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自社に合う最適なスタートアップの見つけ方

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2021年4月28日、弊社アドライトは事業会社での新規事業創出を目指すイノベーターに向けたイベントシリーズ「Brave Changer」第8回目として、「自社に合うスタートアップの見つけ方」をオンラインにて開催。ゲストにMS&ADインシュアランスグループホールディングス株式会社 総合企画部イノベーション室・鈴木智洋氏(以下、鈴木氏)と鹿島建設株式会社 関西支店 建築部 生産推進サポートグループ・竹内秀和氏(以下、竹内氏)を迎え、スタートアップとのオープンイノベーションに欠かせない心構え等語っていただいた。

ファースト文化が根付くシリコンバレー

鈴木氏は2017年11月から2020年4月までシリコンバレーに駐在。名だたるハイテク企業やグローバル企業の集積地であり、大型の投資や技術も生み出されるなか、あらゆるファースト文化が形成されていると感じたという。

「とにかくスタートアップファーストです。スタートアップの数やスピード、多様性が圧倒的で人材の流動性も極めて高い状況で、大手企業よりスタートアップの立場が上です」と鈴木氏。MBAの素養を有するハイレベルな人材が集まっており、自分が何者で、何を求めているのかを最初に伝える文化が浸透しているという。

また面談相手に何かを与えることが当然であるというGiveファーストや、高いビジネスマナーを備えつつ、カジュアルなコミュニケーションが重視される効率性ファーストも根付いている。日本でよくある情報交換目的でのアポは敬遠される。もしセットしてしまおうものなら次回以降会うことは難しいことを意味している。

成功者(現状維持)よりも失敗者(挑戦者)が評価されるチャレンジファーストや社会課題等のペインポイントからイノベーションを生み出す文化等も挙げ、「これらが融合し独自のスタートアップエコシステムを形成しています」とした。

MS&ADグループのイノベーション活動

このようなシリコンバレーの生態系をふまえ、現地で2つのイノベーション創出活動を行っていた鈴木氏。1つはCVC、もうひとつはMS&ADガレージプログラムだ。

将来のディスラプターへの先行投資を行うために技術ドリブンでCVCを行う同社は、2018年10月の創設以来、50社を超える海外スタートアップに対して投資を行ってきた。領域は保険に留まらず、あらゆる業種・業界に及んでいる。投資先との協業も複数進んでいるとし、イスラエルのスタートアップ・ビドゥ社や米国Hippo社との取り組みを例として紹介した。

MS&ADガレージプログラムは、ペインポイントドリブンへのアプローチで、今ある課題を解決するためのビジネスディベロップメント活動を指す。

MS&ADグループ会社の社員がシリコンバレーへ中長期にわたる出張ベースでイノベーション活動に取り組み、ペインポイントの解消や事業アイデアのブラッシュアップ、イノベーションマインドの醸成を図るというものだ。「自社だけに閉じず、日系企業を含めた大手企業等とオープンディスカッションを含めて事業提携候補を選定することもあります」と鈴木氏。ベストな連携の仕方を模索した結果、これまで社内25グループから42名の参加を受け入れ、毎回複数の候補を持ち帰る成果につながったという。

帰国後、満を持して日本でも同様のスキームを展開したところ、参加企業の一社である鹿島建設がスタートアップと出合うことに。

建設業の死亡・重篤災害根絶を目指して

昨年8月、鹿島建設は東京証券取引所が経済産業省と共同で選定した「DX銘柄2020」に、建設業では2社のうちの1社として選ばれた。背景に、建設業に従事する層の高齢化を掲げている。

日本の就業者数は1997年を境に2010年から横ばいだが、他の産業の平均に比べて建設業は約3割が55歳以上、29歳以下は1割という実態がある(総務省「労働力調査」(暦年平均)を基に国土交通省で算出)。そのため建築工事に関わるあらゆる生産プロセスの変革を推進し、生産性向上を目指す「鹿島スマート生産ビジョン」を2018年11月に掲げ、その取り組みが評価されたかたちとなる。

それでも「課題は山積み」とし、2017年〜2019年の業種別死亡災害発生数を挙げた。林業・製造業・建設業・陸上貨物運送事業・第三次産業のなかで建設業は常に最も多く、全体の3割にあたる300人前後が毎年亡くなっている(出典:厚⽣労働省 平成31年/令和元年労働災害発⽣状況 建設業労働災害防⽌協会)。

どの現場でも安全対策は徹底して行っているが、建設業における死亡・重篤災害を根絶するにはどうすべきか。調査を進めた結果、誤って作業員が立ち入り禁止場所に進入するというペインポイントが明らかとなった。「彼らにアラートを出せたら死亡・重篤災害も減るかもしれない」――竹内氏は早速行動に移した。

鈴木氏を通じて見聞きしていたリモートガレージの力を借り、関連のありそうなシリコンバレーのスタートアップを70社ピックアップしてもらうことに。その後保有技術の精査や面談を通して数社に絞り、5月から実証実験を進める予定だ(イベントは4月実施)。

「シリコンバレーの技術力は少なくとも日本の半年から1年ほど進んでいる印象です。スピード感を持ってPoCから本格導入に進む必要があると感じました」と、今後の活動に対して強い意志を示した。

本事業は竹内氏の在籍する関西支店がリードし進めているが、イノベーション創出には本社の協力は欠かせないという。「鹿島建設にはR&D専属部署があり、しっかり形にするためには本社の技術が必要です。一方、支店は現場のニーズを捉えてスモールスタートできるフットワークの軽さがあります。本社のメリットと支店のメリットを使い分けて、役割分担して進めることが重要です」

コロナ禍前後でスタートアップソーシングに変化はあったのか

イベントの後半では、弊社代表・木村がモデレーターのもと、鈴木氏・竹内氏とイベントのタイトルにもある「自社に合うスタートアップの見つけ方」をテーマにトークセッションが行われた。

「コロナ禍でスタートアップ発掘の方法に変化は特段見られません」と鈴木氏。それまでもZoomを用いて面談が行われていたためという。ただし、大手企業の担当者とスタートアップがフランクに話すうえでは対面に勝るものはないとした。

では、スタートアップの見極めはどのように行っているのだろうか。鈴木氏は「チームの雰囲気が最も重要です」と回答。「チームの中での役割を各々が理解し、阿吽の呼吸で行動できるスタートアップが今後伸びていくと予想されます」という。

また協業や出資を決断する際の判断ポイントとして「スタートアップから大手企業のペインを深掘りし、自分たちがどのように役立てるのかを考えてくれる企業とは結果的にいい方向につながることが多いです」と添えた。

竹内氏は多数のスタートアップと話をするなか、技術の押し売りをするのではなく、協業先に寄り添いながら提案するところが選定のひとつになったという。「これから協力していく意識や、同じようなスピード感を持っているかどうかを1つの判断材料にします」と語った。

ただし、スタートアップが提供する製品・サービスと自社のペインとのマッチングはスムーズにいくわけではない。「実装までたどり着くのはかなり低い確率です。何回も挑戦していく中で目利き力を高め、より確率の高いものを見つけることが重要となります」と鈴木氏。実際、MS&ADガレージプログラムの実績を振り返ると、ソーシングしてから実装に至る割合は千三つ(せんみつ)だったという(上図参照)。

「スタートアップソーシングの段階で実装への確率を上げるために、企業側はピッチ資料の質を上げることが必要です。そして完全にペインを解決する技術と出合うのは難しいことを念頭に置き、将来性など他の視点から考えるなどの間口を広げる努力も必要になります」と竹内氏は締めくくった。

取材を終えて

スタートアップとの協業で最大の成果に近づけるには、自社のペインポイントの深堀りが欠かせない。そして目利き力やネットワークを有するMS&ADグループのプログラムを活用するのも有用と言える。

我々アドライトもオープンイノベーション創出を支援する企業の1社として、以下も添えておきたい。

スタートアップはパートナーとして対等の立ち位置にいる。

事業化に導くオープンイノベーション

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2月18日に行われたオンラインイベント、「事業化に導くオープンイノベーション~Aichi Open innovation Accelerator連動企画」。Aichi Open innovation Acceleratorが始まり2年となるが、昨年は様々な協業が生まれ、今年もマッチングが実現している。プログラムは現在も進行中であるが、本イベントでは「今後事業化を実現するためには何が必要なのか」、その答えを講演やゲストとのトークセッションから紐解いた。

一人目のゲストである野本氏は、弁護士×IT企業戦略部門というバックグラウンドを武器に、スタートアップの事業開発や戦略提携、政策企画等を支援するグロービス・キャピタル・パートナーズのキャピタリスト。オープンイノベーションでの事業化において、大手企業とスタートアップそれぞれの目線から留意すべき事項に関して講演いただいた。

また二人目のゲストである中村氏は、トヨタ自動車時代に有志団体・CARTIVATORを立ち上げ、日本初の有人デモフライトの成功をおさめている。現在は有志団体Dream-Onを通じて、様々な企業とオープンイノベーションを行われている。

トークセッションにおいてはそんな二人から、「オープンイノベーションが日本で少ないと言われる背景」、「事業化にあたっての大手企業、スタートアップそれぞれの思惑」、「事業化実現のためにどのようなことができるのか」の三つの観点でお話しいただいた。

「Aichi-Startup戦略」とは?

はじめに、本イベントの主催者である愛知県庁柴山氏より、開会のご挨拶および、「Aichi-Startup戦略」についてのご紹介をしていただいた。愛知県はものづくりを得意として世界で戦ってきたが、大変革期の現在、現行の産業構造がこのまま維持されるとは考えられない。

そこで、スタートアップを起爆剤としてイノベーション創出都市を作ることを目的に「Aichi-Startup戦略」が開始された。この戦略の中では、愛知県からスタートアップを生み出し、育て、世界進出を目指す方向と世界や日本全国から有力なスタートアップを愛知県に呼び込むという方向の2wayを想定し、プロジェクトを展開している。

また、オープンイノベーションを柱としており、地域の企業とスタートアップのビジネスモデルや革新的技術を融合することにより新しい付加価値の創造を目指している。多様なプロジェクトを展開している中でも、本イベントの主体である「Aichi Open innovation Accelerator」は主要なオープンイノベーションプログラムとして位置付けている。

実際に、多くのスタートアップやパートナー企業、事業サポーターのみなさまの協力を得て、地域全体で取り組む壮大で有望な事業となっている。AOAや本イベントをきっかけに、より多くの企業に愛知県のイノベーション創出プラットフォームへ入っていただき、今後の展開に参加していただきたいと締めくくった。

「事業化に導くオープンイノベーション」(株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズキャピタリスト 野本遼平氏)

弁護士として、スタートアップのビジネススキーム策定・提携交渉・資金調達等の支援に携わったのち、KDDIグループで買収や提携などに携わった経験を経て、現在はグロービス・キャピタル・パートナーズでご活躍する野本氏。自身の経験をもとに書籍も執筆している(「成功するアライアンス 戦略と実務」日本実業出版社)。

オープンイノベーションがいま必要なわけ

野本氏は、オープンイノベーションがいま必要とされている背景には、グローバルテック企業がもともとのインターネット領域から物理的な領域に進出している現状があると分析する。それに対して日本の大企業はどのように対抗していくか、どうやって新しい打ち手をしかけていくかということを悩んでいる。また、組織の変化のペースと比較して環境の変化のペースがかなり速くなっている。

これらに対応していくためには、自社だけではなく他社の力も借りる、すなわちオープンイノベーション、特にスタートアップとの協業が必要とされているという。スタートアップはリソースが少ないが故に単一市場に一点集中して市場を切り開こうというアプローチをとり、エッジが効いている。

スタートアップと組むことで大企業側としては市場を広げやすい。また、スタートアップは事業化に至らないといったハイリスクな部分もある一方、誰も手を付けていなかった領域で市場を支配できるというハイリターンな側面も同時にある。ハイリスクをとりにくい大企業はスタートアップと組むことを有意義であると感じるだろう。

また、新型コロナウイルス第一波のような、大きな環境変化が起きた時こそ、外部のリソースを活用することが必要になってくる。引き続き、SU投資やCVC投資、アクセラレータープログラムなどにアンテナを張り続けておくことで、市場の転換期においても減速せずにオープンイノベーションに積極的に取り組むべきだという。

大手企業としてスタートアップとどのように向き合うべきか

次にオープンイノベーションにおいて、大企業としてスタートアップとどう向き合うべきかを語った。➀目的の明確化・共有、②部署・担当者の固定、③下請け扱いをしないの3点に集約されるという。

➀目的の明確化・共有

まず、目的を明確化・共有することが重要だ。目的によってどのようにオープンイノベーションに取り組むべきか、どのようなアクセラレータープログラムに参加するべきか、アクセラレータープログラムで何を実現するべきかということも変わってくる。

目的として、R&Dのアウトソーシング、エコシステムの構築、リソースの補完、買収オプションなどが考えられる。目的に応じて、スタートアップとの利益相反や、スタートアップの本命の目的である本来の事業の成長の阻害、マイルストーンの設定に気を付ける必要があるという。事前にしっかりとした線引きが必要であり、ゴールがわからないままリソースを使い続けるという事態にならないように注意すべきだという。

②部署・担当者の固定

次に、協業に携わる部署や担当者を固定することだ。オープンイノベーションにおける困難を一緒に乗り越えるために、しっかりとした信頼関係を醸成していくことが大事であるためだ。社内の異動ローテーションの例外を設け、長期で同じ部署や担当者が携わることで、相場観やノウハウ、ネットワークの接点を集約できるメリットもあるという。

③下請け扱いしない

最後に、スタートアップを下請け扱いしないということだ。スタートアップは、成長させるべき固有の事業を持っており、独立を希望する企業体であるということを大企業側は改めて認識するべきだ。一度下請け扱いをすると、スタートアップの横のつながりにより、悪い噂はすぐに広まり、次のチャンスに繋がりにくくなるという。

スタートアップとして大手企業とどのように向き合うべきか

逆に、スタートアップは大手企業とどのように向き合うべきかについて、野本氏は次の3点をあげた。➀プロダクト・マーケット・フィット(PMF)、②オセロの四角を意識、③目的の明確化④本業の範囲内か。

➀プロダクト・マーケット・フィット(PMF)

スタートアップはどのようにして大手との連携で物事を進めていくのか線引きが重要であるという。まずは、自社内でのPMFを達成した上で、大手企業とのアライアンスをする必要がある。

②オセロの四角を意識

また、顧客接点を握り、オンボーディングしてからのフィードバックをしっかりとっていくことも重要だ。自社をオセロに見立て、オセロの四隅をどこに定めるのか、それをしっかりと死守したうえで、他社とのすみ分けが大切だ。死守すべきものを明確にするためにはやはりPMFが大切だと念を押した。

③目的の明確化

それぞれの提携が自社にとってどのような意味を持つのか明確にすることが重要である。中長期的な経営戦略のなかで必要であり不足している経営資源を事前に具体的にしておくことでどの企業と組むべきかがわかってくる。また、客観的かつ定量的に目標値を設定し、オープンイノベーションの効率をモニタリングしていくことで、撤退することになったとしても、協業が成功したとしても、次のステージに進む糧となる。

④本業の範囲内か

最後に、本業とのバランスを意識することを常に忘れてはいけない。最終的には自社の価値観やプロダクトの理念を基準に受け入れの振り分けをして、開発をすすめていくことが重要だと締めくくった。

トークセッション

続いてトークセッションでは、株式会社アドライト木村がモデレーターを務め、前パートで講演いただいた野本氏と、二人目のゲストスピーカーである有志団体Dream-On 代表理事 中村翼氏により、「オープンイノベーションが日本で少ないと言われる背景」、「事業化にあたっての大手企業、スタートアップそれぞれの思惑」、「事業化実現のためにどのようなことができるのか」についてディスカッションが行われた。

中村氏は、トヨタ自動車に入社し、量産車設計に従事しながら、2012年業務外で有志団体CARTIVATORを設立し、共同代表を務める。同団体では空飛ぶクルマの開発を主導し、トヨタグループ含む100社超のスポンサー企業支援の下、日本初の有人デモフライトを達成している。現在では未来へのタイムマシーンをテーマにした有志団体Dream Onの共同代表を務めている。空飛ぶ車に限らず、新たな種を見出すことに力を入れている。

オープンイノベーションが日本で少ないと言われる背景

野本氏は、以前に比べて大企業がスタートアップと組むという事例が、絶対数として増えている印象を受けているという。スタートアップ産業やベンチャー業界全体のプレゼンスが高まってきていて、今後の更なる発展を期待している。日本でオープンイノベーションが少ないと言われる理由の一つとしては、スタートアップのM&Aが一時期に比べると落ち着いているためとも考えられる。

ベンチャー全体のエコシステムが大きくなるには、海外のように大型のM&Aも増えてほしいが、失敗を許容する文化が不足する日本大企業の風土が邪魔をしてしまうかもしれないと述べた。

空飛ぶ車プロジェクトで様々な企業とオープンイノベーションに取り組んできた中村氏は、トヨタ自動車の会長からいただいた「中でやるより、外でやれ」というアドバイスを引用し、自社内だけでやる難しさを理解しており、外の協力を得て、発信しながら事業を進めることの効果を実感していることを述べた。外部とのやりとりにより、相乗効果があり、外部と組んだからこその新たな展開があったと、自身の空飛ぶ車プロジェクトを振り返っている。

事業化にあたっての大手企業、スタートアップそれぞれの思惑

野本氏は、公正取引委員会によるレポート「スタートアップは大手企業から搾取されているのでは」について、搾取の背景に大手企業のスタートアップへの偏った認識があるのではないかと述べた。

実際に零細企業は大手企業に比べて資金が少なく、立場も弱いが、個人の思いや解決したい課題があり、強い思いがあってこそ、ハイリスクで、チャレンジングなことをしている。大手企業は、スタートアップへリスペクトを持って接するべきであり、本当の意味でスタートアップへの理解があり、ポジティブな印象を抱いている人材をフロントに置くべきであるという。

中村氏は実際にスタートアップを立ち上げ、大企業と協業する際に、「大手企業による搾取」について考えることがあったという。実際の共同研究開発や業務委託の契約を結ぶときに、スタートアップは法務の知識や事例はあまり持っていないため、大企業の法務の方に対峙するのはかなりの馬力を要し、限られた知識や経験で頑張ったとしても、法務の専門性を問われると情勢は厳しくなる。結果的に搾取と呼ぶかはわからないが、負けないといけない部分も過去にあったという。

スタートアップ側がしっかり戦略を持つというのは大前提だが、そのうえで関係性の構築は改善していく余地があると感じている。有志団体をやっていて悩ましいのは、お金は必要だけれど、「やりたいことを守る」ということのバランスだという。

野本氏もまた、スタートアップと大企業の法務の知識の差に関して注視している。

本当は間に入っている大企業の担当者が自社の法務を説得して落としどころを見つけ、調整するのが理想だ。つまり、大手の法務vsスタートアップという構図になりがちだが、大手の法務vs大手の担当者とスタートアップ連合で調整し、落としどころを見つけることが大事だという。

また、オープンイノベーションの醍醐味は色々な会社が関わるため一社ではできないことをなし得るという点である一方で、色々な思惑が混在することになる。中村氏は、前に述べた「お金とやりたいことのバランス」がここでも重要であるという。

自身の有志団体の場合は、やりたいこと側に振っているため、やりたいことに対してフィットする方に入っていただいており、無理なくお付き合いできている点がいいことだと感じている。一方、お金も取りたい場合でも、最終的に何をやりたいかというのが重要だと考えている。もちろん投資していただいている方へのリターンについて考慮しなければならないが、会社としてかなり厳しい状況になっても最後に何をやりたいのかを貫くというのは重要な部分だという。

事業化実現のために必要なこと

野本氏によると、事業化実現のためにはスタートアップ側から何を目指していて、ゴールに至るには何が不足しているのか、協業先に何を補完してほしいかを明確に伝えることが重要だという。AOAのようなオープンイノベーションプログラムでは、マッチングのシステムもしっかりと設計されているとは思うが、改めてスタートアップは自社に何が不足しているのかを明確に提示し、大手企業が自分たちには何が出来そうかを検討してマッチングしていくことが重要だ。

大手企業は、「まずは与えよ」でとにかく与え、見返りは5、10年後でもいいよというスタンスで、直近でスタートアップから何かを得ようとしない我慢強さや忍耐があるとより理想的。オープンイノベーションのエコシステムを回すという中長期的な視点では、スタートアップを起点にすることで全員が果実を得られるのでないかと考えているという。

中村氏によると、スタートアップ側の観点で事業化実現に必要となるのは、PMFに至るまでの粘り強さや忍耐だという。自身がトヨタ自動車にいて、車の製作に苦労していた時、ある投資家からいただいたアドバイスを今でも思い出す。「早い段階でいきなりお金を入れてしまうと結局はやりたいことができなくなるから、今は食いしばれ」と。

投資の誘惑に駆られそうな場面もあったが、しっかりと自分たちのやりたいことの核を作ってプロトタイプが出来ると、支援を受けられるようになった。さらに、その段階で様々な形態で支援いただく企業は、はじめから自社のやりたいことを理解してくれているので、それに対して揺れるということはあまりない。

コンセプトの段階でいきなり組むことをせずに、プロトタイプを作って話をすると、自分たちのやりたいことのベースの上に連携の話ができるので、最初のところで食いしばるというのは重要なことだと思うと締めくくった。

イベントを終えて

イベント全体を通して、大企業にとってもスタートアップにとっても、オープンイノベーションはあくまで、自社の本来の目的を果たすための手段であり、お互いの目的の共有、理解をし、尊重し合って進めていくことが重要だということが説得力を持って示された。

大手企業、スタートアップの両方の立場を知るゲストスピーカー野本氏、中村氏の貴重なお話は、オープンイノベーションにおける事業化実現の課題を今後解決するヒントになっただろう。

起業家とパートナーが出会い、新しいビジネスが創出される場とは?

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去る8月28日、東京21cクラブ(東京・丸の内)にて株式会社アドライトは「Mirai Salon #13 – 人が集まり事業が生まれる仕組み・仕掛け」を開催した。

目まぐるしく変化する市場に適応していくには、新しいアイデアや視点、技術が必要なことは自明であり、大手企業を中心にアクセラレータープログラム等のオープンイノベーションを取り入れるようになった。またCVCのようにスタートアップへ投資を行うことはもとより、ビジネスにおける出会いを促進する目的でコワーキングスペースやシェアオフィスを設けるなど、環境整備をセットにして推進するケースも増えつつある。

三菱地所株式会社 街ブランド推進部 東京ビジネス開発支援室 シニアパートナー・旦部聡志氏

三菱地所株式会社 街ブランド推進部 東京ビジネス開発支援室 シニアパートナー・旦部聡志氏

当イベントの会場である「東京21cクラブ」は、三菱地所が手がける施設のひとつであり、新たなビジネスを創造しよう、成長させようというスタートアップ、国内外の成長企業や大手企業を中心としたオープンイノベーションコミュニティという形で、会員制ビジネスクラブとして運営されている。

三菱地所は、最先端のスタートアップ企業の誘致を継続する一方、世界有数の企業集積を活かし、国内大手企業との連携機会の演出、各種実証実験の取組み等、丸の内エリアならではのオープンイノベーションフィールド構築を推進しているとのことだ。

今回は、この世界有数のビジネスエリア丸の内に立地する事業成長の拠点で、多種多様なキャリアを持つ4人のスピーカーが事業創出の仕組み・仕掛けについて語ってくれた。

「ワタシから始めるオープンイノベーション」とは

トップバッターは、内閣府 知的財産戦略推進事務局 バリューデザイナー・宇津木達郎氏。宇津木氏は、日本が目指すべき価値をデザインし、日本企業の産業競争力を強化するための政策を立案している。彼は“オープンイノベーションの鍵は個人の内発的動機の発露にある”とする政府の知的財産戦略本部の報告書「ワタシから始めるオープンイノベーション」(価値共創タスクフォース報告書)の起草者でもある。

講演の中で彼は、この価値共創タスクフォース報告書をもとに、冒頭では価値観の「制約」による社会発展から価値観の「解放」による社会発展モデルの変化の必要性を説いた。

要約すると、個人が組織・社会・国家の器官として均質な価値観の基に機能することで経済的価値を追求していたのが「20世紀型モデル」であり、個人の多様な価値観が社会に解放され、組織・社会・国家をその実現器官として活用することで多様な価値を実現するのが「21世紀型モデル」ということになる。

このモデルは目指すべきオープンイノベーションの姿と一致するという。オープンイノベーションの方法論が確立された昨今、教科書通りのプロセスを踏むことで組織が環境を整えることはできる。しかし宇津木氏は、個人の動機やマインドが等閑視されたままでは、経営層、組織、個人が連携せず方法論だけが上滑りし、やらされ型で形式だけの「エセオープンイノベーション」になりがちであると警鐘を鳴らす。

内閣府 知的財産戦略推進事務局 バリューデザイナー・宇津木達郎氏

内閣府 知的財産戦略推進事務局 バリューデザイナー・宇津木達郎氏

「実質的なオープンイノベーションとは、内発的動機(ワタシ)を起点として、画一的でない価値観を有する者同士が大きな目的を共有し、互いに資源を持ち寄って社会から共感を得られる革新的な価値の創造・提供を通じて行う、社会変革を伴う活動です」

宇津木氏は、社会にインパクトをもたらすオープンイノベーションにするには、個人の内発的動機に基づく主体的な取組を創発するよう組織を変革し、そこに関わる人のマインドセットを変える必要があると強調した。

商社が興すイノベーション創出とは

続いては、住友商事株式会社 デジタル事業本部 新事業投資部 部長代理・蓮村俊彰氏。中国や米国で展開されている、IoT、ロボティクス等のハードウェア関連スタートアップに特化したアクセラレータープログラム「HAX」の日本版「HAX Tokyo」を、HAXを運営するベンチャーキャピタルSOSV社や住友商事グループのITベンダーであるSCSK社とともに立ち上げた。

FINOLAB等のFinTech領域、クラウドファンディグを活用した事業の開発、事業構想コンサルとして多種多様なプロジェクトに携わってきた蓮村氏は、「HAX Tokyo」の立ち上げ・運営に参画しており、なぜ海外のアクセラレーターを“輸入”したのか語ってくれた。

「住友商事は長い間CVCをやってきましたが、更にスタートアップとのオープンイノベーションを加速させる新しいことをやろうという方向性がありました。今まで以上に、スタートアップの側から来てくれる仕組みを考えたというのが始まりです」

本仕組みがハードウェア領域に注力している点について「総合商社はメーカーとともに育ってきた、育ててもらった存在とも言えるので、その領域でイノベーションを興したいという意識はあります。近年日本から新たな世界的メーカーが生まれていないという実感がある中で、HAXと出会いました」と説明する。

HAXが日本を選んだ理由については、母体であるSOSVがもともと日本人の性質、技術力、ポテンシャルを評価していたという背景があったという。「HAX」において日本からの応募も採択も少なかったことが「逆説的にそんなはずはない、もっとできるはず、一緒にやっていこう」というポジティブな方向に向かったようだ。

住友商事株式会社 デジタル事業本部 新事業投資部 部長代理・蓮村俊彰氏

住友商事株式会社 デジタル事業本部 新事業投資部 部長代理・蓮村俊彰氏

また人が集まり事業が生まれる仕掛けとして、住友商事は組織や産業の垣根を超えたさまざまなカラーを持つプレイヤーが出会い、交流し、新しい価値を生み出していくオープンイノベーションラボ「MIRAI LAB PALETTE」(東京・大手町)を手がけている。

招待制コワーキングスペース、インスピレーションを刺激するプロジェクトルーム、共創のハブとなるオフィス&テックラボ、スタートアップ支援アクセラレーター、ショーケース、映像制作スタジオと、コンセプチュアルかつ充実した設備・施設である。

総合商社が手がけるオープンイノベーションからどんな出会いがあり、新しいビジネスが生まれるのか注目したいところだ。

三菱地所におけるオープンイノベーションの取り組み

大手企業におけるオープンイノベーションというテーマで登壇したのは、三菱地所株式会社 新事業創造部兼DX推進部 主事・那須井俊之氏。主な業務は、スタートアップ、大手企業との提携・協業や新事業立上げ、既存事業のデジタル技術を活用した変革だ。かつて新築マンションを分譲するだけのビジネスモデルではもったいないと思い、「買い取り再販事業」を立ち上げた経験ももつ。

三菱地所株式会社 新事業創造部兼DX推進部 主事・那須井俊之氏

三菱地所株式会社 新事業創造部兼DX推進部 主事・那須井俊之氏

那須井氏は、冒頭で不動産業界が置かれている状況に触れた。

「三菱地所は国内の総合不動産業界においては時価総額トップクラスではありますが、WeWorkやAirbnbといった新興不動産テック企業やGAFAなどが参入してきている中で、危機感を覚えますし、変革していかなければならないと感じています」

不動産という柱を生かした取り組みとして同社は、先述したオープンイノベーションコミュニティやシェアオフィス等の運営はもとより、丸の内エリアを先端技術・テクノロジーを活用した実証実験の場として提供している。大手企業とスタートアップ・官・学が連携して社会課題を解決することで、グローバルなマーケットに向けたイノベーションの創出を支援している。

また那須井氏が所属する新事業創造部は、不動産テック、AI/ロボティクス、プラットフォーム、インフラ/PPP/PFI、健康/食・農業/バイオ、観光/インバウンド、再生可能エネルギーという7つの領域に注力し、VC各社と連携しながら100億円を超える出資を行っているという。

出資先との協業に関しては、場の提供のみならず、オンデマンドデリバリー、警備ロボット、収納ビジネス、シェアリングエコノミー、不動産取引IT化と幅広く、新事業においてもユニークで、20代の女性社員がCEOを務めるマインドフルネス・メディテーション事業や高付加価値農業事業などがある。

既存のビジネスモデルにとらわれず、業界最大手こそが変革者とならなければならない、という気概を感じさせるプレゼンテーションだった。

スタートアップ目線でのオープンイノベーション

プレゼンテーション最後は、エルピクセル株式会社 代表取締役・島原佑基氏。同社は独自のアルゴリズム、最先端のAIを活用した生物画像の解析技術等を活用し、大手企業とのオープンイノベーションを実現してきたが、企業からの出資、医療機関との共同研究、行政へのアプローチ等の実績を挙げる中で以下の気づきを得たという。

エルピクセル株式会社 代表取締役・島原佑基氏

エルピクセル株式会社 代表取締役・島原佑基氏

・大きな組織も、結局ひとりの「人」が動かす
・ビジョンに共感できる「人」が重要
・評論家が評価しやすいような「型」だけには意味がない

島原氏は「スタートアップの立場で大手企業を組み先として考えるとき、まず相手が同じ目線で見てくれているかが大切です。それから会社に言わされているのではなく、個人としてやりたいと言ってくれるか、そしてワクワクしながら話し合えるかどうか。」と話す。

島原氏は以前、東京大学内のインキュベーションオフィスを利用していた。心地良さを感じていたものの、パートナーの来訪や採用周りで使い勝手に難があり、商談の数も少なかったという。そこでSAP、三菱地所が共同で手がけた大手町にあるビジネス・イノベーション・スペース「Inspired.Lab」に移ったというエピソードを語った。

「理想的な展開で繋がり、プロジェクトが生まれる、ということは稀ではありますが、ナレッジの共有・周囲からの刺激があるだけでもバリューを感じますし、ミートアップイベントなどソフト面のサポートがあることは大きいです」

パネルディスカッション

講演後、登壇者4名がパネラーとなり、アドライト代表・木村がモデレーターのもと、ディスカッションが行われた。本稿では、イベントの主題である「人が集まる事業が生まれる」にフォーカスしたQAを紹介したい。

ひとつめは、インキュベーションオフィス、コワーキングスペースという設備面だけでなく、ソフト面ではどんなことをすると良いか、人と人をどう繋げているのか、という質問である。

那須井氏は、「自然に会話が生まれる、気軽に触れ合うことができる場づくり、様々なイベントを企画することでしょうか。他社さんとの比較の中で、『なぜ三菱地所は同様の施設を全国展開しないのか』とよく聞かれます。それはイベント運営やコミュニティ形成の座組みをしっかりと行いたいと考えているからです」と回答した。

一方、入居者の立場で、島原氏は享受しているメリットについて語った。

「シェアオフィスは世の中に沢山あります。自前でつくってもいいと思ったこともありましたが、Inspired.Labのソフトの面に魅力を感じて入居しました。井の中の蛙にならない環境があるのはモチベーションに繋がりますし、入居企業は恵まれていると思います。」

さらに、蓮村氏はオフラインでやる意味について強調した。

「コワーキングスペースのコミュニティマネージャーのような立ち位置でその界隈のことをよく知っている人がいることが大切なんです。採用でもビジネスパートナー探しでもSNSでもある程度はマッチングできますけれど、その人をハブにすればリファラルで話が進みやすいです。」

もうひとつは、働き方改革、リモートワークが進む中、いろんな人が集まって仕事をする価値は何かという質問があった。これに対する蓮村氏の回答が興味深かった。曰く、仕事には「レイバー」「ワーカー」「プレイヤー」「クリエイター」という4つの働き方があり、この中で働き方改革の対象となるのは、レイバー(工場などで働く人)とワーカー(ホワイトカラー)だという。

一方、プレイヤー(スポーツ選手など)、クリエイター(アーティスト)は、管理されているわけではない。組織には所属しているけれど、技術を磨き、個人として勝負する人たちである。

「オープンイノベーションにあてはめて考えたとき、大手企業の人がやらなきゃいけないのは、自分の顔と名前を覚えてもらい、この人は何をしたいのかをインプットしてもらうことだと思っています。住友商事の人ではなく、『蓮村』として認識されることがスタートライン。Face to Faceに勝るインターフェイスはないです」(蓮村氏)

宇津木氏は蓮村氏の話をふまえ、独特の表現で持論を語る。

「私はレイバー、ワーカーという括りがなくなればいいと思っています。全員がプレイヤーになり、クリエイターになり、自分が人生でやりたいことをやれればいい。会社や組織は器として場を提供すればいい。むしろ、働き方改革という言葉が存在しない社会を目指したいです」

人の集中力が低い時はオフィスに滞在している時だと言う。それなら作業をしに出勤する必要はなく、出会うために仕事をしにいき、作業するために家に帰ればいい。「“仕事が終わって新橋に飲みにいく”のではなく、新橋的なところに仕事をしにいけばいい」という発想は、斬新なようでその実、本質的である。

人は視覚、聴覚以外のものを総動員して体験しているわけで、目の前で展開されているこのトークそのものが、オンラインでは実現されない種類のものであることを証明している、そんなディスカッションだった。

 

取材を終えて

当イベントのタイトルにある「人が集まり事業が生まれる」という部分でいうと、誰が、どこに、どのようにして集まるかが重要であると感じた。

人と場所はセットであり、そこに人々が集まるのには理由がある。宇津木氏が指摘していたように、確かにオープンイノベーションという言葉ばかりが先行して「エセオープンイノベーション」が流行ってしまうきらいがあるものの、適切なマッチングを行える場や仕組みがあれば、形にある確度は上がるだろう。

これから場毎にどんなビジネスが生まれるのか期待せずにはいられない。

モノづくり産業×テック系スタートアップ融合の可能性:Aichi Open innovation Accelerator事前説明会イベント報告

addlight journal 編集部  addlight journal 編集部

去る8月26日、Inspired.LabにてAichi Open innovation Acceleratorの事前説明会「テクノロジー・スタートアップ共創最前線」が行われた。

昨今の自動車産業におけるCASE(Connected、Autonomous、Shared&Service、Electric)やMaaS(Mobility as a Service)の進展、データ活用を付加価値の源泉とする「Society5.0」の到来といった構造的変化が、愛知県の産業の姿と競争力を大きく変えると予想されている。

それはつまり、愛知県内の企業が培ってきたモノづくり文化や技術を活かしつつ、新しいアイデア・視点をもってイノベーションを起こし、産業の新陳代謝を活発化することを求められているとも言い換えられる。

そこで、愛知県が新しい価値を創造する主体として、IoTやAI 等の技術を有するスタートアップを県内外から誘引し、短期集中支援や資金獲得・事業提携等につなげるための場を提供する、アクセラレータプログラムの始動に至った。

「伝統×スタートアップ」への期待

冒頭では、主催者である愛知県 経済産業局 次世代産業室 室長補佐・山田英明氏より、愛知県の概要と当プログラムの意義について説明された。

愛知県は周知のように伝統的に製造業が盛んで、特に自動車産業、航空宇宙産業、ロボット産業に力を入れており、製造品出荷額等は約47兆円、41年連続で日本一である。

しかし、山田氏は「愛知県のものづくり産業は安泰かといえば、決してそうではないと考えます」と語る。

課題と危機感を覚える要素は大きく3つ。アメリカの「GAFA」、中国の「BATIS」を筆頭とする海外企業の進出によるグローバル競争時代への対応、もうひとつは自動車産業が100年に一度の大変革を迎えていること、そして3つめは、愛知県が保守的で、安定した雇用を担保している分、ベンチャー不毛の地となっていることだという。

愛知県としては、これまで培ってきた伝統産業にスタートアップの技術やアイデアを掛け合わせ、新たなイノベーションを起こしたいと考えており、当プログラムにおいて大きく3つの目標を掲げている。

1、スタートアップ活躍の機運の醸成
2、県内スタートアップの成功モデル創出
3、オープンイノベーションの推進

山田氏は、説明会の参加者に向かって「ぜひとも愛知県にお越しいただき、保守的な地域でもスタートアップが活躍できるようなコミュニティを作っていただいたり、県内の既存産業とコラボレーションしていただきたい」と投げかけ、締めくくった。

愛知県外のスタートアップのエントリー歓迎「Aichi Open innovation Accelerator」

Aichi Open innovation Acceleratorの内容について補足すると、対象は創業5年未満の企業ないしは支援対象となる事業開始5年未満の愛知県内外のスタートアップ。

1、 愛知県内に本社又は拠点を有する企業
2、 愛知県内企業との連携を検討する又は愛知県の地域課題解決につながるビジネスを検討するスタートアップ企業 (年間売上概ね10億円以下)

のいずれかを満たし、IoTやAIといった革新的な技術を持ち、新たなビジネスモデルの創出や技術革新を目指した事業の実施を予定していることが条件だ。

連続起業家や投資家、弁護士らによる充実したメンター陣による短期集中支援のほか、他のスタートアップ企業や既存産業・金融機関・支援機関等とのネットワーキング、モノづくり企業等とのマッチング、資金獲得の機会と場が約5か月間提供され、審査を経て5〜10社程度に絞り込まれるという。

このプログラムを通して、新たなビジネスモデルの創出や技術革新の成功モデルを生み出し、「愛知県発スタートアップ」の土壌を醸成することを目指す。

レガシー領域でのビジネス展開に必要な4つのステップ

仮に製造業のようなレガシー領域でスタートアップがビジネスを生み出すとしたら、どのような戦略や考えが必要なのか。弁護士×IT企業戦略部門というバックグラウンドを武器にスタートアップを支援している株式会社グロービス・キャピタル・パートナーズ キャピタリスト 野本遼平氏が、「スタートアップのためのレガシー×TECHの戦い方」というタイトルで講演した。

いわゆるレガシーにはポジ、ネガ両方の側面があり、「先人の遺産」「伝統」といったポジティブな側面を活かしつつ、「時代遅れ」「アナログ」といったネガティブな側面を解消するかがポイントになる。野本氏は、レガシー領域の特徴を「洗練された業務フローやリアルアセットなど蓄積された資産がある一方で、アナログ・フラグメント化・多重階層による非効率性があるのが特徴です」と語る。

さらに、既存資産を活かしつつ、アナログの非効率性やアセット活用の効率性を高めるソリューションが求められている。「そこにビジネスチャンスがあり、スタートアップが活躍する余地があります」という野本氏は、レガシー領域でビジネスを展開するための4つのステップを披露した。

【STEP1】全体構想/戦略
「確立された伝統」に切り込めるように、産業・業界の強烈なペインをとらえると同時に、全体のプロセスを俯瞰する。

【STEP2】プロダクト/ソリューション
リソース集中投下および顧客からの信頼の観点から、最初は特定の課題にフォーカスしたプロダクトをローンチ。

【STEP3】セールス/オンボーディング
プロダクト・ソリューション利用にあたって、精神的・情緒的なフリクションや、物理的・工数的フリクションを可能な限り下げる。

【STEP4】グロース
レガシーな領域には長年かけて構築された公式・非公式のネットワークがあることが多い。そのネットワークに乗れるか否かがポイント。

最後に、野本氏はレガシー領域で戦うスタートアップのための五箇条を示してくれた。

1、既存のアセット・ノウハウ・ネットワークを活かす
2、IT/テクノロジーにより、プロセスand/orアセット活用を効率化
3、深く穴をあけて、足場・独自アセットを蓄積し、領域を広げていく
4、泥臭く、既存アセットとITとの摩擦をなくしていく
5、業界人と同等以上の理解と熱量を持つ

愛知県でのビジネスの可能性

野本氏に加え、株式会社エクサウィザーズ 社長室フェロー/株式会社Job-Hub エグゼクティブ・フェロー 粟生万琴氏と、株式会社MTG Ventures 代表取締役 藤田豪氏を迎え、パネルディスカッションが行われた。

粟生氏はクラウドソーシングサービス「JOB HUB」担当役員、そして女性初の取締役に就任し、AIベンチャー株式会社エクサインテリジェンス(現エクサウィザーズ)を設立、取締役COOに就任。現在、廃校になった小学校をリノベーションし、今年10月28日オープン予定の「なごのキャンパス」のプロデューサー兼メンターとしても活躍している。

藤田氏は、日本合同ファイナンス株式会社(現:株式会社ジャフコ)に入社し、スタートアップからレーターステージまでの投資、中部支社長、投資先各社での取締役就任、ファンドの募集などを手掛け、自動運転、AI、保育IoTなどの分野の企業への投資を実施。現在、5000人以上の経営者との出会いによって培われた視点をベースに、BEAUTY-TECH、WELLNESS-TECH、FOOD-TECH、SPORTS-TECHの投資に臨んでいる。

名古屋のスタートップといえばこの人、という御二方は、最近の名古屋のスタートアップ事情に変化を感じているという。

「優秀な学生さんが起業しようとする、もしくは実際に起業するケースが増えました。VCから調達する前にエンジェルラウンドができるようになったり、県内の名だたる企業の投資部門が集まり、CVCの先のエコシステムについて考えるようになりました。今後は製造業で鍛えられたアンダー30のビジネスパーソンがスタートアップとコラボする事例などが出てくると面白いと思います」(藤田)

「周回遅れ、不毛の地と言われてきましたが、ようやく来たな、という感じ。ものづくり産業と起業家をつなぎ、新たな事業を創造する『なごのキャンパス』もそのひとつの現れです」(粟生)

また、野本氏も愛知県のチャンス、可能性についてポジティブに語った。

「製造業の強さを活かさない手はないですよね。一方で、ロボティクスとかAIとか手段にこだわらず、エンドユーザーに何を届けているか、というところから逆算して、何を加えていけばいいのかという観点で戦っていくと良いのではと思っています。すでに持っている技術や人材に、スタートアップが持つコンシューマーの目線を注入して、新しいコラボが生まれるといいなと期待しています」

参加者から「愛知県は閉鎖的なイメージがある」と声が上がると、「単純に閉鎖的というのではないと思います。お付き合いが始まるまでは長いけれど、絶対見捨てない、パートナーを大切にする、ものづくりはみんなでやる、そういった家族感があります」と粟生氏。野本氏の講演でも触れられていたが、文化・風習に合わせることは重要だという。その分、仲間意識が強く、責任者が変わったタイミングで機械的にパートナーも切られるといった憂き目にはあいにくいようだ。

「スタートアップが参入するとアツい分野は?」という質問に対しては、トヨタ自動車がMaaS戦略に取り組んでいることもあり、「すべてのサービスはクルマに乗るわけで、インフラが整っていく地域でできることは大きい」(藤田)、「ビークルの中で何をするか、その意味では不動産価値も変わっていく」(野本)というように、MaaSから波及して盛り上がっていくことに期待が寄せられた。

締めの言葉として各人からのメッセージを頂戴したところ、ロケーションハブである名古屋という街がいかに魅力的か、ビジネスとして底力・伸び代があるかが語られ、説明会参加者の表情を見る限り、少なからず愛知県への精神的な距離が縮まったことが感じられた。

取材を終えて

愛知県といえば「自動車王国」=トヨタグループというイメージが強いが、製造業などレガシーな領域こそテクノロジーを生かせる部分があることがよくわかった。品川―名古屋間を約40分でつなぐ2027年開業予定のリニア中央新幹線により距離が縮まることでハードルが下がり、新たな交流が生まれる部分もあるだろう。

名古屋駅近くにオープンする「なごのキャンパス」は、ベンチャー産業の中心地として期待されるが、どんなスタートアップが入居し、新しいビジネス、サービスが生まれるのか楽しみだ。

addlight journal 編集部  addlight journal 編集部