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「中期経営計画」白紙からの再構築。コロナ禍で経営トップが選択した新規事業 – Brave Changer #7イベントレポート

 addlight journal 編集部

2021年1月15日、弊社アドライトはイベント「Brave Changer #7 『企業の将来を創り出す、コロナ禍における新規事業への取り組み』」を、オンラインにて開催した。事業会社での新規事業創出を目指すイノベーターに向けたイベントシリーズであるBrave Changer。第7回目となる今回は、株式会社イーストの代表取締役・長島秀晃氏をお招きした。

長島氏は昨年からBX(ビジネストランスフォーメーション)の考え方を取り入れ、既存事業のアセットを利用した新規事業開発に注力すべく、社内変革に乗り出した。弊社代表の木村がモデレーターとして登壇し、同社がコロナ禍を超えてチャレンジする新規事業領域をテーマに長島氏の考えの本質に迫った。

株式会社イーストの成長の軌跡

株式会社イースト(以下、イースト社)は、大手総合ディベロッパーをクライアントとし、SC(ショッピングセンター)が多数作られてきた時代の業界の成長とともに事業を拡大してきた。SCの総合商社として顧客に寄り添い、全国に3,000あると言われている商業施設のうち、500施設との取引実績を持つイースト社は、以下3つのサービスを軸に事業を展開している。

イースト社が展開する3つのサービスの軸
  • オペレーション:日々の売上管理や家賃請求、電子マネーを含む決済管理などの運営・運用面を取り扱う
  • セールスプロモーション:集客面のサポート。最近は、WEBやサイネージといったデジタル領域に特化している
  • システム:商業施設に特化したクラウド型売上管理システムMallProを中心としたシステムの提供を行う

商業施設のシステム開発や運営オペレーション業務のアウトソーシングを担う同社は、ストック型ビジネスの特徴を生かし、1997年の創業から右肩上がりで成長を続け、現在は従業員数1,000名を超える企業となっている。

未来の事業性の担保をどう設計するか 

長島氏はイントロダクションとして「未来の事業性の担保をどう設計するか」について取り上げた。

コロナ禍に直面する中でも顧客に寄り添うというポリシーのもと要望に応え続けたことが成長につながった反面、新しい事業を創り出せていなかったことを課題として認識。弊社アドライトに相談のうえ、当初計画していた中期事業計画を一度白紙に戻し、ゼロから練り上げることを選択した。

はじめに、顧客のどのようなニーズにどの程度応えられているのか、改めて社内の現状を整理。次に外部に目を向けてみると、SCの市場自体が確実に縮小することが見えた。そのうえであらゆる経営数値を分析し、課題を洗い出し、中期事業計画において新たな3つの柱を設計するに至った。

  • 全社戦略①:既存事業からの獲得利益最大化
  • 全社戦略②:一歩先の商業・複合施設を見据えた新サービスの創造
  • 全社戦略③:ミッション遂行のモニタリングとアドバイスを行うガバナンス機能の強化

「既存事業で何が利益の最大化につながるのかを見極め、未来を見据えた新規事業に対して積極的に投資を選択しました。ただし、成長の見込みがないと判断した事業は見切るなど俯瞰的にミッション遂行を監視できるガバナンス機能の強化も取り入れました」と長島氏。

練り直した3つの全社戦略の概念図

さらに、新しい戦略を遂行するため、社員を部署横断でシャッフルする大々的な組織変更を行ったという。組織・陣容を大きく見直すことで、新サービス創造とガバナンス機能をビルトインした体制の構築を目指した。

大胆な組織改革に関しては、イベント後半の質疑でも視聴者から尋ねられた。長島氏は「周囲に納得してもらうためには課題感をできるだけ強く持ってもらうこと、そしてその課題にアプローチする社員のモチベーションを注視しておくことが必要です。組織変更において気を遣ったのは、何度も自ら、とくにマネジメント層の社員に対して課題感を語ったことです」と振り返りつつ、社員に対してそれを持ってもらうための工夫として「やりがいと働きやすさの確保に力を注いだり、ユニット制を導入して事業や組織に責任を持てるようにしました」とコメント。

既存事業領域の幅を太くし、面を拡大する

次に、既存事業の強化について触れた。

「新しい事業を進めたからといって既存事業が育つわけではなく、急な組織変更のもと迅速に機能させられるのかといえばそれも難しいはずです」と長島氏。だからこそまずは既存事業領域において、いかに利益を最大化できるのかを考えたという。

「そのために、他社とのコラボレーションでスピード感を持ち、既存事業領域をより拡大していくと決めました」と続けた。イースト社は、Alibaba Japanや17 media Japanをはじめとする、多くのテック企業とMallProを土台にしたコラボレーションの実施に成功。アフターコロナで必要となる拡張機能開発を進めてきたという。

イベント内でも7つのコラボレーション事例が紹介された。

「これらは全てお客様に寄り添う企業姿勢をもとにした取り組みです。一番の課題は、コロナ禍以降におけるテナントさんの売上をどのように改善していくのか。とくに従来のオフライン以外の売上創出という観点が鍵を握っていました。スピード感ある解決のためだからこそ、名だたるテック企業とのコラボレーション実現に漕ぎ着けられました」と長島氏。

コロナ禍において重要視していたことを聞かれると、「お客様に寄り添って何かをするという姿勢を失わないことが大事でした。我々のお客様は人を呼ぶのが仕事のひとつですが、コロナ禍でそれが難しくなり、お客様自体も変化を余儀なくされています」と述べている。ベースに顧客の課題というものがあって、それを解決していくうえで自社に足りないリソースを外部とのコラボレーションで実現していくということだ。

他にも、弊社アドライトが運営に関わる、大阪府主導のアクセラレータープログラム「スタートアップ・イニシャルプログラムOSAKA」にオープンイノベーションパートナーとして参加したことにも触れた。ここでもイースト社はスタートアップとのコラボレーションに成功している。「熱量や想いが似ているとトントン拍子に事業化が進んでいきやすいと感じた」とコラボレーションのコツにも言及。

スタートアップ・イニシャルプログラムOSAKAにおける取組事例

「コロナ禍においてはむしろオンラインで多くの企業と会いやすくなっています。だからこそどんどん自らが動いて企業の社長さんと直接会い、一緒にサービスをやろうと提案することを繰り返しました。そしてアクセラレータープログラムにおいてもひとまずプロトタイプを作ろうとスピード感にこだわりました。だからこそ実際のサービスインに繋げることができました」と成功の要因を分析。

また、コラボレーションを促進するための社内人材育成について長島氏は、会社が大きくなるにつれ通常の研修以外のプログラムを用意する必要性を感じていると述べたうえで、「アドライトの人材育成プログラムを通して、参加者はプログラム内容だけでなく、会社からの期待を感じ、会社への貢献意欲を抱いてくれました。プログラムに参加した社員が実際に他社とのコラボレーションに取り組み、実績を出してくれました」と回答。

実に多くの企業とのコラボレーションをたったの1年で実行に移してきたイースト社、ひいては長島氏の取り組みに、視聴者からも驚きの声があがっていた。

自らがサービスの破壊者となり、DX化による業務の再設計を行う

続いて、コラボレーションでの事業拡大と並行して実施された、DX(デジタルトランスフォーメーション)による業務改善についても話しが及んだ。

「未来でも自社サービスを守るためにどうすればよいか熟考しました。社会がますます変化する中においては、一度自分達でサービスを破壊し、DXによってフルモデルチェンジをしようと考えました」と長島氏。

そして「まずは運営モデルとしてあるべき姿を描き、これまで築き上げてきた人材資源やアウトソーシングのノウハウ、システムといったリソースを組み合わせて、お客様の組織改革と運営コストの最適化を図ることを打ち出しました」と続けた。

運営基盤再構築の概念図

具体的には申請書類・クレームの管理やレポートのフォーマット化など、今まで人を常駐させて行っていたような業務の多くをシステマティックにしつつ、どこでも誰でも見ることができ、管理できるような設計を意識。オペレーション・セールスプロモーション・システムの組み合わせによる新しい運営モデルを構築・提案したという。

構築し直した新たな運営モデル

オリジナルサービスにより、ニーズを顕在化させ、市場を席捲する

最後に、イースト社の未来を切り開く新規のオリジナルサービスの開発を取り上げた。

長島氏は、イースト社が今後事業領域を拡大したり、SC領域外に範囲を広げるにはどうすればいいか?これから先商業施設はどうなっていくのか?といった問いを立てたうえでこう述べた。「商業施設はこの先衰退していくと感じている人も多いと思います。とはいえ私はリアルの場が持つ力をまだまだ信じています。リアルの場があるからこそオンラインが生きていくと思います」

さらに、「OMO(Online Merges with Offline)の作り方もリアルのものを基にした発想を持ち、まずはサービスインフラを整備してお客様に提案を行っていきます。そして体験価値を味わう場所としての商業施設において、いかにしてリアル以外での集客や売上確保をしていくのか考案していきたいです」とし、リアルとオンラインの融合に対する考えを展開。

日本では研究段階というデジタルツインの考え方を建物やエリアに導入し、ハード依存のもののデータを活用し、商業施設やまちづくりに組み込んでソリューションとして提供することへも言及。

具体的には、イースト社のスーパーシティ構想への参画や、新たに立ち上げたSC特化型情報共有のメディアサイトSC networkの事例をふまえ、新たなオリジナルのサービスを自社のノウハウと強みを生かしつつ、フィールドを変えることで何ができるか検証しながら実行に移しているという。

取材を終えて

イベントを通して感じたことは長島氏の丁寧かつ大胆な取り組み姿勢だ。突如現れたコロナウイルスの社会への影響や、将来の市場の可能性を冷静に見極め、やると決めたら大きく実行に移している。

前向きで感謝を忘れないマインドセットも見逃せない。お客様に対して徹底的に寄り添う姿勢が垣間見えた。

最後に、コロナ禍において経営者として大切にしていることを問われた際の回答にもぜひ触れておきたい。「明けない夜はないという意識を常に持っています。必ずやまた素晴らしい世界が待っています。未来だけ見て生きていこうよ。そしてそれは必ずや楽しいものです」

 

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事業変革のための戦略策定と社員育成による中期計画の立案実行をサポートー 株式会社イースト

資金調達時に知っておきたい、スタートアップと出資側間の対立点

addlight journal 編集部  addlight journal 編集部

1月10日、愛知県主導のアクセラレータープログラム「Aichi Open innovation Accelerator」連動企画のイベント「公認会計士、弁護士、証券取引所が教える『資金調達の留意点』」をなごのキャンパス(愛知県名古屋市)にて開催した。ゲストに株式会社名古屋証券取引所 営業推進グループ チームリーダー・大澤誠氏、弁護士法人小山・古澤早瀬 弁護士・古澤仁之氏、税理士事務所 公認会計士・税理士 前田勝己氏をお招きし、最適な資金調達の仕方や調達後のリスク等について解説してもらった。

Aichi Open innovation Acceleratorとは?

愛知県は製造業に強みを持ってきたが、CASEやMaaSの進展、Society5.0の到来により、今後その産業構造や競争環境が大きく変わることが予想されている。そこで、愛知発スタートアップの土壌を醸成し、産業の新陳代謝を活発化させることを目的に「Aichi-Startup戦略」が立ち上がった。

愛知県 経済産業局 次世代産業室 室長補佐・山田英明氏

愛知県 経済産業局 次世代産業室 室長補佐・山田英明氏

本プログラムはその一貫として、IoTやAI 等の技術を有するスタートアップを愛知県内外から誘致し、個別の短期集中支援や、資金獲得・事業提携等につなげるための場を提供している。弊社・株式会社アドライトは委託事業者として企画・運営を担っている。

IPOは狭き門

大澤氏は、1991年に名古屋証券取引所に入社。2004年からは新規上場促進の担当者としてIPO候補企業に対し誘致活動を行い、年間100社以上の未公開企業と接触している。講演では、最近のIPO事情やスタートアップにとっての理想と現実について触れた。

大澤氏によると、2019年のIPO社数は86社。多少の変動はあるが、2014年頃から大きく変化はしていないという。これはライブドアショック(2006年)やリーマンショック(2008年)以前のIPO社数の半分程度になる(2004年175社、2005年158社、2006年188社)。このマーケット環境はまだ続くと大澤氏はみている。

株式会社名古屋証券取引所 営業推進グループ チームリーダー・大澤誠氏

株式会社名古屋証券取引所 営業推進グループ チームリーダー・大澤誠氏

「上場を希望する企業は毎年1,000社程度ではないかと推測しますが、そのうちIPO達成は1割程度。お金をかけて準備してもできないケースは沢山あります」(大澤氏)

2019年の新規上場会社の項目別分布を見てみると、様々な特徴が見えてくる。まずは「売上規模が小さい」。IPOを果たした企業のうち、売上20億円以下が40%、50億円以下の企業が67%を占める。

また「赤字での上場」も16社にのぼる。全IPOのうちの18%、マザーズに限れば25%にもなる。「これだけの赤字上場は見たことがありません。規模が小さく債務超過でもエッジの立ったビジネスモデルを展開する企業が上場してきています」と大澤氏。Sansanやfreee、ランサーズも該当する。

さらに初値時価総額に着目すると、50億円以下でIPOした企業は13社と、全体の15%程度。一方、300億円より大きい初値時価総額で上場したのは17社であった。子会社上場が増えていることも最近見られる傾向という。

このような環境においてスタートアップはどのような資本政策を考えれば良いのだろうか。「資本政策の最適な時期は正直分かりません。企業によって異なります」と大澤氏。昨今IPOまで至る情報・通信業、サービス業以外では高いバリュエーションがつきづらい。「Exitが求められることを理解したうえで外部資本調達を行うべきであり、もしおこなったならIPO以外のExitも検討することが重要です」と締めくくった。

 

スタートアップと出資側間でトラブルに繋がりやすい7つの齟齬

「これまで見てきた様々な事例、特に失敗例から『転ばぬ先の杖』としてお伝えします」。20年以上にわたり、弁護士としてスタートアップの支援に取り組んできた古澤氏は、資金調達側と投下側(VCやCVC、企業、個人投資家)との利害の対立点のうち、特にトラブルに繋がりやすいという7点に触れ、資金調達をするうえでの大事な心構えを語った。

以下は、弁護士が投資契約書のリーガルチェックで注目するもので、資金調達側と投下側が揉める点という。

(古澤氏の講演資料を基に作成)

ここでは対立点1、2、5について紹介したい。

・対立点1「株式の上場」

契約書の終わりないしは初めに「甲と乙は相互に協力して、株式の上場に向けて最大限の努力を」といった文言が書かれていることが多いが、「投資契約書を受け取ったら真っ先に見て欲しい項目」と古澤氏は言う。

資金投下側は「株式の上場を契約書で確約できないのは分かる。でもIPOに向けて『最大限』努力してね」という想いで資金を投じるが、資金調達側は「努力は結果の保証ではない」と資金を受け入れる傾向にある。このような思惑の対立を意識して、資金調達側が投下側の期待に応えようとする姿勢がないと揉めてしまう場合があるので注意が必要だ。

・対立点2「表明保証」

資金投下側は、基本的にデューデリジェンスを行い、事業のリスクを見極めたのち投資するが、全てを評価し尽くすのは難しい。そこで「表明保証」を求める。表明保証とは「契約時の記載事項と提出書類が正しいことを証明するもの」だ。資金調達側はできる限り不都合な事実を隠しておきたいのが本音と言えるが、後々発覚すると「契約違反だ。株を買い取ってくれ」と揉めたり、賠償請求をされたりする事態につながる。実際このケースは非常に多いという。

・対立点5「事前承認事項」

「『報告』と『承認』は質的にまったく異なります」と古澤氏は言う。前者は事後で伝えることで十分だが、後者は事前に許可をとる必要がある。仮に承認をとった証拠がなければ、契約違反の証拠ができることになる。そのため経営の自由度が大きく低下する。弁護士は、資金投下側が事前承認事項をどれくらい契約書に盛り込んでいるかを見て「どれくらい資金調達側を疑っているか」を判断することもあるそうだ。

以上のような思惑の対立がトラブルに繋がることが多いことを踏まえ、古澤氏は「資金調達側の心構え」を次のように述べた。

弁護士法人小山・古澤早瀬 弁護士・古澤仁之氏

弁護士法人小山・古澤早瀬 弁護士・古澤仁之氏

  • 目標に到達しない限り投資契約の目的を達成できないと決意して
  • 不利な事実こそ、事前に、誠実に開示
  • 重要なステークホルダーが経営に参画して当然という意識を持って
  • 株主の立場から見て重要な経営判断は事前に相談
  • 経営にあたる役員・従業員が協調し、人の和を大切にして
  • 最悪の場合は株式を買い取るが、それは恩返しにならないと覚悟する

外部資本調達は決して気楽に行うべきものではないことの怖さが伝わる講演だった。

 

健全な経営を実現するための「誠実な情報開示」

前田氏は大手監査法人で20年ほど勤務した後、3年ほど前に独立。現在は公認会計士としてスタートアップの社内監査役や上場準備のコンサルティングに取り組んでいる。講演では、古澤氏同様に資金調達側と投下側の利害対立関係について言及したうえで、資金の受け手であるスタートアップが「誠実な情報開示」をすることの重要性を話した。

バリュエーションにおいて高い企業価値をつけて欲しいスタートアップは「『業績が順調で資金も潤沢にある会社だ」と強気でアピールする場合が多い」(前田氏)というが、資金が底をつきそうな部分を隠していることも多い。そのような事情があることは資金投下側も十分に理解しているため、「強がらなくて良いですよ」と前田氏は言う。

資金投下側はリスクを負って出資してくれている存在であり、スタートアップにとってパートナーのような存在でもある。しかしながら、スタートアップの開示姿勢と開示内容に対して疑心暗鬼になることも多いという。「ルールに則った誠実な情報開示を行って利害対立を防ぎ、資金投下側との信頼関係を構築していくことは、スタートアップが健全な経営を行っていくうえで非常に重要です」と前田氏は話す。

そのためには、開示内容と姿勢の両方が重要だ。バリュエーションにおいて、企業価値は実際の価値よりも大きく評価される。これは、将来計画に基づき評価された無形の財産 (のれん) の分だけ高く評価されているためである。

税理士事務所 公認会計士・税理士 前田勝己氏

税理士事務所 公認会計士・税理士 前田勝己氏

それを資金投下側は分析しないといけないが、資金投下側にとって情報は非対称的であり、ソースは限定的だ。資金調達側であるスタートアップが説明責任を果たすためには、会計や税務の基準に則り情報を開示することが重要になる。前田氏は「知識不足により、結果的に粉飾まがいなことをしている企業もよくみる」と前置きしたうえで、「実態を表していない財務諸表では、説明責任は果たせていません」と強調した。

また、開示する姿勢も重要である。経営者の中には本業で忙しく、財務や会計については外部の税理士事務所などに任せきりになっている方も多い。しかしこれも説明責任を果たしているとは言えない状況だ。企業の状況について経営者が自分で資金投下側に説明できる必要がある。

出資を受けた以上、誠実に情報を開示するのは義務である。そして、それは結果的に資金投下との利害対立の解消にも繋がる。前田氏は最後に改めてこの点を強調し、講演の幕を閉じた。

 

講演の後には、講演者3名によるパネルディスカッションと質疑応答、ネットワーキングが開催された。資金調達の難しさや奥深さ、そこに伴う責任の重さを学ぶことができた会であったのではないだろうか。当イベントが、スタートアップの健全かつ効果的な資金調達実現の一助となったのであれば幸いである。

スタートアップも選び選ばれる時代―デンマークのインターン事情

小林 里紅  小林 里紅

デンマークと聞いて何を思い浮かべるだろうか?キャンドルの明かりや「Hygge(ヒュッゲ)」だろうか。日本から見ると、幸せな国の印象が強いが、スタートアップ支援の手厚い国の一つでもある。去る2月28日、デンマークのコペンハーゲンビジネススクールで行われた 「50 startup pitch 200 student-jobs and internship」もその一環ともいえる。

学生が1,000人集う、インターンのためのスタートアップピッチ

50 startup pitch 200 student-jobs and internshipはインターンの募集を目的として開催されたもので、ピッチだけで22社、展示を合わせると50社のスタートアップが集結。参加生徒は1,000人にも上り、当大学に所属していない生徒も集う大きなイベントとなった。ピッチの参加企業の内訳はHealthTech 7社、FinTech 3社、顧客サービス系統3社その他9社。展示部門では国連採択の「Sustainable development goals(SDGs)」に注目したスタートアップも多数展示を行っていた。

中でも特にユニークだった4社を紹介したい。

従業員に企業クレジットカード配布で支出一元管理「Pleo」

50 startup pitch 200 student-jobs and internshipで使用した資料より掲載 © Pleo

50 startup pitch 200 student-jobs and internshipで使用した資料より掲載 © Pleo

Pleoは企業の支出を一括管理するサービスを提供している。従業員に制限付き企業クレジットカードを配布することで、企業内の支出の透明化や領収書の紛失といった金銭問題を解決する仕組みを作り出した。脱現金社会を果たし、クレジットカードが使えないところはほとんどないデンマークならではのソリューションである。

 

簡単かつ高セキュリティな署名システムで「Penneo」

デンマークでは国民全員に「CPR」という10桁の個人を識別する国民IDが付与され、ネットバンキングやクレジットカード、携帯電話、法的署名などを管理している。ほかにも電子署名システムがあるが、開始当初はセキュリティがそこまで強固なものではなく、処理にも時間を要していた。そこに目をつけたのがPenneoだ。PenneoはCPRを使った安全な電子署名システムだ。例えばオンラインで飛行機のチケットを購入するにあたり、CPRの番号、パスワード4桁、ワンタイムパスワードを入れ、CPRのシステムにログインすることで署名が完了し、支払者がカード保有者であることを確認する。

加えて、従来の電子署名は個人署名のみに使っていたが、Penneoを使うことで、企業での署名にも流用できるように。これにより、紙ベースでの契約にかかる管理の手間や資源の削減が大きく見込まれ、社内の効率化も期待できる。デンマークだけではなく、ノルウェー、スウェーデンの国民電子IDでも可能とのこと。

 

志は行動に落とし込んでこそ達成できる「2030Builders」

2030Buildersは、国連採択の持続可能な開発目標(SDGs)に向けて企業をサポートするシステムを提案する。SDGsは貧困や環境問題をはじめとする17のゴールと169のターゲットが設定されており、2030年までにすべての国で目標を達成を目指していくことになる。そうは言うものの、一企業で見た場合どこまで取り組むべきかわからないというのが正直なところだろう。2030 buildersが行うのは、そうした企業とSDGsとの関係分析かつ持続可能な企業の成長戦略の提供だ。環境税を推進するほど環境への配慮の意識が高く、SDGs指標世界ランキング2位のデンマーク(SDG INDEX AND DASHBOARDS REPORT 2018より。日本は15位)らしいスタートアップだ。

 

続ける楽しさを見出す「Brain+」

認知症や事故による脳の認知機能低下の対処として作業療法や音楽療法、リハビリテーションなどあるが、モチベーションが続かず挫折する人が一定数いる。Brain+はゲーム、AI、アプリそして病院とのコラボレーションにより、この課題に取り組んでいる。彼らが提供するアプリは大きく分けて二種類。子供向けの能力開発の”enhance”とリハビリや認知症予防目的の”recover”だ。どちらもAIによって使用者の状態を分析し、最適な難易度のゲームを提供する。さらに使用者が自身のデータを見ることができるためモチベーションを保ち続けられるという仕組みだ。アプリはAndroid、iOSに対応している。

 

働く環境もインターン選定の大事な選択肢のひとつ

「『従業員を成長させ、他の企業から羨ましがられる人材にする。』その言葉でオファーを受けることにしました」
そう語ったのは、コペンハーゲンビジネススクールのオーストリア人大学生だ。イベント終了後、彼女は登壇したスタートアップのうち二社に応募。いずれも採用となったが、社内のソーシャルアクティビティが多く、本格的な業務を任せてもらえるスタートアップで働くことにした。断った一社より賃金は低いが気にしていない。「スタートアップでの経験を通して自分を成長させたいのです。働くなら、やりがいのある仕事をしたいから」

Penneoのフライデーバーのもよう © Penneo

50 startup pitch 200 student-jobs and internshipで使用した資料よりPenneoのフライデーバーのもよう。© Penneo

ピッチしたスタートアップを振り返ると、会社概要や提供サービス、依頼したい業務内容の紹介以外に、朝食やコーヒーなどがついていたり、フライデーバーや社員旅行のような交流の場を設けていたりといったように、働く環境のよさを打ち出す企業が複数見受けられた。これもワークライフバランス部門世界5位のデンマーク(より良い暮らし指標2017(OECD)より。日本はワースト3位)といえるアピールの仕方で、学生にとってはインターン先選定の大きなポイントともいえるだろう。

 

考察

今回のイベントはヘルスセクターが多かった。デンマークは国民電子IDを通して個人情報を管理するため、患者の情報が病院とのコラボレーションを通して得やすく、サービス等の立ち上げに一役買っているのではないかと思われる。実際、コペンハーゲン首都圏地域の投資促進と経済成長を目的とした公的機関・Copenhagen Capacityによる「Living Healthtech Lab 」では、遠隔医療、e-ヘルス、支援技術、在宅ケア、デジタルヘルスケア分野でのイノベーティブソリューションに焦点をあて、イノベーターを支援している。デンマーク政府も3月に「AI国家戦略」を打ち出し、AIを役立てる分野の一つとして医療を挙げている。

ピッチでこそ働く環境のよさが目立ったが、募集要項には応募条件が細かく書かれており、インターンにもそれなりのものを求めていることが見てとれた。労働市場の競争が激しいデンマークでは、就活時の募集要項欄に常に「○○年以上の実務経験要」と書かれている。それで学生達はインターンシップを行うことが多い。さらに筆者の通うコペンハーゲン専門大学もだが、大学そのものがカリキュラムにインターンシップを入れることも珍しくない。即戦力として社会に迎え入れてもらうための準備はすでに始まっている。

地政学も影響―イノベーションとテクノロジーの発展目覚ましい黒海周辺

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10月29日、株式会社アドライト主催のもと、海外のオープンイノベーションやトレンドをキャッチアップするイベント「Trend Note Camp 19 未知なる黒海周辺スタートアップ~トルコ、アルメニア、ジョージア、ウクライナ~」をFINOLABにて行った。
ゲストスピーカーにJETRO イスタンブール事務所 経済部長(産業調査員)の廣瀬浩三氏を迎え、トルコを中心に黒海周辺のスタートアップ、スタートアップエコシステムについてお話しいただいた。

黒海と言われてどのようなイメージを抱くだろうか。廣瀬氏は黒海周辺になにか明確なイメージを持っている日本人はそう多くなく、ほとんどの人にとってはまさに文字通り「黒く」、よくわからない地域になっているのではないかという。トルコやウクライナ、ジョージアを巡っては、紛争やテロのニュースもあり、なんとなく危ないような気がする、といったイメージを持つ方も少なくないのではないだろうか。

ところが、黒海周辺はビジネスの広がりという意味では、高いポテンシャルを持っている地域でもある。
例えば廣瀬氏が拠点とするイスタンブール。ロンドン、パリ、ベルリンの欧州から、テヘラン、ドバイ、リャドの中東、スーダンなどのアフリカまで各方面へ片道4時間以内というアクセスの良さを持つ。東京で4時間以内となるとソウル、北京、上海、台北あたりが限度だが、イスタンブールからカバーできる範囲としては56ヵ国、総人口にして16億人にもなるという。

JETRO イスタンブール事務所 経済部長(産業調査員)・廣瀬浩三氏

JETRO イスタンブール事務所 経済部長(産業調査員)・廣瀬浩三氏

イノベーション加速の地・トルコ

そんなアクセスの良さを活かして開催されているトルコのスタートアップイベント“Startup Istanbul”には、140ヵ国22,000社からの応募があるというトルコ国内よりもできるだけ海外からの参加チームを増やそうとしているだけあり、最近では、入賞者はアルジェリア、パレスチナ、インドネシア、スウェーデン、レバノンなど様々な地域から選出されているという。

10年ほど前までトルコは欧米プロダクトのトルコ版ばかりだと揶揄されていたが、現在ではEコマースやモビリティ、ゲーム、ヘルスケアなどジャンルも幅広くなっている。特に流行っているのはFinTech。イスタンブールは銀行が多いため、FinTechを用いたソリューションを活用しやすいのだとか。

Eコマース市場には若年人口層の厚みやロジスティクス、決済手段の3つが必要な要素と言われているが、トルコは新興国の中では珍しくそれらがすべて揃っているという。人口の9割がインターネット、7割がモバイルでインターネットを利用し、国内の物流は国の端であっても3日もあれば物が届くという環境にある。

2014年PayPalが発表した、1年間のスマホ経由でのショッピング実態調査によると、トルコやUAE、中国といった国が上位を占めた。高齢化が進んでおらず、スマホネイティブな新興国に分がある結果としながら、クレジットカードの普及率81%も手伝い、同国でEコマースが注目を浴びているのは納得と言えるだろう。

またトルコ国内だけでなく、欧米でのトルコ系移民の存在感も大きいという。欧米市場を狙ったサービスのひとつ、オンライン学習サービスのUdemyはシリコンバレー発のサービスだが、ファウンダーはトルコ人だ。

政府の支援も充実してきており、証券取引所にディールルームを作ったり、テック系ベンチャー創出の相談窓口を設けたりしている。賛否両論あるが、若者のシリコンバレー進出を推奨し、シリコンバレーにもトルコ政府が支援する拠点を設けているという。

未完成だからこそ注目!黒海スタートアップ市場

日本と比較すると、トルコへの投資金額は10分の1~20分の1程度と決して多くはないが、M&Aは700億円規模と大型なものが多い。この点について廣瀬氏は、リーマンショック前の2001年に経済危機が起きたことによる構造改革での経済成長を挙げた。加えて、国内のスタートアップエコシステムが未成熟でもeBay、デリバリーヒーロー、アリババ等、全体的に海外からの投資が多いことも背景にあるとした。

ただし、トルコのエコシステムは必ずしもグローバルなスタートアップ企業に優しいわけではないという。海外の企業となるとローカライズの規制があり、満足に活動できず撤退せざるを得ないというケースもあり得るのだ。

例えば、前述したPayPalは2016年にライセンス停止処分を受け、トルコから撤退した。Uberはタクシー業界の圧力を受け利用禁止に。今でもサービスは続いているが、代わりにJapanTaxiのようなBitaxiを国内スタートアップが提供開始しているという。トルコはプラットフォーマーを排除する姿勢を貫いているわけではない。税制面やデータのローカライズ面においての自由度はアメリカほど高くないが、EU加盟を目指しているだけあり、EUの水準と同等のルールを特にFinTech界隈で設けているそうだ。

GoogleやFacebookのような巨大プラットフォームも基本的に利用可能だ。海外を経由して注文しなくてはならなかったAmazonも2018年よりトルコ国内でサービスを開始した。Wikipedia等の閲覧規制問題があるとはいえ、海外のサービスで使えないのはPayPalくらいだという。海外のジャイアントの参入が防がれることで独自のスタートアップが深化する余地もありそうだ。

こうした状況から海外からの投資を元手にEXITを果たした第一、第二世代のスタートアップが投資サイドに回り始めてもいるとし、徐々にトルコ国内のスタートアップエコシステムが成長してきていることを語ってくれた。

汚職イメージをブロックチェーンで払拭・ジョージア

ジョージアの位置するコーカサス、またカスピ海を挟んで東側の中央アジア地域は、ブロックチェーンが盛んだという。最近では、ウズベキスタンでは政府システムをブロックチェーンに統合することが決定し、キルギスでも特許記録をブロックチェーンで記録するという発表があった。

廣瀬氏曰く、ジョージアでも政府の公共サービスでの活用を試みており、街中のショッピングセンターには仮想通貨のATMが設置されているという。内戦や革命の際、土地の登記が無茶苦茶になった経緯もあり、ブロックチェーンの透明性、安全性への理解が得やすかったという背景もある。透明性を重視していることの象徴として、廣瀬氏は市民ホールもガラス張りのオープンな環境にしていることも教えてくれた。同時に、マイニングに必要な電力の料金が安いことがブロックチェーン関連の企業を引き付けている。

投資需要としてはトルコの半分程度ということでまだまだ発展段階にあるが、これからのトレンドであるブロックチェーンを実装している点などにポテンシャルを持つ。

世界有数のエンジニア大国・ウクライナ

元々はソ連の航空宇宙系などのエンジニアを多く抱えており、技術大国とも呼べるウクライナ。ヨーロッパやイスラエルのIT関連のアウトソーシングを引き受け、そこからスタートアップに転換したという背景もあるため、優秀なスタートアップを数多く輩出している。

例えばWhatsAppやPayPalの共同創業者はウクライナ人であったり、Snapchatに買収されたセルフィー用フィルターを開発したLookseryもウクライナ出身のチームだ。IT以外の産業からIT部門へエンジニアが流れた結果、優秀なエンジニアに恵まれた国となった。

サムスンのR&Dセンターもウクライナに拠点を設け、革命の混乱の最中にも維持することを決断した。これはウクライナ人の優秀さから撤退するに撤退できなかったという逸話があるほど。現に、サムスンの社内で行われるコンペティションでは、ウクライナ人とインド人が必ずと言っていいほど上位に残るのだという。

最近では、スタートアップと言えば、イスラエルというのが定着した感があるが、イスラエル国内は実際にはIT技術者のヒトで不足が生じており、商売上手なイスラエル人に対し、ウクライナ人は技術力で勝るため、イスラエルのスタートアップがウクライナに外注するというケースも少なくないのだとか。

IT教育・優遇政策でエコシステムを育成―アルメニア

ウクライナと共に技術力が高かったとされるアルメニア。そのポテンシャルは、かつてソ連のシリコンバレーと呼ばれるほどだという。しかしまだまだ投資額もスタートアップの数も少なく、発展途上の段階にある。

そんなアルメニアの強みは教育基盤の強固さ。小学生~高校生を対象にプログラミング、デザインといったIT教育をほぼ無料で行うというTUMOセンターは最たる例だ。センター内にはMacが揃い、Adobeをはじめとしたソフトウェアが一通り使える。映画上映会のような形でアウトプットの機会も創出している。子供にとっては楽しみながらIT教育を受けることができるというこの上ない場所になっているのだ。

まだまだ輩出数は少ないが、ITスタートアップに対する投資環境も海外に離散するディアスポラの支援もあり整いつつあり、全世界5億DLを誇る画像編集アプリPicsArtはアルメニア発。同国のIT企業・MAIAが運営する、ブロックチェーンを用いたメディアとして期待されているPUBLIQもその1つ。今後もさらに有望なスタートアップが増えることが予想される。

「(サウジアラビアやトルコリラの暴落など)地政学的・経済的なリスクはあるものの、逆境の時こそスタートアップは生まれるのではないでしょうか」(廣瀬氏)

関係は良好でも、日本企業が黒海周辺への投資に二の足を踏む理由

廣瀬氏によるこれまで見知ったことのない内容の解説にオーディエンスから質問が多く飛び交った。

日本との関係を聞かれると、「今は、インターネットの普及もあり、アニメや技術のイメージが先行しており、いずれの国も良好」と廣瀬氏。日本企業に投資をして欲しいという意欲に変わりはないものの、トルコ以外のアルメニア、ジョージア、ウクライナに関しては、日本に対し売るものがあまりないという課題があるという。

日本企業の黒海周辺への進出具合にも偏りがある。モノづくり系企業や商社を中心にトルコをヨーロッパの生産拠点として近隣諸国、中央アジアやアフリカの市場を狙う一方、ジョージアやアルメニアにはそれがほとんど見られない。ウクライナにはかろうじて一部メーカーが進出しているものの、販売系の企業に限られているという。背景に、トルコ以外の黒海周辺の地域はロシアの影響が大きく、領土の主張が入り乱れている点、政治や民族等複雑でややこしい部分が少なからず影響しているようだ。

「スタートアップエコシステムが未完成のTier2、Tier3ともいえる国や地域に目を向けていき、シードから育てていくという意識が必要になってくるのではないでしょうか」とイベントを締めくくった。

addlight journal 編集部  addlight journal 編集部