエンスコミュニケーションの素養を深めた後、2年目から独自の研究テーマに取り組んでいく。これまでの卒業生は、49%が製造業や自身のスタートアップに、31%がアカデミアに、残りは他のセクターへと進んでいるそうだ。

卒業生の進路について説明するNanoDTCの学生代表・Ryan氏

卒業生の進路について説明するNanoDTCの学生代表・Ryan氏

NanoDTCの特徴は大きく二つある。

一つ目は「学際性」の高さだ。NanoDTCで取り組まれている研究は、物理学、化学、 材料科学、生物学、工学といった広範な分野にまたがり、世界中の異なる専門分野を持つ学生達がこれらの研究に取り組んでいる。

もう一つの特徴が「社会実装」を目指す姿勢だ。NanoDTCは、産業界やスタートアップとの強力な連携を活かして研究の社会実装を目指す「起業家精神」を重要視している。これは、誕生してまだ10年目のプログラムであるにも関わらず、既に10社以上ものNanoDTC発スタートアップが生まれているという結果として表れている。

NanoDTC発スタートアップ一覧

NanoDTCにおける 学際的かつ社会実装志向性の高い研究の数々

今回のイベントは、このNanoDTCの学生たちがPh.D. 終了後のキャリアの選択肢を広げるために企画された1週間ほどの日本ツアーの一環として実施されたものだ。

スタートアップデーとして位置づけられていたこの日、一同は日本のディープテック・スタートアップであるエレファンテック株式会社株式会社アクセルスペースを訪問したのち、Inspired.LabにてNanoDTCにおける多様な研究を披露した。

会場の様子

会場の様子

その一部を紹介したい。

● Waste as a feedstock for solar-driven hydrogen generation
プラスチック廃棄物は貴重な原料であるが、埋め立てごみや環境汚染物質として大半は無駄となっている。太陽光のエネルギーを利用してプラスチックと水を、水素と有機化合物に変化させる触媒反応のPhotoreformingを活用することで、この問題の解決に挑戦しているそうだ。

● Light-induced patterning of structural colour
現在使用されている染料とプラスチックではなく、サスティナブルな素材を用いてカラフルな素材を作ろうとする研究。すでにセルロース(植物の細胞壁の主成分である多糖類)を用いたカラフルなフィルムの開発などに成功しているそうだ。

● The role of viscoelasticity in axon guidance during development
発生過程において、細胞は目から脳へと伸長するが、それらの細胞が如何に脳の適切な箇所に誘導されるかは明らかになっていない。脳組織が如何にそれらの細胞を導いているのかを原子間力顕微鏡と光学技術によって明らかにしようとしているそうだ。

学際的研究やスタートアップを推進するカルチャー

発表の中で、特に筆者が気になった研究はRoger Rubio Sanchez氏による「Coupling synthetic amphiphilic DNA constructs to lipid phase separation in artificial cells」であった。

Roger氏が取り組んでいるのは、生体模倣(biomimicry)のツールとしての 「外部環境を感知する人工細胞」の開発だ。

ボトムアップ合成生物学では、DNAやタンパク質のような生体物質を半透膜で閉じ込めることによる人工細胞の創出が試みられている。この人工細胞作製におけるひとつの課題は、人工細胞間のコミュニケーションを可能にする一般的な方法が確立されていないことだ。

Roger氏はこれを解決するため、DNA分子が挿入された脂質二重層に囲まれた人工細胞を用いて、外部環境を感知できる人工細胞の創出を試みている。

まず、人工細胞の膜 (脂質二重層) は、複数の種類の脂質を含むように作製することができる。そして、それらの種類や比率を変えることで、膜の物理的な特性を調整することが可能だ。

また、DNAはワトソン・クリック型塩基対を形成し、自発的に二重らせん型の構造を形成する特徴をもつ。そして、DNAはその塩基配列の意図的な設計が容易であり、分子末端の修飾も可能である。

そこで、Roger氏は、脂質二重層に関する技術とDNAに関する技術を組み合わせて、外部環境の感知が可能な新たな人工細胞の作製に挑戦しているようだ。

本研究がどのような形で社会実装できそうか尋ねてみたところ、「ドラッグデリバリーに活かせる可能性があります」とRoger氏。外部環境を感知できる人工細胞の作製に成功すれば、ある特定の条件下のみで内容物を放出させる人工細胞を作ることも可能になるだろう。そうすれば、人工細胞に薬を運ばせ、がん細胞の近くでのみ薬を放出させるといったこともできるかもしれない。これは、薬の効果の向上や、副作用の低減に繋がることが期待される。

Roger Rubio Sanchez氏

Roger Rubio Sanchez氏Roger氏への一問一答は以下の通り。

―― 卒業後は、アカデミアか産業界のどちらに行きたいですか?
アカデミアだね。今後、気持ちが変わるかもしれないけど、今はとてもアカデミアをエンジョイできているから、このままアカデミアに進みたいな。

―― 今日訪問されたスタートアップについてどのような感想を抱きましたか?
とても素晴らしかった。アカデミアにいると、論文書きに追われて、研究をなにに応用できるか忘れてしまうことがある。実際にどう応用されるのかを見られたのは良かったよ。

―― イギリスの科学環境について、日本と比較したときの長所と短所を教えてください。
僕はメキシコからケンブリッジ大学に来たけど、イギリスの科学環境にはとても満足しているよ。(ケンブリッジ大学の)長所は、学際的研究を推進しているところと、スタートアップを推進するカルチャー。Cambridge Enterpriseを通じた支援も充実しているね。
短所は、アカデミアのポストが(決して少なくはないけど)十分ではないこと。ポジションがなくて、研究を継続できない優秀な人材がいるのは勿体ないと思うよ。

日本で博士号取得者が減っているのは問題

本イベントの主催者の一人であるTomyK代表・鎌田富久氏にイベントの狙いや背景を伺った。同氏はエンジェル投資家としてロボット、人工知能、人間拡張、IoT、ゲノム、医療、宇宙などの領域のテクノロジー・スタートアップの支援に取り組んでいる。

―― 本イベントを開催されることになったきっかけや背景について教えてください。
NanoDTCの学生達は、Ph.D.取得後のキャリアの選択肢や可能性を探るためのツアーをこれまでも学生達で企画して実施してきたそうです。そして、そのツアー先として今回は初めて日本が選ばれました。

訪問先として最初に候補にあがったのが、素材の研究をしている人が多いNanoDTCと親和性の高いテーマに取り組んでいる大学発スタートアップであるエレファンテック株式会社だったそうです。

TomyK代表・鎌田富久氏

TomyK Ltd. 代表・鎌田富久氏

初めに、NanoDTCの学生達から杉本さん(エレファンテック株式会社副社長・杉本雅明氏)に連絡がありました。その後、杉本さんから僕に連絡があって(鎌田氏はエレファンテック株式会社の最初の投資家であり、社外取締役も務められている)、「あ、これは面白そうだ」と思いましたね。

Inspired.Labを開設した堺さん(三菱地所株式会社 xTECH営業部兼ビル営業部 統括・堺美夫氏)からの後押しもあって、ツアーの中の一日を使ってスタートアップツアーとInspired.Labでのネットワークイベントを開催することになりました。

―― 本イベントで意図されていたことや、効果として期待されていたことを教えてください。
日本が初めての人や日本で働きたい人が多いみたいだったので、NanoDTCの学生達には今回のイベントで知り合いを増やしてもらって、次に繋げていってもらえると嬉しいと思っていました。

また、ケンブリッジ大学のPh.Dの学生が20人もまとまって来ることはなかなかないので、日本の研究者や学生にも興味を持ってもらって、NanoDTCの学生達との交流を深めてくれると良いなと思っていました。

―― それらの期待に対して、どの程度満足のいく結果でしたでしょうか?
NanoDTCの学生達は、とても満足してくれたみたいですね。日本の参加者の方々の反応も良かったように思います。
実は今、NanoDTCの学生を日本のスタートアップに送り込んだり、逆に日本の学生をNanoDTCに送り込んでみたりするのはどうかなという話が出てきています。実現できればとても面白いですね。

―― NanoDTCについて、特に魅力と思われるところを教えてください。
20人の研究発表を聞いて、日本の博士の学生よりも楽しんで研究できているように感じました。それに今回のツアーは大学主導のイベントではなく、学生達だけで企画して実施されたものでした。こういったものも日本では見ないですよね。

また、NanoDTCで取り組まれている研究の多くが基礎研究寄りのものであるにも関わらず、プログラムが誕生して10年で既に10社以上のスタートアップが生まれています。とても素晴らしいことだと思います。

―― 英国と比較した際の、日本のスタートアップエコシステムやアカデミアの強みや弱み、課題等についてご意見をお伺いしたいです。
NanoDTCの学生たちは、生き生きと研究に取り組み、それを専門外の人にも説明していました。また社会実装にも興味を持っていました。この姿勢は日本の学生にも必要だと思いました。

また、博士号取得者が日本で減っていることは問題です。学生達に「博士取ることや最先端の研究をすることは魅力的で、社会の役に立てる可能性もある」と思わせないといけないです。そのためには、大学はもっと努力しないといけないですし、大手企業やスタートアップが博士を活用するエコシステムも必要です。

―― なぜ日本の博士号取得者は減っているのでしょうか?
博士の就職口があまりないから、学生は博士課程に進学しないのでしょう。アカデミアは上が詰まっていてポストが空いていませんし、大手企業は博士よりも修士を採りたがる傾向があります。ここに「起業」という道があれば良いと思います。それをみんなが応援すべきでしょう。

優れた研究をする人は、課題を設定してそれを解決する能力が高く、応用が効く人材だと思います。
「博士課程に行くといろんな可能性が生まれるし、大手企業も高給でとってくれる」というような状況になればみんな行くようになるでしょうね。

CVC、アクセラレータープログラム…オープンイノベーション推進の鍵は「協業仮説・協業先・社内巻き込み」

addlight journal 編集部  addlight journal 編集部

10月21日、京セラドキュメントソリューションズジャパン株式会社主催、弊社株式会社アドライト共催のイベント「オープンイノベーションの事業創造と具体的戦術」がKnowledge Place(※)(東京・虎ノ門)にて開催された。Knowledge Place Opening Monthは計3回のイベントを予定しており、今回は第一回目に当たる。

テーマは「オープンイノベーション」。どうすればオープンイノベーションは成功するのか?そもそもなぜオープンイノベーションは必要なのか?オープンイノベーションの基本から最新事例、大手企業からみた導入戦略と具体的戦術に至るまで幅広いトークが展開された。

※ Knowledge Place(ナレッジプラス)は、2019年10月1日に東京・虎ノ門にオープンした、オープンイノベーションを促進する共創スペース。ここに集まる様々な企業、人々の知識を効果的に組み合わせてイノベートし、新たな価値を生み出すことを目指している。
https://knowledgeplace.jp

日本流オープンイノベーションの実現を目指して

冒頭、弊社代表取締役の木村より「オープンイノベーションの導入戦略と具体的戦術」という題目で講演がおこなわれた。

現代の経営環境は、Volatility(変動性)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑性)、Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとってVUCAの時代だと言われる。これまで時間をかけて計画的にプロダクトを世に出していくことができた。しかしながら、技術の発達の速度が上がっていることに加えて、消費者側のニーズの変化も速く、従来の方法では対応できなくなってきている。この状況は、イノベーションカーブがより裾の狭く尖った形状のものになってきたと表現することもできる。

こうした経営環境の変化により、自前主義の姿勢は通用しなくなってきた。計画を立てて開発し、プロダクトを世に出した頃には既にブームが去っていたり、プロダクトを開発するのに多くの新しい技術が必要とされたりすることが増えたからだ。そのような中で重要度が増してきたのがオープンイノベーションである。

オープンイノベーションは「企業の内部と外部のアイデアを有機的に結合させ、価値を創造する、イノベーションを促進するための知識の移出と移入の意図的な活用プロセス」だと提唱者のヘンリー・チェスブロウ教授は定義している。期待されるメリットとしては、これまで社内で進めていた研究開発において、企業の境界を越えた技術やノウハウの連携や、連携することによる研究開発課題の解決、研究開発の効率化が挙げられる。

オープンイノベーションの戦術としては、規模や効果の小さい順に

  1. サービス購入
  2. 関連イベント企画運営
  3. 協業プロジェクト実施
  4. 企業アクセラレータープログラム実施
  5. 個別企業への出資
  6. ベンチャーキャピタル(VC)への投資
  7. コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)設立
  8. ジョイントベンチャー(JV)設立
  9. 企業買収実施

といったものが挙げられる。戦術4、5、6、7は、日本でも多く見られる。戦術9の企業買収は、日本ではまだまだだが、欧米では主流なオープンイノベーションの実現方法だ。

オープンイノベーションの重要性は世界中で認知されており、様々な取り組みがなされている。しかしながら、その進め方は国によって異なるべきだと木村は言う。破壊的イノベーションの重要性が叫ばれている昨今だが、日本は社歴の長い企業が多く、なんでもかんでも破壊的であれば良いわけでもない。既存のものと上手く連携して協力的にイノベーションを行っていくこともこの国には重要だ。日本には日本流のオープンイノベーションの形があるはずだ。この日本流オープンイノベーション実現について、木村は以下の3つが重要という。

  1. 自前主義からの脱却
  2. 破壊ではなく共創のモデル
  3. 独自の進化プロセス(社歴の長い企業が多い欧州は参考になるだろう)

木村曰く、オープンイノベーション成功のために重要な要素は「協業仮説」「協業先(スタートアップ)」「社内巻き込み」の三つ。オープンイノベーションはあくまで手段であるため、戦略を立てることがまず重要だ。次に、外部のスタートアップと協業する際に、そのスタートアップをどう選定し、どう関係を構築するのかが重要になる。最後に、事業を大きくしていくためには社内を巻き込んでいくことも必要だ。

アントレプレナーになぞらえ、社内起業家を「イントレプレナー」と呼ぶが、イントレプレナー成功のカギは、個人のWillと企業のWillが重なることに取り組むことだと言われている。内発的動機に基づく自発的な姿勢が重要というわけだ。これは、オープンイノベーションの実現にとっても重要なポイントだと木村は指摘する。大手企業の社内ルールはオープンイノベーションのためにはできていない。そのような中、オープンイノベーションを実現していくためには起業家精神を持ち、自分事として取り組んでいけるかが問われている。

CVCをやめる理由を作らない

木村に加え、株式会社ポーラ・オルビスホールディングス 総合企画室 コーポレートベンチャーキャピタル担当の岸裕一郎氏、富士通株式会社 FUJITSU ACCELERATORのイノベーション鈴木氏、東急株式会社 フューチャー・デザイン・ラボ イノベーション推進担当 主事の福井崇博氏らを迎え、トークセッションが実施された。

岸氏は社内ベンチャー制度を利用して、新規事業としてCVCをポーラ・オルビスホールディングス内で立ち上げている。もともとベンチャーに興味があったことに加えて、アメリカでユニリーバやP&GがCVCを立ち上げ成功している例を見て、日本でも来ると思えたことが取り組むきっかけとなったそうだ。

ゼロからCVCを立ち上げ、これまで10社に投資してきた岸氏。その中でも特に難しかったことを聞かれると、「『CVCの意義』は何か社内でコンセンサスを取ることです」と岸氏。CVCはシナジーの創出が大きな目的のひとつだが、実際にはなかなか難しいという。そこで長期的にはシナジー創出を目指しつつ、短期的にはファイナンシャルリターンを出していくことで「やめる理由を作らない」ように意識しているそうだ。

現在、FUJITSU ACCELERATORの運営に携っている富士通株式会社のイノベーション鈴木氏は、2018年に株式会社リコーにて「360度バナー広告」をオープンイノベーションで実現させた実績を持つ。トークセッション序盤では、イノベーション鈴木氏の呼びかけで「イノベーション!」と叫ぶ催しが実施された。「大手企業とスタートアップが協業すると、サービスリリースまでに1年以上かかり、公開できない情報ばかりのため、『イノベーション!』と叫ぶようになりました」と語るイノベーション鈴木氏。FUJITSU ACCELERATORの特長は、事業化に本気の事業部のみ参画し、事業部の決裁者がコミットすることで短期間での協業の実現などができるスピーディーさだと強調した。

■関連リンク
・FUJITSU ACCELERATOR第8期
– 募集締切:2019年11月22日(金)
– 申し込みURL:http://www.fujitsu.com/jp/innovation/venture/entry/index.html

福井氏は、2018年に東急株式会社に入社し、東急アクセラレートプログラム(TAP)Shibuya Open Innovation Lab(SOIL)の運営を担当している。新卒で入社した前職の日本郵便でもオープンイノベーションプログラムの立ち上げやスタートアップ連携の推進に取り組んでいた福井氏は、2社の大手企業でオープンイノベーション推進に携わった経験を持つ。

会場から、まず「アクセラレータープログラムは自社だけで運営できるものなのですか?」という質問が上がった。福井氏は「東急は、以前はアドバイザリーでVCに入ってもらっていたこともありましたが、今は完全に自社で回しています。最初は外部の支援を活用しても良いかもしれませんね」と回答。また、イノベーション鈴木氏もこれに同意し、「基本的には、我々も自社でアクセラレータープログラムを実施しています。一部イベント運営等のスタートアップ協業の本質ではない部分に関しては、外部の企業にイベント運営支援として入ってもらっています」と語った。

また、「投資先の目利きは社内でできるのですか?」という会場からの質問に対し、岸氏は「社内で取り組んでいますが、目利きできるかは業界によりますね。D2C、Beauty Techはできますが、できない業界もあります。投資先の80%は目利きができる領域、20%はできない領域にするといったようにポートフォリオを組むのが良いのではないかと考えています」と答えた。

目利きをする立場の木村曰く、「実際、目利きは難しいです。特にシード期のスタートアップは事業も複数回ピボットしていくため判断するのは難しいです。変化率(前回会った時に比べてどれくらい良くなっているか)は、創業期のスタートアップを見極める際のひとつの指標になるかもしれません」と答えた。そして、「Y Combinatorは、『目利きはできない』を前提とし、ある基準を満たしたスタートアップには幅広く投資しています。またトップVCの間でのトレンドは『合議制の排除』。一人のキャピタリストがGOサインを出したら投資するという方針が増えてきています」と付け加えた。

また、福井氏は「目利きができなくとも、Top tierのVCが投資している場合などのように目利きの面はある程度担保されるのではないでしょうか。大事なのはそうしたTop tierのVCから投資先を紹介したい、一緒に投資して欲しい、と思われる価値を発揮できる事業会社になれるかではないかと考えています」と述べた。

ほかにも会場からは様々な質問が投げかけられ、スピーカーの方々の経験に基づく考えや秘訣を聞くことができた。トークセッションの後には懇親会が催され、スピーカーと参加者の方々とで密な情報交換が展開されていたようだ。このイベントをきっかけに新しい取り組みが生まれるかもしれない。

お知らせ

11/21(木)16-19時、東京21cクラブ(新丸ビル10F)にて「Mirai Salon #14 成功を引き寄せるCVC戦略」を開催します。ゲストに、アメリカ、EU、日本等のスタートアップに積極的に出資するソニー、スタートアップながらCVC(SVC)としてマネーフォワード、今年10月にJFE エンジニアリングに買収されたAIスタートアップのAnyTechを迎え、各社の立場でCVCを語っていただきます。
とくにソニーは投資スタンス(事業シナジー含む)や海外と日本で投資基準や投資を受け入れる体制に違いはあるのか、出資先スタートアップへどんなアドバイスを施しているのかなど発表いただく予定です。

<登壇者>

  • Sony Innovation Fund (ソニー株式会社) イノベーションファンド室
    シニアインベストメントマネジャー 北川 純 氏
  • 株式会社マネーフォワード 取締役執行役員/マネーフォワードシンカ株式会社 代表取締役
    金坂 直哉 氏
  • Anytech 代表取締役
    島本 佳紀 氏

地政学も影響―イノベーションとテクノロジーの発展目覚ましい黒海周辺

addlight journal 編集部  addlight journal 編集部

10月29日、株式会社アドライト主催のもと、海外のオープンイノベーションやトレンドをキャッチアップするイベント「Trend Note Camp 19 未知なる黒海周辺スタートアップ~トルコ、アルメニア、ジョージア、ウクライナ~」をFINOLABにて行った。
ゲストスピーカーにJETRO イスタンブール事務所 経済部長(産業調査員)の廣瀬浩三氏を迎え、トルコを中心に黒海周辺のスタートアップ、スタートアップエコシステムについてお話しいただいた。

黒海と言われてどのようなイメージを抱くだろうか。廣瀬氏は黒海周辺になにか明確なイメージを持っている日本人はそう多くなく、ほとんどの人にとってはまさに文字通り「黒く」、よくわからない地域になっているのではないかという。トルコやウクライナ、ジョージアを巡っては、紛争やテロのニュースもあり、なんとなく危ないような気がする、といったイメージを持つ方も少なくないのではないだろうか。

ところが、黒海周辺はビジネスの広がりという意味では、高いポテンシャルを持っている地域でもある。
例えば廣瀬氏が拠点とするイスタンブール。ロンドン、パリ、ベルリンの欧州から、テヘラン、ドバイ、リャドの中東、スーダンなどのアフリカまで各方面へ片道4時間以内というアクセスの良さを持つ。東京で4時間以内となるとソウル、北京、上海、台北あたりが限度だが、イスタンブールからカバーできる範囲としては56ヵ国、総人口にして16億人にもなるという。

JETRO イスタンブール事務所 経済部長(産業調査員)・廣瀬浩三氏

JETRO イスタンブール事務所 経済部長(産業調査員)・廣瀬浩三氏

イノベーション加速の地・トルコ

そんなアクセスの良さを活かして開催されているトルコのスタートアップイベント“Startup Istanbul”には、140ヵ国22,000社からの応募があるというトルコ国内よりもできるだけ海外からの参加チームを増やそうとしているだけあり、最近では、入賞者はアルジェリア、パレスチナ、インドネシア、スウェーデン、レバノンなど様々な地域から選出されているという。

10年ほど前までトルコは欧米プロダクトのトルコ版ばかりだと揶揄されていたが、現在ではEコマースやモビリティ、ゲーム、ヘルスケアなどジャンルも幅広くなっている。特に流行っているのはFinTech。イスタンブールは銀行が多いため、FinTechを用いたソリューションを活用しやすいのだとか。

Eコマース市場には若年人口層の厚みやロジスティクス、決済手段の3つが必要な要素と言われているが、トルコは新興国の中では珍しくそれらがすべて揃っているという。人口の9割がインターネット、7割がモバイルでインターネットを利用し、国内の物流は国の端であっても3日もあれば物が届くという環境にある。

2014年PayPalが発表した、1年間のスマホ経由でのショッピング実態調査によると、トルコやUAE、中国といった国が上位を占めた。高齢化が進んでおらず、スマホネイティブな新興国に分がある結果としながら、クレジットカードの普及率81%も手伝い、同国でEコマースが注目を浴びているのは納得と言えるだろう。

またトルコ国内だけでなく、欧米でのトルコ系移民の存在感も大きいという。欧米市場を狙ったサービスのひとつ、オンライン学習サービスのUdemyはシリコンバレー発のサービスだが、ファウンダーはトルコ人だ。

政府の支援も充実してきており、証券取引所にディールルームを作ったり、テック系ベンチャー創出の相談窓口を設けたりしている。賛否両論あるが、若者のシリコンバレー進出を推奨し、シリコンバレーにもトルコ政府が支援する拠点を設けているという。

未完成だからこそ注目!黒海スタートアップ市場

日本と比較すると、トルコへの投資金額は10分の1~20分の1程度と決して多くはないが、M&Aは700億円規模と大型なものが多い。この点について廣瀬氏は、リーマンショック前の2001年に経済危機が起きたことによる構造改革での経済成長を挙げた。加えて、国内のスタートアップエコシステムが未成熟でもeBay、デリバリーヒーロー、アリババ等、全体的に海外からの投資が多いことも背景にあるとした。

ただし、トルコのエコシステムは必ずしもグローバルなスタートアップ企業に優しいわけではないという。海外の企業となるとローカライズの規制があり、満足に活動できず撤退せざるを得ないというケースもあり得るのだ。

例えば、前述したPayPalは2016年にライセンス停止処分を受け、トルコから撤退した。Uberはタクシー業界の圧力を受け利用禁止に。今でもサービスは続いているが、代わりにJapanTaxiのようなBitaxiを国内スタートアップが提供開始しているという。トルコはプラットフォーマーを排除する姿勢を貫いているわけではない。税制面やデータのローカライズ面においての自由度はアメリカほど高くないが、EU加盟を目指しているだけあり、EUの水準と同等のルールを特にFinTech界隈で設けているそうだ。

GoogleやFacebookのような巨大プラットフォームも基本的に利用可能だ。海外を経由して注文しなくてはならなかったAmazonも2018年よりトルコ国内でサービスを開始した。Wikipedia等の閲覧規制問題があるとはいえ、海外のサービスで使えないのはPayPalくらいだという。海外のジャイアントの参入が防がれることで独自のスタートアップが深化する余地もありそうだ。

こうした状況から海外からの投資を元手にEXITを果たした第一、第二世代のスタートアップが投資サイドに回り始めてもいるとし、徐々にトルコ国内のスタートアップエコシステムが成長してきていることを語ってくれた。

汚職イメージをブロックチェーンで払拭・ジョージア

ジョージアの位置するコーカサス、またカスピ海を挟んで東側の中央アジア地域は、ブロックチェーンが盛んだという。最近では、ウズベキスタンでは政府システムをブロックチェーンに統合することが決定し、キルギスでも特許記録をブロックチェーンで記録するという発表があった。

廣瀬氏曰く、ジョージアでも政府の公共サービスでの活用を試みており、街中のショッピングセンターには仮想通貨のATMが設置されているという。内戦や革命の際、土地の登記が無茶苦茶になった経緯もあり、ブロックチェーンの透明性、安全性への理解が得やすかったという背景もある。透明性を重視していることの象徴として、廣瀬氏は市民ホールもガラス張りのオープンな環境にしていることも教えてくれた。同時に、マイニングに必要な電力の料金が安いことがブロックチェーン関連の企業を引き付けている。

投資需要としてはトルコの半分程度ということでまだまだ発展段階にあるが、これからのトレンドであるブロックチェーンを実装している点などにポテンシャルを持つ。

世界有数のエンジニア大国・ウクライナ

元々はソ連の航空宇宙系などのエンジニアを多く抱えており、技術大国とも呼べるウクライナ。ヨーロッパやイスラエルのIT関連のアウトソーシングを引き受け、そこからスタートアップに転換したという背景もあるため、優秀なスタートアップを数多く輩出している。

例えばWhatsAppやPayPalの共同創業者はウクライナ人であったり、Snapchatに買収されたセルフィー用フィルターを開発したLookseryもウクライナ出身のチームだ。IT以外の産業からIT部門へエンジニアが流れた結果、優秀なエンジニアに恵まれた国となった。

サムスンのR&Dセンターもウクライナに拠点を設け、革命の混乱の最中にも維持することを決断した。これはウクライナ人の優秀さから撤退するに撤退できなかったという逸話があるほど。現に、サムスンの社内で行われるコンペティションでは、ウクライナ人とインド人が必ずと言っていいほど上位に残るのだという。

最近では、スタートアップと言えば、イスラエルというのが定着した感があるが、イスラエル国内は実際にはIT技術者のヒトで不足が生じており、商売上手なイスラエル人に対し、ウクライナ人は技術力で勝るため、イスラエルのスタートアップがウクライナに外注するというケースも少なくないのだとか。

IT教育・優遇政策でエコシステムを育成―アルメニア

ウクライナと共に技術力が高かったとされるアルメニア。そのポテンシャルは、かつてソ連のシリコンバレーと呼ばれるほどだという。しかしまだまだ投資額もスタートアップの数も少なく、発展途上の段階にある。

そんなアルメニアの強みは教育基盤の強固さ。小学生~高校生を対象にプログラミング、デザインといったIT教育をほぼ無料で行うというTUMOセンターは最たる例だ。センター内にはMacが揃い、Adobeをはじめとしたソフトウェアが一通り使える。映画上映会のような形でアウトプットの機会も創出している。子供にとっては楽しみながらIT教育を受けることができるというこの上ない場所になっているのだ。

まだまだ輩出数は少ないが、ITスタートアップに対する投資環境も海外に離散するディアスポラの支援もあり整いつつあり、全世界5億DLを誇る画像編集アプリPicsArtはアルメニア発。同国のIT企業・MAIAが運営する、ブロックチェーンを用いたメディアとして期待されているPUBLIQもその1つ。今後もさらに有望なスタートアップが増えることが予想される。

「(サウジアラビアやトルコリラの暴落など)地政学的・経済的なリスクはあるものの、逆境の時こそスタートアップは生まれるのではないでしょうか」(廣瀬氏)

関係は良好でも、日本企業が黒海周辺への投資に二の足を踏む理由

廣瀬氏によるこれまで見知ったことのない内容の解説にオーディエンスから質問が多く飛び交った。

日本との関係を聞かれると、「今は、インターネットの普及もあり、アニメや技術のイメージが先行しており、いずれの国も良好」と廣瀬氏。日本企業に投資をして欲しいという意欲に変わりはないものの、トルコ以外のアルメニア、ジョージア、ウクライナに関しては、日本に対し売るものがあまりないという課題があるという。

日本企業の黒海周辺への進出具合にも偏りがある。モノづくり系企業や商社を中心にトルコをヨーロッパの生産拠点として近隣諸国、中央アジアやアフリカの市場を狙う一方、ジョージアやアルメニアにはそれがほとんど見られない。ウクライナにはかろうじて一部メーカーが進出しているものの、販売系の企業に限られているという。背景に、トルコ以外の黒海周辺の地域はロシアの影響が大きく、領土の主張が入り乱れている点、政治や民族等複雑でややこしい部分が少なからず影響しているようだ。

「スタートアップエコシステムが未完成のTier2、Tier3ともいえる国や地域に目を向けていき、シードから育てていくという意識が必要になってくるのではないでしょうか」とイベントを締めくくった。

テック系、アクセラレーター、女性進出…トルコのスタートアップ事情

JETRO イスタンブール 経済部長(産業調査員) 廣瀬 浩三

ナイジェリアのラゴス、パレスチナ自治区のガザ、インドネシアのジャカルタ。あるスタートアップイベントで入賞した参加者の出身である。日本で話題のシンガポールでも、イスラエルでもない、トルコのイスタンブールのイベント「スタートアップ・イスタンブール」での1シーンだ。

トルコのスタートアップシーンは比較的若い。この10年でインターネット人口が2倍近くになり、携帯電話ユーザーは世界で最も積極的なEコマースやネットバンキング、QRコードスキャンの利用者とも言われる。農家やシリアからの難民、街中の運送トラックの運転手などが使いこなす様からスマートフォンの浸透を感じさせる。こうした急激な変化を背景に、Eコマースを先頭に、FinTech、ヘルスケア部門をはじめ、官民挙げてのスタートアップ支援の波が来ている。

トルコ発のスタートアップで2000年に創業された、オンラインのフードデリバリーサービス「イエメキセペテ(Yemeksepeti)」がドイツのデリバリーヒーローに、2015年、5億8900万ドルで買収されたとのニュースは、若者のスタートアップ熱に火をつけたといわれる。

こうした成功例に対し、スタートアップの層の厚さを形成していくうえで欠かせないテック系スタートアップの成功はまだあまり聞かない。自身も起業経験があり、トルコのスタートアップ情報を追うスタートアップウオッチの社長セルカン・ウンスル氏も「母校であるアンカラの中東工科大学の卒業生の多くは、銀行や防衛産業、通信産業に流れて行ってしまう」と嘆く。しかし、この数年トルコのトップ1・2の理系大学である中東工科大学やイスタンブール工科大学で多数のアクセラレータープログラムが形成されている。テックベンチャーの勢いは火が付きつつあるのだ。

昨年の「スタートアップ・イスタンブール」では、ティム・ドライパーがスピーカーとして登壇した。

昨年の「スタートアップ・イスタンブール」では、ティム・ドライパーがスピーカーとして登壇した。

また、冒頭紹介したスタートアップ・イスタンブールのように、海外との接続でトルコのスタートアップシーンを変えようとの動きも進む。今年で9回目を迎える本イベントは、冒頭に紹介した3国・地域のみならず、世界140ヶ国以上、22,000人の応募者の中から参加する100社を選び抜いたという。さらに、イベントの中で起業家の事業計画を練り直すメンターの役割を担うのは、Yコンビネーターやシリコンバレーなど各地のスタートアップエコシステムで名を馳せた起業経験者だ。

このようにスタートアップに火がつく背景には、スタートアップを志す若者の海外移転への願望があるといわれる。主な移転の希望先はシリコンバレーやロンドン、ベルリン。こうした中、トルコ国内でも海外とつながるイベントをと早くに企画されたのがスタートアップ・イスタンブールだ。こちらをモデルに、中東工科大学やイスタンブール工科大学のアクセラレータープログラムの中にもシリコンバレーのメンターを提供するものや、シリコンバレーへの派遣を組み込むプログラムも出始めている。エストニア、オランダ、イギリスなども自国のエコシステムへのトルコの有望な起業家を確保しようと視察を繰り返している。

インサイダー(Insider.)

インサイダー(Insider.)

また、トルコでは、女性起業家のスタートアップへの参入も進む。「インサイダー(Insider.)」はトルコを代表するスタートアップで、現在はシンガポールを本社とし、日本をはじめ世界16カ国にオフィスを構え、日本の自動車メーカーを含む海外の大手企業を中心に包括的なデジタルプラットフォームを提供している。さらに、近年急成長している企業に女性専用フィットネスチェーンを展開する「ビーフィット(B.Fit)」がある。経営者のベドリエ・ヒュリヤ氏は米国の大学で心理学を学んだ後、2006年にトルコで起業し、現在約230のフランチャイズ網と80万人の女性顧客を持つ。同社のジムは女性が参加しやすい独自の工夫を行い、男性と一緒に運動することを躊躇していた女性を顧客に取り組んだ。

関連記事:女性起業家によるスタートアップに勢い(トルコ):JETRO

日本の一部投資家もすでに投資を実施している。日本・トルコ双方で起業経験があり、トルコ版メルカリ「ゼブラモ(Zebramo)」を立ち上げたボラ・サバシュ氏は、日本滞在時代に日本の投資家と組んでトルコの決済代行サービス「イージコ(iyzico)」への投資を決めた。トルコのEコマースへの可能性を感じてのことという。しかし、日本のトルコスタートアップへの投資は始まったばかりだ。同氏は「もともとの物理的距離に加え、双方の英語情報が足りていないため、マッチングがまとまりにくい」と指摘する。ここ数年の政治的リスクが各国の投資家のトルコのスタートアップエコシステムへの国際的関心をそいだ面もある。上記イベントから垣間見えるのはスタートアップの新たなハブとなるポテンシャルを有した国の新たな一面といえないだろうか。

関連記事:テック系、アクセラレーター、女性進出…トルコのスタートアップ事情

お知らせ

【10/29 東京・大手町】Trend Note Camp #19 未知なる黒海周辺スタートアップ〜トルコ、アルメニア、ジョージア、ウクライナ

トルコ、アルメニア、ジョージア、ウクライナと聞くと何を思い浮かべますか?治安情勢、親日家などニュースで見聞きすることや観光スポットとしての印象が強いですが、FinTechやブロックチェーン等テクノロジーへの取組が進みつつあるエリアでもあります。

加えて、ジョージアは世界銀行が毎年発表する「ビジネス環境ランキング」で9位(とくに、事業設立の容易性4位)と、日本の34位を大幅に上回り、トルコは2023年までに世界10位の経済規模を目指し、5Gをはじめとした国産開発を強化。ウクライナやアルメニアは、昨年日本との外交関係25周年を迎え、強みとするITや研究分野での日本企業との連携を望んでいます。

当日は、これらエリアのスタートアップに着目。取り巻く環境や最新テクノロジーを通じて、知られざる魅力に迫ります。

ゲスト:JETRO イスタンブール 経済部長(産業調査員)・廣瀬浩三

主催:株式会社アドライト

JETRO イスタンブール 経済部長(産業調査員) 廣瀬 浩三

ナイジェリアのラゴス、パレスチナ自治区のガザ、インドネシアのジャカルタ。あるスタートアップイベントで入賞した参加者の出身である。日本で話題のシンガポールでも、イスラエルでもない、トルコのイスタンブールのイベント「スタートアップ・イスタンブール」での1シーンだ。

トルコのスタートアップシーンは比較的若い。この10年でインターネット人口が2倍近くになり、携帯電話ユーザーは世界で最も積極的なEコマースやネットバンキング、QRコードスキャンの利用者とも言われる。農家やシリアからの難民、街中の運送トラックの運転手などが使いこなす様からスマートフォンの浸透を感じさせる。こうした急激な変化を背景に、Eコマースを先頭に、FinTech、ヘルスケア部門をはじめ、官民挙げてのスタートアップ支援の波が来ている。

トルコ発のスタートアップで2000年に創業された、オンラインのフードデリバリーサービス「イエメキセペテ(Yemeksepeti)」がドイツのデリバリーヒーローに、2015年、5億8900万ドルで買収されたとのニュースは、若者のスタートアップ熱に火をつけたといわれる。

こうした成功例に対し、スタートアップの層の厚さを形成していくうえで欠かせないテック系スタートアップの成功はまだあまり聞かない。自身も起業経験があり、トルコのスタートアップ情報を追うスタートアップウオッチの社長セルカン・ウンスル氏も「母校であるアンカラの中東工科大学の卒業生の多くは、銀行や防衛産業、通信産業に流れて行ってしまう」と嘆く。しかし、この数年トルコのトップ1・2の理系大学である中東工科大学やイスタンブール工科大学で多数のアクセラレータープログラムが形成されている。テックベンチャーの勢いは火が付きつつあるのだ。

昨年の「スタートアップ・イスタンブール」では、ティム・ドライパーがスピーカーとして登壇した。

昨年の「スタートアップ・イスタンブール」では、ティム・ドライパーがスピーカーとして登壇した。

また、冒頭紹介したスタートアップ・イスタンブールのように、海外との接続でトルコのスタートアップシーンを変えようとの動きも進む。今年で9回目を迎える本イベントは、冒頭に紹介した3国・地域のみならず、世界140ヶ国以上、22,000人の応募者の中から参加する100社を選び抜いたという。さらに、イベントの中で起業家の事業計画を練り直すメンターの役割を担うのは、Yコンビネーターやシリコンバレーなど各地のスタートアップエコシステムで名を馳せた起業経験者だ。

このようにスタートアップに火がつく背景には、スタートアップを志す若者の海外移転への願望があるといわれる。主な移転の希望先はシリコンバレーやロンドン、ベルリン。こうした中、トルコ国内でも海外とつながるイベントをと早くに企画されたのがスタートアップ・イスタンブールだ。こちらをモデルに、中東工科大学やイスタンブール工科大学のアクセラレータープログラムの中にもシリコンバレーのメンターを提供するものや、シリコンバレーへの派遣を組み込むプログラムも出始めている。エストニア、オランダ、イギリスなども自国のエコシステムへのトルコの有望な起業家を確保しようと視察を繰り返している。

インサイダー(Insider.)

インサイダー(Insider.)

また、トルコでは、女性起業家のスタートアップへの参入も進む。「インサイダー(Insider.)」はトルコを代表するスタートアップで、現在はシンガポールを本社とし、日本をはじめ世界16カ国にオフィスを構え、日本の自動車メーカーを含む海外の大手企業を中心に包括的なデジタルプラットフォームを提供している。さらに、近年急成長している企業に女性専用フィットネスチェーンを展開する「ビーフィット(B.Fit)」がある。経営者のベドリエ・ヒュリヤ氏は米国の大学で心理学を学んだ後、2006年にトルコで起業し、現在約230のフランチャイズ網と80万人の女性顧客を持つ。同社のジムは女性が参加しやすい独自の工夫を行い、男性と一緒に運動することを躊躇していた女性を顧客に取り組んだ。

関連記事:女性起業家によるスタートアップに勢い(トルコ):JETRO

日本の一部投資家もすでに投資を実施している。日本・トルコ双方で起業経験があり、トルコ版メルカリ「ゼブラモ(Zebramo)」を立ち上げたボラ・サバシュ氏は、日本滞在時代に日本の投資家と組んでトルコの決済代行サービス「イージコ(iyzico)」への投資を決めた。トルコのEコマースへの可能性を感じてのことという。しかし、日本のトルコスタートアップへの投資は始まったばかりだ。同氏は「もともとの物理的距離に加え、双方の英語情報が足りていないため、マッチングがまとまりにくい」と指摘する。ここ数年の政治的リスクが各国の投資家のトルコのスタートアップエコシステムへの国際的関心をそいだ面もある。上記イベントから垣間見えるのはスタートアップの新たなハブとなるポテンシャルを有した国の新たな一面といえないだろうか。

関連記事:テック系、アクセラレーター、女性進出…トルコのスタートアップ事情

お知らせ

【10/29 東京・大手町】Trend Note Camp #19 未知なる黒海周辺スタートアップ〜トルコ、アルメニア、ジョージア、ウクライナ

トルコ、アルメニア、ジョージア、ウクライナと聞くと何を思い浮かべますか?治安情勢、親日家などニュースで見聞きすることや観光スポットとしての印象が強いですが、FinTechやブロックチェーン等テクノロジーへの取組が進みつつあるエリアでもあります。

加えて、ジョージアは世界銀行が毎年発表する「ビジネス環境ランキング」で9位(とくに、事業設立の容易性4位)と、日本の34位を大幅に上回り、トルコは2023年までに世界10位の経済規模を目指し、5Gをはじめとした国産開発を強化。ウクライナやアルメニアは、昨年日本との外交関係25周年を迎え、強みとするITや研究分野での日本企業との連携を望んでいます。

当日は、これらエリアのスタートアップに着目。取り巻く環境や最新テクノロジーを通じて、知られざる魅力に迫ります。

ゲスト:JETRO イスタンブール 経済部長(産業調査員)・廣瀬浩三

主催:株式会社アドライト