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中堅企業とスタートアップのオープンイノベーションに必要なこと

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2月17日、大阪府主導のアクセラレータープログラム「スタートアップ・イニシャルプログラムOSAKA」によるオープンイベント「中堅企業×スタートアップ 効果的なオープンイノベーションの実践とノウハウ」をオンラインにて開催。ゲストにOS株式会社経営企画部課長・起塚氏、株式会社イースト事業創造部マネージャー・下城氏、原田産業株式会社から鈴木氏、佃氏、加藤氏をお招きし、中堅企業としてオープンイノベーションを実施した経験をお話しいただいた。

スタートアップ・イニシャルプログラムOSAKAとは?

大阪府では、関係機関一丸となってオール大阪によるグローバルなスタートアップエコシステムの構築に取り組んでいる。その一環として、昨年度からスタートアップの成長を支援するため、「スタートアップ・イニシャルプログラムOSAKA(以下、SIO)」を開始した。SIOでは、スタートアップを対象に研修講座やアクセラレータープログラムを実施しており、既存企業(オープンイノベーションパートナー)との連携・協業も促進している。弊社アドライトは株式会社MJEとSIO共同体として本事業の企画運営を務めた。

オープンイノベーションにおける中堅企業の強み

はじめに、弊社代表取締役・木村より、オープンイノベーションに中堅企業が参加する強みに触れた。中堅企業は規模が大きすぎないためスピード感があり、スタートアップとの文化の違いでの戸惑いは少ないという。またファミリービジネスも多く、若手経営者への代替わりのタイミング等で経営方針の大幅な見直しが可能なため、新規事業創出への挑戦の機会につながることを示唆。

中堅企業に限ったことではないが、コロナ禍で経営業態の適応が求められる中、協業は効果的な手段である。今回登壇いただいた3社の事例からも中堅企業がオープンイノベーションに挑戦すべき具体的なポイントが明らかになることを期待していると述べた。

新規事業に興味を持っていた潜在的な社内人材の発見

株式会社イーストは主にショッピングセンター向けにシステム提供や人材派遣を行っている。事業創造部 マネージャー・下城氏は、入社後18年間エンジニアとして働いていたが、3年前新規事業に取り組み始めた。

2020年本プログラム(スタートアップ・イニシャルプログラムOSAKA)への参加をきっかけに、先端テクノロジーを駆使したシステム開発を行っている株式会社アクショムと協業し、商業施設向けAIインフォメーションbootiaを開発。

コロナ禍で非接触化が求められ、提供するサービスのDX化を目指したかったが、自前の技術だけでは難しいため、アクショムのAIやDXに関する技術を必要としていた。bootiaの開発までイースト側が商品企画や顧客の需要調査を担当し、アクショム側がシステム内の技術を主に担当したという。

驚くべきは、協業から顧客への導入までに約半年でこぎつけたスピード感である。ほとんどがリモートでのやり取りとなったが、その分ミーティングのハードルが下がり、密な連携がとれたという。

下城氏は新規事業に取り組んだ3年間を振り返り、bootia開発を成功させた3つの要因を挙げた。1つ目は、社員に数多くの機会に挑戦させた会社の「覚悟」。はじめの2年間は思うような成果を出せなかったが、それでも次の挑戦を会社が認めてくれたからこそbootia開発が成功したという。2つ目は、オープンイノベーション支援企業や支援プログラムによる講座、書籍、外部メンターから、社内起業・協業の方法を「学習」できた点。3つ目は「同じ未来を目指せるか」という点だ。スタートアップと自社の方向性が一致しない場合には協業自体が失敗することが多く、早い段階での方向性の一致が鍵であった。

オープンイノベーションを経て、成果物だけでなく社内の変化が起きて始めているという。新規事業に興味を持つ社員がしっかりと現れるようになったというのだ。それまではやり方が分からず行動に移せていなかったケースが多く、会社も社員の意欲を把握できていなかった。ところが自身を中心に完成したbootiaをきっかけに、興味を示す社員の存在が明確となり、彼らを巻き込んだ今後の展開を期待しているとのことだ。

受動的な姿勢を見直し、先を見据えた新しい価値の提供を達成するツールとしての協業

OS株式会社はエンタメサービス事業、不動産業を中心に空間を生かしてサービスを提供する関西地区に根差した企業である。

経営企画部課長・起塚氏によると、「地域に暮らす人々の幸せや豊かな生活文化と未来づくり」と企業理念にあるように、時代に即した先を見据えた新しい価値の提供を達成したいというビジョンから、ハコモノ産業にありがちな「待ちの姿勢」を改め、協業に取り組むことを決めたという。

実際に、オープンイノベーションでは従来の自前主義の転換を徹底し、2つの実例を挙げた。株式会社スペースエンジンによるスペースと商品メーカーのマッチングシステム導入だ。普段は上映していないオリジナル作品や地域と結びつきの強い作品を上映することが可能になり、他館との差別化やニッチな作品のファン層の取り込みができたという。

もう一つは、スペースのデザインを強みに持つ株式会社Replaceとの協業だ。屋台形態の飲食企業とOSが保有する不動産の有休スペースを組み合わせ、賑わいのあるスペースを作った。本来の活用法にとらわれない新たな役割を持つスペースを作りだし、企業理念の達成へ近づいている。

現在取り組んでいる協業は、実証実験の段階まで来ているが、「これからの2歩目、3歩目の踏み出し方が重要です」と、気を抜かずに実装へと向かう頼もしい言葉で締めくくられた。

従来の物売りから脱却するためのオープンイノベーション

原田産業株式会社は中堅老舗の総合商社。B2Bのネットワークに強く、ニッチ事業を見つけることに主眼を置いてきた。一方、モノによって課題を解決してきた点が弱みでもあると、Business Co-Creation Team General Manager・鈴木氏は語る。従来の物売りから脱却し、デジタル化、サービス化を進めるには、外部のアイデアや技術の必要性を感じ、オープンイノベーションに取り組み始めたという。

昨年1年間、自社ブランドで立ち上げたアクセラレータープログラムを実施した。既存領域では実際の協業を、新規領域では領域内の情報収集や参入機会の検討を、また何よりもスタートアップとの協業の感覚を掴んでいこうという目標のもと開始した。結果、多様な領域から国内外167社応募があり、9社採択したという。イーストやOS同様、ほぼ全てがオンラインでの活動となったが、うち4社との協業の継続が決定した。他の5社とも様々な点を工夫しつつ、今後の協業を前向きに検討しているという。

オープンイノベーションを通して得られたこととして以下を挙げた。

  • 新規市場の情報や新規市場に進出するパートナー候補
  • SaaSなどの新しい概念
  • オープンイノベーションへの理解、深く考える機会
  • 社内への浸透(ゆっくり)
  • 新しいネットワーク(行政、ベンチャー、他のアクセラレータープログラム、他の事業会社との新事業担当者)
  • 既存市場の課題
  • チームでの新ビジネス研究の機会

ゆっくりではあるが、少しずつ社内外の変化を感じているからこそ、2期目への構想も具体的だ。「今後は他の事業会社との横の連携を新しく作ったり、地元の起業経験者からの経験談を積極的に取り込んだり、企業志向の強い学生を巻き込んだりしていきたいです」と熱い思いで語った。

協業相手に求めること

後半は3社がパネラー、弊社木村がモデレートのもとパネルディスカッションを実施。オープンイノベーションに対する各企業のスタイルが見えてきた。

オープンイノベーションに挑戦したきっかけを聞かれると、「新規事業の芽が出ず苦悩している中、アドライト木村さんのオープンイノベーションセミナーに参加し、そこでお会いした大阪府の方からSIOの紹介を受けたことがきっかけ」(イースト 下城氏)、「映画業界という成熟した分野での成長戦略を検討するも、自前では限界があると感じたため」(OS 起塚氏)、「ファミリー事業の代替わりでの気づきという機会によることでした。モノ100%で経営してきたことや、自社内の事業毎の縦割りのシステムに社長が危機感を持っていたことがきっかけ」(原田産業 佃氏)と三者三様だった。

スタートアップの選定も各社で異なった。

「自社が求めているものと相手の強みの技術面での合致に加え、相手側の思いや人間的な相性も重要です。新規事業立ち上げの中で辛い場面を一緒に乗り越える仲間になるので、見逃せない観点でした」(イースト 下城氏)、「自社の既存事業を軸とした親和性を重視しました。その上で、自社のメリットはもちろん、自社の限られた資産を他社がメリットと感じるかどうかも大切にしました」(OS 起塚氏)、「自社にないサービス化、SaaSのノウハウを持っている企業を基準に選んだが、相手チームとの人間的な相性も重要」(原田産業 加藤氏)。

原田産業はさらに自社のアクセラレータプログラムにおいて、書類選考後、30分から1時間のゆっくりとした面接を各候補企業と行ったという。サポート企業等の第三者も入れて客観的な視点も取り入れつつ、協業先の目指す方向やチームの雰囲気を確認できたという。

オープンイノベーションのよりよい進め方

では実際、どのようにスタートアップと協業を進めたのだろうか。イースト・下城氏は、アクショムとの協業時、社内の会議にかける前から頻繁に話し合いを重ね、プロトタイプも実際に用意してもらうなどして社内へこまめに進捗報告。その結果、稟議にかける以前にスタートアップ側の実力を社内に浸透させることができ、上層部は協業を快諾。その後6ヶ月間で成果物を顧客に届けるというスピード感につながったという。

「オープンイノベーションの可能性を示すことができ、社員にも変化が見られてきましたが、全体への波及にはまだまだ時間がかかります」と下城氏。今後事業部の設置等体制を整えることで、さらに大きなムーブメントになっていくことを期待しているとした。

OS 起塚氏は自社の課題感をスタートアップに認識してもらい、その課題に対して互いが提供できることを共有するところから開始。もちろんそれでスムーズに進む場合もあれば、両者できる範囲が重なり合わず見送る場合も。社内にも自社の課題やビジョンを明確にし、オープンイノベーションが有効な手段であることを示して社内承認を進めていったという。

最終的な担当部署の理解・協力を得るまで至っていない部分は課題としつつ、「企業が生き残るうえで新しいことに取り組むことの意義や重要性を社内に発信することで、社内整備の面や社長からの呼びかけで少しずつ変わっている面もあります」とコメント。工夫次第で大手企業とも繋がることができ、ニーズが自社にあることを認識することができたことで、自己肯定感が上がったと感じているという。

原田産業 佃氏は、スタートアップを従来の取引先としてではなく、「一緒に考え、力を併せて共創していくパートナーとして認識」というマインドセットの共有を社内へ徹底したという。また9つのプロジェクトを同時に進めていたため、担当者同士で進捗状況を共有。フィジカルなミーティングができない分、多様なメンバー構成でのミーティングも設けたことでスタートアップ同士での交流が生まれたり等も。

「スタートアップと日々悩みながら地道に取り組んでいる中、担当者達は事業の新しい進め方や感覚を掴めたように思います」と加藤氏。これまでの事業開発や事業投資のやり方だけではなく、様々なステークホルダーと一緒に事業を作り上げていくというやり方がが経営陣にも伝わり、社内にもじわじわと根付いていると感じているという。

イベントの最後には、参加者、ゲストスピーカー、大阪府、MJE、アドライトによる名刺交換会がブレイクアウトルームに分かれて実施された。中堅企業だからこそのスピード感や、オープンイノベーションによる社内での少しずつの変化が、実際の経験談により強く示された。当イベントをきっかけに、より多くの中堅企業がオープンイノベーションへの挑戦を前向きに検討するようになり、スタートアップもまた中堅企業との協業の魅力に気づいていただけたのではないだろうか。

起業家とパートナーが出会い、新しいビジネスが創出される場とは?

addlight journal 編集部  addlight journal 編集部

去る8月28日、東京21cクラブ(東京・丸の内)にて株式会社アドライトは「Mirai Salon #13 – 人が集まり事業が生まれる仕組み・仕掛け」を開催した。

目まぐるしく変化する市場に適応していくには、新しいアイデアや視点、技術が必要なことは自明であり、大手企業を中心にアクセラレータープログラム等のオープンイノベーションを取り入れるようになった。またCVCのようにスタートアップへ投資を行うことはもとより、ビジネスにおける出会いを促進する目的でコワーキングスペースやシェアオフィスを設けるなど、環境整備をセットにして推進するケースも増えつつある。

三菱地所株式会社 街ブランド推進部 東京ビジネス開発支援室 シニアパートナー・旦部聡志氏

三菱地所株式会社 街ブランド推進部 東京ビジネス開発支援室 シニアパートナー・旦部聡志氏

当イベントの会場である「東京21cクラブ」は、三菱地所が手がける施設のひとつであり、新たなビジネスを創造しよう、成長させようというスタートアップ、国内外の成長企業や大手企業を中心としたオープンイノベーションコミュニティという形で、会員制ビジネスクラブとして運営されている。

三菱地所は、最先端のスタートアップ企業の誘致を継続する一方、世界有数の企業集積を活かし、国内大手企業との連携機会の演出、各種実証実験の取組み等、丸の内エリアならではのオープンイノベーションフィールド構築を推進しているとのことだ。

今回は、この世界有数のビジネスエリア丸の内に立地する事業成長の拠点で、多種多様なキャリアを持つ4人のスピーカーが事業創出の仕組み・仕掛けについて語ってくれた。

「ワタシから始めるオープンイノベーション」とは

トップバッターは、内閣府 知的財産戦略推進事務局 バリューデザイナー・宇津木達郎氏。宇津木氏は、日本が目指すべき価値をデザインし、日本企業の産業競争力を強化するための政策を立案している。彼は“オープンイノベーションの鍵は個人の内発的動機の発露にある”とする政府の知的財産戦略本部の報告書「ワタシから始めるオープンイノベーション」(価値共創タスクフォース報告書)の起草者でもある。

講演の中で彼は、この価値共創タスクフォース報告書をもとに、冒頭では価値観の「制約」による社会発展から価値観の「解放」による社会発展モデルの変化の必要性を説いた。

要約すると、個人が組織・社会・国家の器官として均質な価値観の基に機能することで経済的価値を追求していたのが「20世紀型モデル」であり、個人の多様な価値観が社会に解放され、組織・社会・国家をその実現器官として活用することで多様な価値を実現するのが「21世紀型モデル」ということになる。

このモデルは目指すべきオープンイノベーションの姿と一致するという。オープンイノベーションの方法論が確立された昨今、教科書通りのプロセスを踏むことで組織が環境を整えることはできる。しかし宇津木氏は、個人の動機やマインドが等閑視されたままでは、経営層、組織、個人が連携せず方法論だけが上滑りし、やらされ型で形式だけの「エセオープンイノベーション」になりがちであると警鐘を鳴らす。

内閣府 知的財産戦略推進事務局 バリューデザイナー・宇津木達郎氏

内閣府 知的財産戦略推進事務局 バリューデザイナー・宇津木達郎氏

「実質的なオープンイノベーションとは、内発的動機(ワタシ)を起点として、画一的でない価値観を有する者同士が大きな目的を共有し、互いに資源を持ち寄って社会から共感を得られる革新的な価値の創造・提供を通じて行う、社会変革を伴う活動です」

宇津木氏は、社会にインパクトをもたらすオープンイノベーションにするには、個人の内発的動機に基づく主体的な取組を創発するよう組織を変革し、そこに関わる人のマインドセットを変える必要があると強調した。

商社が興すイノベーション創出とは

続いては、住友商事株式会社 デジタル事業本部 新事業投資部 部長代理・蓮村俊彰氏。中国や米国で展開されている、IoT、ロボティクス等のハードウェア関連スタートアップに特化したアクセラレータープログラム「HAX」の日本版「HAX Tokyo」を、HAXを運営するベンチャーキャピタルSOSV社や住友商事グループのITベンダーであるSCSK社とともに立ち上げた。

FINOLAB等のFinTech領域、クラウドファンディグを活用した事業の開発、事業構想コンサルとして多種多様なプロジェクトに携わってきた蓮村氏は、「HAX Tokyo」の立ち上げ・運営に参画しており、なぜ海外のアクセラレーターを“輸入”したのか語ってくれた。

「住友商事は長い間CVCをやってきましたが、更にスタートアップとのオープンイノベーションを加速させる新しいことをやろうという方向性がありました。今まで以上に、スタートアップの側から来てくれる仕組みを考えたというのが始まりです」

本仕組みがハードウェア領域に注力している点について「総合商社はメーカーとともに育ってきた、育ててもらった存在とも言えるので、その領域でイノベーションを興したいという意識はあります。近年日本から新たな世界的メーカーが生まれていないという実感がある中で、HAXと出会いました」と説明する。

HAXが日本を選んだ理由については、母体であるSOSVがもともと日本人の性質、技術力、ポテンシャルを評価していたという背景があったという。「HAX」において日本からの応募も採択も少なかったことが「逆説的にそんなはずはない、もっとできるはず、一緒にやっていこう」というポジティブな方向に向かったようだ。

住友商事株式会社 デジタル事業本部 新事業投資部 部長代理・蓮村俊彰氏

住友商事株式会社 デジタル事業本部 新事業投資部 部長代理・蓮村俊彰氏

また人が集まり事業が生まれる仕掛けとして、住友商事は組織や産業の垣根を超えたさまざまなカラーを持つプレイヤーが出会い、交流し、新しい価値を生み出していくオープンイノベーションラボ「MIRAI LAB PALETTE」(東京・大手町)を手がけている。

招待制コワーキングスペース、インスピレーションを刺激するプロジェクトルーム、共創のハブとなるオフィス&テックラボ、スタートアップ支援アクセラレーター、ショーケース、映像制作スタジオと、コンセプチュアルかつ充実した設備・施設である。

総合商社が手がけるオープンイノベーションからどんな出会いがあり、新しいビジネスが生まれるのか注目したいところだ。

三菱地所におけるオープンイノベーションの取り組み

大手企業におけるオープンイノベーションというテーマで登壇したのは、三菱地所株式会社 新事業創造部兼DX推進部 主事・那須井俊之氏。主な業務は、スタートアップ、大手企業との提携・協業や新事業立上げ、既存事業のデジタル技術を活用した変革だ。かつて新築マンションを分譲するだけのビジネスモデルではもったいないと思い、「買い取り再販事業」を立ち上げた経験ももつ。

三菱地所株式会社 新事業創造部兼DX推進部 主事・那須井俊之氏

三菱地所株式会社 新事業創造部兼DX推進部 主事・那須井俊之氏

那須井氏は、冒頭で不動産業界が置かれている状況に触れた。

「三菱地所は国内の総合不動産業界においては時価総額トップクラスではありますが、WeWorkやAirbnbといった新興不動産テック企業やGAFAなどが参入してきている中で、危機感を覚えますし、変革していかなければならないと感じています」

不動産という柱を生かした取り組みとして同社は、先述したオープンイノベーションコミュニティやシェアオフィス等の運営はもとより、丸の内エリアを先端技術・テクノロジーを活用した実証実験の場として提供している。大手企業とスタートアップ・官・学が連携して社会課題を解決することで、グローバルなマーケットに向けたイノベーションの創出を支援している。

また那須井氏が所属する新事業創造部は、不動産テック、AI/ロボティクス、プラットフォーム、インフラ/PPP/PFI、健康/食・農業/バイオ、観光/インバウンド、再生可能エネルギーという7つの領域に注力し、VC各社と連携しながら100億円を超える出資を行っているという。

出資先との協業に関しては、場の提供のみならず、オンデマンドデリバリー、警備ロボット、収納ビジネス、シェアリングエコノミー、不動産取引IT化と幅広く、新事業においてもユニークで、20代の女性社員がCEOを務めるマインドフルネス・メディテーション事業や高付加価値農業事業などがある。

既存のビジネスモデルにとらわれず、業界最大手こそが変革者とならなければならない、という気概を感じさせるプレゼンテーションだった。

スタートアップ目線でのオープンイノベーション

プレゼンテーション最後は、エルピクセル株式会社 代表取締役・島原佑基氏。同社は独自のアルゴリズム、最先端のAIを活用した生物画像の解析技術等を活用し、大手企業とのオープンイノベーションを実現してきたが、企業からの出資、医療機関との共同研究、行政へのアプローチ等の実績を挙げる中で以下の気づきを得たという。

エルピクセル株式会社 代表取締役・島原佑基氏

エルピクセル株式会社 代表取締役・島原佑基氏

・大きな組織も、結局ひとりの「人」が動かす
・ビジョンに共感できる「人」が重要
・評論家が評価しやすいような「型」だけには意味がない

島原氏は「スタートアップの立場で大手企業を組み先として考えるとき、まず相手が同じ目線で見てくれているかが大切です。それから会社に言わされているのではなく、個人としてやりたいと言ってくれるか、そしてワクワクしながら話し合えるかどうか。」と話す。

島原氏は以前、東京大学内のインキュベーションオフィスを利用していた。心地良さを感じていたものの、パートナーの来訪や採用周りで使い勝手に難があり、商談の数も少なかったという。そこでSAP、三菱地所が共同で手がけた大手町にあるビジネス・イノベーション・スペース「Inspired.Lab」に移ったというエピソードを語った。

「理想的な展開で繋がり、プロジェクトが生まれる、ということは稀ではありますが、ナレッジの共有・周囲からの刺激があるだけでもバリューを感じますし、ミートアップイベントなどソフト面のサポートがあることは大きいです」

パネルディスカッション

講演後、登壇者4名がパネラーとなり、アドライト代表・木村がモデレーターのもと、ディスカッションが行われた。本稿では、イベントの主題である「人が集まる事業が生まれる」にフォーカスしたQAを紹介したい。

ひとつめは、インキュベーションオフィス、コワーキングスペースという設備面だけでなく、ソフト面ではどんなことをすると良いか、人と人をどう繋げているのか、という質問である。

那須井氏は、「自然に会話が生まれる、気軽に触れ合うことができる場づくり、様々なイベントを企画することでしょうか。他社さんとの比較の中で、『なぜ三菱地所は同様の施設を全国展開しないのか』とよく聞かれます。それはイベント運営やコミュニティ形成の座組みをしっかりと行いたいと考えているからです」と回答した。

一方、入居者の立場で、島原氏は享受しているメリットについて語った。

「シェアオフィスは世の中に沢山あります。自前でつくってもいいと思ったこともありましたが、Inspired.Labのソフトの面に魅力を感じて入居しました。井の中の蛙にならない環境があるのはモチベーションに繋がりますし、入居企業は恵まれていると思います。」

さらに、蓮村氏はオフラインでやる意味について強調した。

「コワーキングスペースのコミュニティマネージャーのような立ち位置でその界隈のことをよく知っている人がいることが大切なんです。採用でもビジネスパートナー探しでもSNSでもある程度はマッチングできますけれど、その人をハブにすればリファラルで話が進みやすいです。」

もうひとつは、働き方改革、リモートワークが進む中、いろんな人が集まって仕事をする価値は何かという質問があった。これに対する蓮村氏の回答が興味深かった。曰く、仕事には「レイバー」「ワーカー」「プレイヤー」「クリエイター」という4つの働き方があり、この中で働き方改革の対象となるのは、レイバー(工場などで働く人)とワーカー(ホワイトカラー)だという。

一方、プレイヤー(スポーツ選手など)、クリエイター(アーティスト)は、管理されているわけではない。組織には所属しているけれど、技術を磨き、個人として勝負する人たちである。

「オープンイノベーションにあてはめて考えたとき、大手企業の人がやらなきゃいけないのは、自分の顔と名前を覚えてもらい、この人は何をしたいのかをインプットしてもらうことだと思っています。住友商事の人ではなく、『蓮村』として認識されることがスタートライン。Face to Faceに勝るインターフェイスはないです」(蓮村氏)

宇津木氏は蓮村氏の話をふまえ、独特の表現で持論を語る。

「私はレイバー、ワーカーという括りがなくなればいいと思っています。全員がプレイヤーになり、クリエイターになり、自分が人生でやりたいことをやれればいい。会社や組織は器として場を提供すればいい。むしろ、働き方改革という言葉が存在しない社会を目指したいです」

人の集中力が低い時はオフィスに滞在している時だと言う。それなら作業をしに出勤する必要はなく、出会うために仕事をしにいき、作業するために家に帰ればいい。「“仕事が終わって新橋に飲みにいく”のではなく、新橋的なところに仕事をしにいけばいい」という発想は、斬新なようでその実、本質的である。

人は視覚、聴覚以外のものを総動員して体験しているわけで、目の前で展開されているこのトークそのものが、オンラインでは実現されない種類のものであることを証明している、そんなディスカッションだった。

 

取材を終えて

当イベントのタイトルにある「人が集まり事業が生まれる」という部分でいうと、誰が、どこに、どのようにして集まるかが重要であると感じた。

人と場所はセットであり、そこに人々が集まるのには理由がある。宇津木氏が指摘していたように、確かにオープンイノベーションという言葉ばかりが先行して「エセオープンイノベーション」が流行ってしまうきらいがあるものの、適切なマッチングを行える場や仕組みがあれば、形にある確度は上がるだろう。

これから場毎にどんなビジネスが生まれるのか期待せずにはいられない。

モノづくり産業×テック系スタートアップ融合の可能性:Aichi Open innovation Accelerator事前説明会イベント報告

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去る8月26日、Inspired.LabにてAichi Open innovation Acceleratorの事前説明会「テクノロジー・スタートアップ共創最前線」が行われた。

昨今の自動車産業におけるCASE(Connected、Autonomous、Shared&Service、Electric)やMaaS(Mobility as a Service)の進展、データ活用を付加価値の源泉とする「Society5.0」の到来といった構造的変化が、愛知県の産業の姿と競争力を大きく変えると予想されている。

それはつまり、愛知県内の企業が培ってきたモノづくり文化や技術を活かしつつ、新しいアイデア・視点をもってイノベーションを起こし、産業の新陳代謝を活発化することを求められているとも言い換えられる。

そこで、愛知県が新しい価値を創造する主体として、IoTやAI 等の技術を有するスタートアップを県内外から誘引し、短期集中支援や資金獲得・事業提携等につなげるための場を提供する、アクセラレータプログラムの始動に至った。

「伝統×スタートアップ」への期待

冒頭では、主催者である愛知県 経済産業局 次世代産業室 室長補佐・山田英明氏より、愛知県の概要と当プログラムの意義について説明された。

愛知県は周知のように伝統的に製造業が盛んで、特に自動車産業、航空宇宙産業、ロボット産業に力を入れており、製造品出荷額等は約47兆円、41年連続で日本一である。

しかし、山田氏は「愛知県のものづくり産業は安泰かといえば、決してそうではないと考えます」と語る。

課題と危機感を覚える要素は大きく3つ。アメリカの「GAFA」、中国の「BATIS」を筆頭とする海外企業の進出によるグローバル競争時代への対応、もうひとつは自動車産業が100年に一度の大変革を迎えていること、そして3つめは、愛知県が保守的で、安定した雇用を担保している分、ベンチャー不毛の地となっていることだという。

愛知県としては、これまで培ってきた伝統産業にスタートアップの技術やアイデアを掛け合わせ、新たなイノベーションを起こしたいと考えており、当プログラムにおいて大きく3つの目標を掲げている。

1、スタートアップ活躍の機運の醸成
2、県内スタートアップの成功モデル創出
3、オープンイノベーションの推進

山田氏は、説明会の参加者に向かって「ぜひとも愛知県にお越しいただき、保守的な地域でもスタートアップが活躍できるようなコミュニティを作っていただいたり、県内の既存産業とコラボレーションしていただきたい」と投げかけ、締めくくった。

愛知県外のスタートアップのエントリー歓迎「Aichi Open innovation Accelerator」

Aichi Open innovation Acceleratorの内容について補足すると、対象は創業5年未満の企業ないしは支援対象となる事業開始5年未満の愛知県内外のスタートアップ。

1、 愛知県内に本社又は拠点を有する企業
2、 愛知県内企業との連携を検討する又は愛知県の地域課題解決につながるビジネスを検討するスタートアップ企業 (年間売上概ね10億円以下)

のいずれかを満たし、IoTやAIといった革新的な技術を持ち、新たなビジネスモデルの創出や技術革新を目指した事業の実施を予定していることが条件だ。

連続起業家や投資家、弁護士らによる充実したメンター陣による短期集中支援のほか、他のスタートアップ企業や既存産業・金融機関・支援機関等とのネットワーキング、モノづくり企業等とのマッチング、資金獲得の機会と場が約5か月間提供され、審査を経て5〜10社程度に絞り込まれるという。

このプログラムを通して、新たなビジネスモデルの創出や技術革新の成功モデルを生み出し、「愛知県発スタートアップ」の土壌を醸成することを目指す。

レガシー領域でのビジネス展開に必要な4つのステップ

仮に製造業のようなレガシー領域でスタートアップがビジネスを生み出すとしたら、どのような戦略や考えが必要なのか。弁護士×IT企業戦略部門というバックグラウンドを武器にスタートアップを支援している株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ キャピタリスト 野本遼平氏が、「スタートアップのためのレガシー×TECHの戦い方」というタイトルで講演した。

いわゆるレガシーにはポジ、ネガ両方の側面があり、「先人の遺産」「伝統」といったポジティブな側面を活かしつつ、「時代遅れ」「アナログ」といったネガティブな側面を解消するかがポイントになる。野本氏は、レガシー領域の特徴を「洗練された業務フローやリアルアセットなど蓄積された資産がある一方で、アナログ・フラグメント化・多重階層による非効率性があるのが特徴です」と語る。

さらに、既存資産を活かしつつ、アナログの非効率性やアセット活用の効率性を高めるソリューションが求められている。「そこにビジネスチャンスがあり、スタートアップが活躍する余地があります」という野本氏は、レガシー領域でビジネスを展開するための4つのステップを披露した。

【STEP1】全体構想/戦略
「確立された伝統」に切り込めるように、産業・業界の強烈なペインをとらえると同時に、全体のプロセスを俯瞰する。

【STEP2】プロダクト/ソリューション
リソース集中投下および顧客からの信頼の観点から、最初は特定の課題にフォーカスしたプロダクトをローンチ。

【STEP3】セールス/オンボーディング
プロダクト・ソリューション利用にあたって、精神的・情緒的なフリクションや、物理的・工数的フリクションを可能な限り下げる。

【STEP4】グロース
レガシーな領域には長年かけて構築された公式・非公式のネットワークがあることが多い。そのネットワークに乗れるか否かがポイント。

最後に、野本氏はレガシー領域で戦うスタートアップのための五箇条を示してくれた。

1、既存のアセット・ノウハウ・ネットワークを活かす
2、IT/テクノロジーにより、プロセスand/orアセット活用を効率化
3、深く穴をあけて、足場・独自アセットを蓄積し、領域を広げていく
4、泥臭く、既存アセットとITとの摩擦をなくしていく
5、業界人と同等以上の理解と熱量を持つ

愛知県でのビジネスの可能性

野本氏に加え、株式会社エクサウィザーズ 社長室フェロー/株式会社Job-Hub エグゼクティブ・フェロー 粟生万琴氏と、株式会社MTG Ventures 代表取締役 藤田豪氏を迎え、パネルディスカッションが行われた。

粟生氏はクラウドソーシングサービス「JOB HUB」担当役員、そして女性初の取締役に就任し、AIベンチャー株式会社エクサインテリジェンス(現エクサウィザーズ)を設立、取締役COOに就任。現在、廃校になった小学校をリノベーションし、今年10月28日オープン予定の「なごのキャンパス」のプロデューサー兼メンターとしても活躍している。

藤田氏は、日本合同ファイナンス株式会社(現:株式会社ジャフコ)に入社し、スタートアップからレーターステージまでの投資、中部支社長、投資先各社での取締役就任、ファンドの募集などを手掛け、自動運転、AI、保育IoTなどの分野の企業への投資を実施。現在、5000人以上の経営者との出会いによって培われた視点をベースに、BEAUTY-TECH、WELLNESS-TECH、FOOD-TECH、SPORTS-TECHの投資に臨んでいる。

名古屋のスタートップといえばこの人、という御二方は、最近の名古屋のスタートアップ事情に変化を感じているという。

「優秀な学生さんが起業しようとする、もしくは実際に起業するケースが増えました。VCから調達する前にエンジェルラウンドができるようになったり、県内の名だたる企業の投資部門が集まり、CVCの先のエコシステムについて考えるようになりました。今後は製造業で鍛えられたアンダー30のビジネスパーソンがスタートアップとコラボする事例などが出てくると面白いと思います」(藤田)

「周回遅れ、不毛の地と言われてきましたが、ようやく来たな、という感じ。ものづくり産業と起業家をつなぎ、新たな事業を創造する『なごのキャンパス』もそのひとつの現れです」(粟生)

また、野本氏も愛知県のチャンス、可能性についてポジティブに語った。

「製造業の強さを活かさない手はないですよね。一方で、ロボティクスとかAIとか手段にこだわらず、エンドユーザーに何を届けているか、というところから逆算して、何を加えていけばいいのかという観点で戦っていくと良いのではと思っています。すでに持っている技術や人材に、スタートアップが持つコンシューマーの目線を注入して、新しいコラボが生まれるといいなと期待しています」

参加者から「愛知県は閉鎖的なイメージがある」と声が上がると、「単純に閉鎖的というのではないと思います。お付き合いが始まるまでは長いけれど、絶対見捨てない、パートナーを大切にする、ものづくりはみんなでやる、そういった家族感があります」と粟生氏。野本氏の講演でも触れられていたが、文化・風習に合わせることは重要だという。その分、仲間意識が強く、責任者が変わったタイミングで機械的にパートナーも切られるといった憂き目にはあいにくいようだ。

「スタートアップが参入するとアツい分野は?」という質問に対しては、トヨタ自動車がMaaS戦略に取り組んでいることもあり、「すべてのサービスはクルマに乗るわけで、インフラが整っていく地域でできることは大きい」(藤田)、「ビークルの中で何をするか、その意味では不動産価値も変わっていく」(野本)というように、MaaSから波及して盛り上がっていくことに期待が寄せられた。

締めの言葉として各人からのメッセージを頂戴したところ、ロケーションハブである名古屋という街がいかに魅力的か、ビジネスとして底力・伸び代があるかが語られ、説明会参加者の表情を見る限り、少なからず愛知県への精神的な距離が縮まったことが感じられた。

取材を終えて

愛知県といえば「自動車王国」=トヨタグループというイメージが強いが、製造業などレガシーな領域こそテクノロジーを生かせる部分があることがよくわかった。品川―名古屋間を約40分でつなぐ2027年開業予定のリニア中央新幹線により距離が縮まることでハードルが下がり、新たな交流が生まれる部分もあるだろう。

名古屋駅近くにオープンする「なごのキャンパス」は、ベンチャー産業の中心地として期待されるが、どんなスタートアップが入居し、新しいビジネス、サービスが生まれるのか楽しみだ。

オープンイノベーションは当然至極なフランス、ドイツの取り組み

addlight journal 編集部  addlight journal 編集部

6月25日、株式会社アドライト主催のもと、海外のオープンイノベーションやトレンドをキャッチアップするイベント「Trend Note Camp 15 ヨーロッパに見る官民イノベーション共創〜フランス、ドイツほか〜」をFINOLABにて行った。

本イベントでは、ゲストスピーカーとしてFutuRocket株式会社 代表取締役・美谷広海氏、World Innovations Forum Japan AMBASSADOR(日本代表)・Christian Schmitz氏が登壇。日本よりオープンイノベーションが先行しているドイツやフランスを中心に触れた。

フランスこそがオープンイノベーションのホットスポット

オープンイノベーションやスタートアップ分野では、中国・深センやアメリカ・シリコンバレーが現在その名を轟かせている。しかし、「フランスこそがこれからのホットスポット」と美谷氏は言う。オープンイノベーションの祭典「Viva Technology」を例に解説した。

Viva Technologyはフランスの大手企業とイベントがコラボレーションしてできたもので、各社が100社前後ずつピックアップするスタートアップのブースで構成される。出展するスタートアップは、各大手企業が課題を出し、解決策を提示した先を選定のうえ決まる。

こうした形をとる背景に大きく2つの背景があると美谷氏。一つ目めは「雇用形態」。フランスは雇用形態が日本と似ている。企業側は社員を辞めさせることも少ない分、採用も少ない。さらに、企業はコストの高いR&Dを抱える代わりに足りないものを補う業務提携やスタートアップへの小額投資が多く、これもスタートアップがフランスで活発化する原因だと氏は語った。

加えて、フランスの手厚い福利厚生も起因しているという。大手企業から独立し、起業後失敗しても元の大企業に戻れる仕組みや、起業中の失業保険が下りるなどのセーフティーネットも重要な役割を果たしていると分析した。

FutuRocket株式会社 代表取締役・美谷広海氏

FutuRocket株式会社 代表取締役・美谷広海氏

もう一つは「アフリカ市場への期待」。フランスはかつての植民地時代の背景から西アフリカへの影響力が大きく、次の新興国市場へのゲートウェイとしての注目が高まっている。企業側としても「既存の枠組みのない状態」から物事が始められるため、新しいものを作り出しやすいという背景がある。インフラも整っていない今がチャンスとばかりに、アフリカ市場を含めたフランス市場に期待が高まっていると見ている。

講演中にはニッチな国としてアンドラにも注目が集まっていると美谷氏。人口わずか7.5万人のアンドラは、EU加入国でないことを理由に、ブロックチェーンや仮想通貨まわりの取り組みが盛んだという。毎週月曜日にブロックチェーンのイベントが開かれ、100人以上のブロックチェーンやコイン発行者、マイニング、投資家などが集まるという。

主要産業を軸に、地方もイノベーションに積極的なドイツ

全世界で毎年80万社のスタートアップが起業するも、うち9割は初年度で失敗している実態を受け、「オープンイノベーションで多くのコラボレーションパートナーをつくり、マーケットからのフィードバックを早めに得ることが大事」と説くChristian氏は、EUとドイツを中心に触れた。

EUはポテンシャルがあるのについていけておらず、ベンチャーキャピタル投資も不足している側面があることを受け、EUにとどまらず、世界と協力しながらやっていこうという、「オープンイノベーション 」「オープンサイエンス」「オープントゥザワールド」が叫ばれているという。

たとえば、オープンイノベーション政策支援として、2014年、産業や大学、R&Dセンター、エンジェル投資家、個人事業主、クラウドソーシングを結びつける「OISPG(The Open Innovation Strategy and Policy Group)」を例として挙げた。市民をイノベーションプロセスに直接関与させることで実生活で迅速な起業家精神を育成し、雇用の創出や持続可能な経済、社会的成長を促進するというもので、ヨーロッパ全体で各国や組織が協力体制のもとイノベーションを実現する動きがとられているという。

一方、ドイツは政府、16州それぞれ予算を持ち、研究機関や発明、オープンイノベーションに取り組んでいる。各州にそれぞれ強い産業が点在しているため、地域単位でイノベーションが起こりやすい環境なのが特徴だ。なかでも機械やエンジニアリングに力を入れており、ドイツの主要産業のひとつでもある自動車産業を筆頭に、ホテルやタクシーなどプラットフォームがディスラプションしていることへの対抗策が求められているという。

ドイツの民間の支援状況を見ると、ドイツテレコムは17億ユーロ、SIEMENSは8億ユーロをスタートアップに投資し、SAPは2,700社のスタートアップに起業支援など続く。大手企業はベンチャーキャピタルやファンド経由投資、アクセラレータ経由でスタートアップを獲得し、中小企業はプラットフォーム経由でアイデアを募集し直接投資するケースが多いとのこと。

政府としてはハイテクストラテジーとアカテックストラテジーを行っている。前者は16州のなかにクラスターを作り、研究機関、大学、民間企業が公的機関に依頼し、オープンイノベーションに取り組むというもの。後者は民間と企業連携の全体的なドイツのイノベーションを支援するというものだ。

World Innovations Forum Japan AMBASSADOR(日本代表)・Christian Schmitz氏

World Innovations Forum Japan AMBASSADOR(日本代表)・Christian Schmitz氏

ドイツ発「Industrie 4.0」は、シリコンバレーにドイツはどう対応していくか?という観点から様々な社会・製造業に革命を起こすことを目的に立ち上がっている。ドイツの文部科学省や経済産業省がリードして取り組んでおり、工場同士、商品と機械、機械間のコミュニケーションを可能にすべく、ドイツとしてどういう企画でどのような構造でものを作り上げるかを世界発信している。

ここで大事にしているのが「統一された規格を出す」こと。海外のスタートアップとコラボレーションするときに文化の壁に悩まされることが多いためだ。

ほか、クラウドソーシングでスタートアップや研究機関のアイデアソーシングをプラットフォームとして展開のほか、女性専用のスタートアップ支援「WEP(Women’s Empowerment Principles)」、ICTをメインにした企業を集めてシリコンバレーに送り出す「German Accelarator」を紹介。「High-Tech Start-up Fund」というミュンヘンやベルリン等の大学研究機関から卒業し、スタートアップを立ち上げることを支援しているファンドも存在するという。

エンジェル投資家に対しては税金20%削減を優遇し、ドイツの経済産業省は半年に一度の割合でスタートアップナイトを開催するなどの投資機会を増やす策もあるとのことだ。

日本でオープンイノベーションを加速させるには?

後半のパネルディスカッションでは、日本でのオープンイノベーションについて語られた。

美谷氏は日本のスタートアップについて「技術的には面白いが課題設定が甘いことが多い」とコメント。参考としてフランスのブランドやプロダクトマーケティングの戦略に触れた。同じ東アジアとして、中国の深セン市が新しい分野、ドローン、AI、ロボティクスなどに強く、その影響を受けた台湾がハードウェア部門で盛り上がっているとも述べた。イスラエルではブロックチェーンやAIに関するイベントが多く、アメリカではGoogle やFacebookのM&Aにより吸収され、袋小路になっているとの考えを参加者と共有した。

スタートアップとのコラボレーションを狙う企業にとってスタートアップの選定は非常に重要だ。有名な企業が既に大手とコラボレーションしていく中、どのように国内外のスタートアップ情報を集めるのだろうか。

美谷氏はこの疑問に対して「スタートアップに調査を依頼すべきです」と回答する。「スタートアップについて一番詳しいのはスタートアップですし、調査をすることでスタートアップ自身も大企業が何を知りたいのか、何を課題として持っているのかを知ることができます」と語った。

また、Christian氏も美谷氏も「人とのつながりを密にすること」や「スタートアップが日本を訪問するときにオフィスを貸し、ワークショップなどを開催」することを提案した。場所を提供し交流を深めることでインプットの場にもなりうるメリットを示唆した。

海外から見て、日本に必要なものを聞かれると、Christian氏は日本企業のマインドセットチェンジの必要性や迅速に統一した規格を出すことの重要性を繰り返し語った。一方で美谷氏はデザインやプレゼンテーションの向上、それぞれの企業が課題意識を持つことの必要性を説いた。
「日本のスタートアップ業界では、まだ東京オリンピックのPRイベントのような官民の素晴らしい協力体制の獲得にまで至っていません」(美谷氏)
官民が協力し、課題設定を行うことに日本のスタートアップ振興の糸口が見えそうだ。

取材を終えて

個人や会社単体ではアイデアの幅も技術も狭い。より多くの人と関わり、お互いを刺激しあってこそイノベーションは生まれるのだろう。

最後に、Christian氏はオープンイノベーションのメリットとして以下を語った。

  • 社内だけだと限りあるノウハウへのアクセスになるが、外部と組むことで新しいアイデアやインスピレーションを得られて相乗効果がにつながる
  • クラウドソーシングのプロトタイピングによりタイムマネジメントの短縮が可能となる
  • リスクヘッジ、柔軟性の向上が可能に
  • 才能のある人材が獲得できる

さらに周りに目を向ける必要性がありそうだ。

 

<お知らせ>
7/31「Trend Note Camp #16 フィンランドスタートアップ最前線」開催!

Trend Note Camp #16 フィンランドスタートアップ最前線

「フィンランドのスタートアップ」をテーマに、フィンランドの起業支援や大学と連携したオープンイノベーション事例、注目すべきスタートアップ等ご紹介します。ご参加お待ちしております!
ゲスト:フィンランド大使館商務部 ペッカ・ライテイネン氏、Goldrush Computing株式会社 代表取締役 水鳥敬満氏

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